アウトソーシング市場が動いている。中でも,ITバブルの崩壊でしぼんだかに見えたASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)や,周辺作業を含めて請け負うBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)といったサービスが伸び出した。

 調査会社のミック経済研究所によれば,日本のITアウトソーシング・サービス市場は2003年度に3兆9375億円が見込まれ,2006年度までは平均年率7.7%で伸び5兆2000億円弱になる。そのうちASPを含むアプリケーション・アウトソーシング市場の平均伸び率は20.2%,BPO市場は同28.7%と,市場の牽引役として期待されている。

 そして,最近元気なASPなどを取材してみると,中堅・中小企業を主な顧客層に持つ中堅・中小のソリューションプロバイダにこそ,アウトソーシング事業に乗り出すチャンスが拡がっているとの思いを強くした。その理由は(1)ITサービスの“部品化”が進んでいること,(2)ブロードバンド環境の広がりで,一般消費者向けサービスの需要が高まっていること,(3)人月ビジネス脱却の契機になること,などだ。

ASPサービスの部品化が進み,中堅・中小ベンダーにチャンスが拡がる

 ASPサービスが最近伸びている最大の理由は,ASPをITサービスの“部品”ととらえる見方が広がっていることだ。差異化が難しいデータ・センター事業者などが,サービスの協業によって付加価値を高める戦略を強めているからだ。

 CRCソリューションズの松田欣也データセンター事業部ネットワークソリューション部部長は「サービスプロバイダとして“顧客ニーズありき”で取り組めば自社単独にはこだわっていられない。特に,高付加価値サービスをすべて自前でそろえるのは非効率だし得策ではない」と話す。

 実際,CRCは,戸田建設に提供しているネットワーク・サービスに指紋認証を使ったモバイル対応機能を追加する際に,競合相手でもある京セラコミュニケーションシステム(KCCS,京都市,森田直行社長)と組み,両社のデータ・センターを直結することで新サービスを生み出した。同様の観点から,シングル・サインオン機能やディレクトリ機能,EAI(エンタープライズ・アプリケーション・インテグレーション)機能など,ミドルウエア的なITサービスも増えている。

 第2の理由の1つであるブロードバンド環境は今や,大企業より中堅・中小企業のほうが身近な存在だ。ADSLや光ファイバなど個人やSOHO(スモール・オフィス/ホーム・オフィス)用サービスの競争が激しいからだ。地方にはブロードバンド環境が貧弱な所もあるが,中堅・中小企業も最近は海外進出も珍しくなく,中には「このままならブロードバンド環境が整った海外拠点に本社を移した方が良い」と考える経営者もいるという。

 そうした経営者は,これまでの下請けから脱し,自社ブランドでの市場開拓に乗り出す企業に多い。下請け時代のIT投資対象が生産管理など“内向き”なのに対し,自社商品をもった企業の投資対象は顧客対応のコール・センターやEC(電子商取引)サイトなど“外向き”になる。

 ところが,ECなど不特定多数を相手にするシステムは基幹系中心にビジネスしたい大手ベンダーには“不得手”な分野。同分野ならベンチャー企業が比較的成功しているのは,そのためだ。事実,KDDIのISP(インターネット・サービス・プロバイダ)事業DIONが提供するニュース配信サービス「DIONヘッドラインバー」は,ベンチャーのイーヘッドライン(東京都新宿区,山下寿也社長)がASPサービスとして提供している。

 また,個別店舗型のEC(電子商取引)サイト機能をASPで提供するインターネット開発研究所(IDi,広島県福山市,井上一成社長)は,これまで楽天などに代表されるモール型サイトからの乗り換え組を確実に顧客に取り込んでいる。井上社長は「昨年から顧客が増えてきた。モールへの出店でECの可能性の大きさに気付いた企業が,顧客情報をより活用するために独自運用に動いている」と明かす。特定分野に特化しやすいの中堅・中小ベンダーこそのノウハウや,小回りの良さをサービス化することが顧客獲得につながっている。

ITサービス料金の基準は価値,人月コストは隠ぺいできる

 そして,ITサービス化することの最大のメリットは,人月単価を基準にした価格競争から脱却できることだ。サービスを生み出すためのソフトの設計や開発に誰が何人かかわったかは顧客に見えないし,複数企業に同じ仕組みでサービスするのだから,エンジニアの稼働効率も高くなるからだ。実際,外食チェーンの売り上げ管理や食材発注などのASPサービス「まかせてネット」を展開するジャストプランニングは現在,たった27人の社員で140社2000店舗の顧客にサービスを提供している。

 人月ベースの料金体系では,どれだけ優秀な人材でも,市場相場に引きずられ単価が下がるのが現状だ。ITサービス化することで事業者は初めて,製造業が進めてきた「カイゼン」活動に取り組める。IIJテクノロジー(東京都千代田区,鈴木幸一社長)の菊池武志専務営業統轄本部長によれば「今は,小規模なサーバーを複数台並べて個別にサービスするほうが価格性能比が高い。自動化ツールなどによる効率化だけでなく,運用体制を含めた全体最適化が図れるかどうかが勝負になる」。

 ITサービスは既に,関連する周辺業務までを含めたBPO型サービスへの姿を変えつつある。例えば,先のIDiはECサイト機能のASPだけでなく,一般消費者向け懸賞やアンケートの企画,メール・マガジンの作成など運営/マーケティング代行までサービスする。同サービスの料金はサイト売り上げの5~10%という成果連動型で,人月とは無関係だ。先端ITに焦点を当ててきたIIJテクノロジーも,全国にパソコンを配備する際に発生する現場での設定や,エンドユーザーの移動に伴うアカウント登録といった“作業”込みのサービス開発を急ぐ。

 そして何よりも,最新のITサービスを受け入れやすいのも実は,大企業よりも伸び盛りの中堅企業だということが,中堅・中小ベンダーには朗報だ。IIJテクノロジーはITサービスを武器に全面アウトソーシングを狙っているが,これまでに全面再構築を請け負ったのは,従業員数600人の中堅企業からの1例だけ。大企業ほど情報システムのアーキテクチャがバラバラで,新サービスを組み合わせたり移行したりするのが難しいためだ。

 中堅・中小ベンダーは本来,IT関連人材が不足している中堅・中小企業にとってのアウトソーシング・サービス提供者だったはずだ。それが,オープンシステム化が進む中で,技術に強いだけの専門家になり過ぎたのではないか。身近にアウトソーシングを求める顧客がいるのだから,少人数だからこそのオーバーヘッドの軽さを武器にすれば,高品質なサービスを安価に提供することも可能なはずだ。その時,ITサービス産業は物売り,人売りから脱却し,本当の意味での“サービス事業者”になる。

(志度 昌宏=日経ソリューションビジネス編集)