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記者の眼

知的所有権を巡る理念なき暴走――SCOのLinuxユーザー提訴を考える

高橋信頼 2004/03/08 ITpro

 「米SCO Groupの訴訟などを見ると,知的所有権が,本来の目的を離れて暴走していると言わざるを得ない」――。知的所有権やコンピュータ法を専門とする弁護士の岡村久道氏はこのように警鐘を鳴らす。

 知的所有権の本来の目的は何だろう。基本的には,発明者・創作者と利用者の“双方”に利益をもたらし,産業や文化,社会の発展に寄与する仕組みであるはずだ。しかし,SCOの訴訟などは「なんら新しい価値を生まない。一方が他方から収奪するだけのゼロサム・ゲームと化している。むしろ,経済全体を萎縮させる」(FSIJ:フリーソフトウェアイニシアティブ 副理事長の鈴木裕信氏,同氏の講演資料)。

 これまでSCOが主な争点としてきたソフトウエアの「著作権」とともに,ソフトウエアの「特許」の問題も重要だ。例えば,米Eolas TechnologiesがMicrosoftを訴え,5億ドル超もの支払いを命じる陪審決定を勝ち取ったWebブラウザのプラグイン技術に関連する特許を巡る裁判は記憶に新しい(関連記事1関連記事2)。

 こうした知的所有権を巡る争いは,IT関連企業の間だけにはとどまらない。IT関連の技術やソフトウエアを利用するユーザー企業にとっても深刻な問題である。それを再認識させられる“事件”が先週起きた。SCOが米国時間3月3日,初めてLinuxのユーザー企業(DaimlerChryslerと米AutoZone)を提訴したことを明らかにしたのである(関連記事1関連記事2))

 SCOによる一連の訴訟を振り返りながら,改めて知的所有権の本来の目的や,知的所有権の“暴走”が招く危うさを考えてみた。

指摘されるSCOの主張の弱さ

 一連の訴訟の発端は2003年3月,SCOが権利を持つUNIXのコードをLinuxに流用したとして米IBMを提訴したことだった(関連記事)。2004年に入ってからも,UNIX著作権の主張を巡って米Novellを提訴している(関連記事)。

 SCOは,これまでもユーザー企業を提訴する可能性について何度も言及しており,米HPや米Red Hat,米NovellはSCOの訴訟に対して訴訟費用を援助するなどの制度を設けている(関連記事1関連記事2関連記事3)。また,オープンソース普及団体のOpen Source Development Lab(OSDL)は,SCO社により提訴されたLinuxユーザー企業に裁判費用を提供するための基金を設立している(関連記事)。今回SCOが提訴した米AutoZoneへは,この基金から資金が提供される見込みだ。

 SCOの主張に関しては,これまでも多くの根拠の薄さや矛盾が指摘されてきている。まず,流用されたと主張するコードはSCOが権利を所有するものかどうかだ。SCOはカンファレンスなどでLinuxに流用されたというコードの例を示しているが,LinuxコミュニティのBruce Perens氏らは,SCOが示したコードは米California大学Berkley校で開発されたBSD UNIXに由来し,オープンソース・ソフトウエアとして公開されているものであり,SCOが権利を持つものではないなどとして反論している(関連記事)。

 SCOはそのほかにも多くの侵害個所があると主張しているが,米メディアの報道によれば裁判所への侵害個所のコードの提出は滞っており,3月3日には裁判所から証拠の追加提出命令が出されている。

 また,SCOは2003年5月までLinuxディストリビューション「SCO Linux」を公開,販売していた。SCO自らGPLのもとで配布していたコードである以上,ユーザーは自由に使用,変更,再配布できるとの指摘もある(関連記事)。

動揺するユーザーは少ない

 ユーザーもこれらSCOの主張の薄さを感じ取っていると見られる。米Evance Dataが2月に行った調査では,SCO訴訟によって業務が「確実に」あるいは「おそらく」影響を受けるという回答は13%だった。約3分の2は,SCOが勝訴した場合でも,Linux開発には小さい範囲の影響しか与えないと答えている(関連記事)。

 もちろん,知的所有権は尊重され,保護されるべきものだ。その理由は,知的所有権の保護が開発者・創作者によるイノベーションを促進し,公共の利益をもたらすと考えられるからである。だが,SCOが仮に勝訴したとしても(SCOの知的所有権に関する主張が仮に正当なものだとしても),訴訟で得られた金が研究開発に投じられることはないだろう。ユーザー企業を訴えたことで,SCOの“悪役イメージ”は決定的になった。SCOが通常の製品販売やサービス・ビジネスを今後続けられるとは考えにくい。

 もっとも,手持ちのリソースから得られる利益を極大化するために手段を尽くすことは,営利を目的とする企業の行動としては,ある意味で正しいのかもしれない。だとすれば,歪みは法制度やその運用にある。

 その「法制度やその運用」にも変化の兆しが見える。Microsoftに約5億2100万ドルの賠償金支払判決が下ったIEのプラグイン特許に関して,米特許・商標局でEolasの特許を再考する動きがあり,裁判の行方が流動的になったのである(関連記事)。

日本は“他人事”と傍観できるか

 日本は「さすが米国は訴訟大国」あるいは「米国の法律や政策は米国民しか変えられない」と他人事で見ていることができるだろうか。相次ぐ職務発明に対し巨額の対価を認める判決は,技術者の地位や報酬,モチベーションの向上に確かに貢献したと思う。しかし,イノベーションの促進にマイナスとなる“知的所有権の乱用”が今後,生じる恐れもある。

 「米国の“知的財産権”の暴走は,レーガン政権時代のプロパテント(特許重視政策)に端を発する」(FSIJ 鈴木氏)。日本政府も知財立国を目指して2003年3月に知的財産戦略本部を設立,権利保護基盤の強化を検討している。この政策が,本来の目的を離れて特定の専門家や既得権層の利益だけを増大させる危険を抑えることができるだろうか。

 今回のSCOのユーザー企業に対する訴訟が,日本企業に直接悪い影響を与える可能性は低いだろう(関連記事)。逆に,法律の専門家やIT関連企業だけでなく,ユーザー企業を含めたより多くの人々が知的所有権について関心を持つ機会になればよいと思う。米国の轍を踏まないためにも,一人でも多くの国民が知的所有権に関心を持ち,専門家任せにせずに議論に参加することが大切ではないだろうか。

(高橋 信頼=IT Pro)

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