2月27日午後5時半過ぎ,会見場に現れたソフトバンクの孫正義社長はまず頭を下げた。顧客情報の流出問題について会見を開いた会場は,何度も孫社長が新サービスの発表会を開催してきた東京・虎ノ門のホテルオークラ。会場は同じでも,孫社長にいつもの自信満々の笑顔はなく,打って変わって堅い表情だった。この席で孫社長は,451万7039件もの「Yahoo! BB」ユーザーの個人情報が流出したことを初めて認めたのである(関連記事)。

 通信事業者の顧客情報漏えい事件はこれまでもあった。例えば99年にNTT東日本で約5000件,NTT西日本で約3000件の情報が社員経由で流出した。KDDIでも2000年10月,代理店から3万2000人分の情報が流出した。しかし,今回の流出件数は桁違いの451万件。ソフトバンクBBは,情報管理体制の甘さを指摘されても当然である。

コール・センターでも大量情報を取り出せた

 まず,簡単に経緯を振り返ってみる。警視庁は2月10日,流出した顧客情報を基にソフトバンクを恐喝していた湯浅輝昭容疑者など3人と木全泰之容疑者を逮捕した。湯浅容疑者はYahoo! BBの販売代理店の役員で,木全容疑者はYahoo! BBのコール・センターで勤務していた。現時点で顧客情報の流出ルートは明らかになっていないが,内部関係者が情報を持ち出した疑いが強まっている。

 顧客データベースに直接アクセスする権限を持つ人は,社員と業務委託先を含めて135人いた。このうち,いくつかのアカウントは,3~4人で共用するグループ・アカウントだったという。さらにコール・センターでは,顧客対応のために数千人のオペレータが個人情報にアクセスできる。オペレータは2003年9月まで,一度に多くの情報にアクセスできることができた。

 社員などの中に悪意を持った人間がいれば,大量に顧客情報を引き出せる状況にあった。ソフトバンクBBの鬼頭周システム&サプライチェーン本部長は,「アクセス権限を持つ人やサポート・センターのオペレータが,物理的に情報を持ち出すことは全くなかったとは断定できない」と言う。

 ソフトバンクBBは1月中旬までに,データベースに直接アクセスする権限を半分以下の58人に限定した。さらに,コール・センターから閲覧できる顧客情報は1件ずつとシステムを変更した。今後,数億円を投資してシステムの安全性を強化していく。

増えない解約,減らない新規加入

 今回の事態にユーザーは,大きな不安を抱えているのは確かだ。ソフトバンクBBが2月25日に設置した問い合わせ窓口には,27日正午までの2日半の間に6400件もの問い合わせが殺到した。

 ところが意外なことに,新規加入数や解約数に大きな変化はないという。孫社長は,「今後の状況を見ないと分からないが,現時点は普段の加入数とそう変わっていない。逮捕報道があった24日の直後は解約率が若干上がった。ただ,26日,27日は通常のペースに落ち着いている」と説明している。

 私の周囲にいる何人かのYahoo! BBユーザーに聞いても,すぐに解約するという人はいない。私自身がユーザーだったとしても,すぐに解約しないかもしれない。何かと面倒な手間がかかるからだ。別のADSLサービスに乗り換えるには,まず解約手続きと新サービスの申し込み手続きが必要。3000円以上の初期費用もかかる。手続きやNTT局側の配線工事で数日から1週間はかかり,その間はADSLが使えない。

 プロバイダが変わればメール・アドレスも変わるため,友人にアドレス変更を通知しなければならない。人にもよると思うが,私ならこれだけの作業が面倒で使い続ける。加入者同士の通話が使い放題のIP電話サービス「BBフォン」に,親戚や友人などよく通話する同士で加入しているケースもある。この場合は,通話相手の電話料金にも影響が出るためもっと解約しにくいかもしれない。

 ユーザーは,その気になれば他社のADSLやFTTH(fiber to the home)サービスに移行できる。ただ,移行先のサービスの魅力が相当大きかったり,移行前のサービスに大きな不満や危険性があると思わないと,乗り換えない人も多いだろう。これは,ユーザーの家までサービスを提供しているという通信サービスの特徴ではないだろうか。乗り換えにくい通信サービスを提供しているからこそ,通信事業者はセキュリティ確保や品質維持を徹底する責任があるはずだ。

お詫びは500円の金券とメール・アドレスの無料変更

 ソフトバンクBBは,情報漏えいの責任とお詫びとしていくつかの対策を打ち出した。孫社長が6カ月間50%の減給処分になったのをはじめ,役員が減給処分となる。ユーザーに対しては,Yahoo! BB全会員に500円の金券を送付したり,5月までメール・アドレスを無料で変更できるようにする。

 孫社長は,「資金がたくさんあれば出したい気持ちはある。ただ,恐喝事件で大きなお金が動くという現象を助長するのは避けたかった。その中で何とか謝意の気持ちを表したいと考えた。補償よりも,再発を何が何でも防ぐというところに資金を使いたい」と対応策の理由を説明した。

 その上で孫社長は,「(2005年9月までに)600万加入を獲得するという目標を変えるつもりはない。ブロードバンドを広めてほしいという声もあるし,要望に応えていきたい。走っているエンジンを止めるわけにはいかない」と強気の姿勢を出した。

 今回の情報漏えいに対するソフトバンクBBの対応や,同社のサービスに対する受け止め方は人によって違うのではないか。そこで読者のみなさんから,ぜひソフトバンクBBの顧客情報漏えいに関してご意見をいただければと思う。

(中川 ヒロミ=日経コミュニケーション)

■回答にはIT Proの会員登録が必要です。回答はおひとり1回とさせていただきます。3月8日(月)午後2時まで回答可能です。結果をお伝えするページへは後日このページからリンクします。

Q1.あなたはどの通信事業者のADSLサービスを利用していますか?
ソフトバンクBBの「Yahoo! BB」
東西NTTの「フレッツ・ADSL」
その他のADSLサービス
ADSLは利用していない

Q2.あなたがYahoo! BBのユーザーだった場合,今回の個人情報の漏えいを機にサービスを解約しますか?
解約する
解約したいと思わないし,実際に解約しない
解約したいと思うが,諸般の事情(手続きが煩雑,など)で実際には解約しない
分からない

Q3.今回のソフトバンクBBのお詫び対応について,どうお考えですか?
対応は適切だった
十分ではないが仕方がない
500円の補償や,無償のメール・アドレス変更の対応だけでは不満である
分からない

Q4.ソフトバンクBBの顧客情報漏えいについて,ご意見をお聞かせください。
(ご記入いただいた意見は,日経コミュニケーションやIT Proなど弊社媒体に掲載させていただく場合があります。ご了承ください)

ご協力ありがとうございました。