「あなたの職種は何ですか?」。こう聞かれたら,「SE(システム・エンジニア)」と答えるIT Pro読者も多いだろう。しかし,もし1年後に同じ質問をされたら,皆さんは「SE」とは違う様々な回答をするのではないか――。

 こんなことを思ったのは,日経ITプロフェッショナル3月号(3月1日発売)の特集「ITスキル標準(ITSS)最前線」を担当したからだ。本特集では,経済産業省が2002年末に策定したITSSの最新動向や,情報サービス企業の活用状況や課題などを探った。

 すると,企画段階で予想していた以上に,多くの企業が真剣に導入を進めており,職種の呼称も従来の「SE」から,ITSSに基づく「アプリケーションスペシャリスト」や「ITスペシャリスト」へと移行するケースが相当数あったのだ。

あいまいな職種表現をやめる

 「SEほどあいまいな職種はないのではないか」。こう語るのは,アルゴ21で人材育成に取り組む都筑亨部長だ。同氏は,「SEの業務範囲の認識は人によってまちまちで,そのために明確なスキル定義もなく,人材育成の障壁になっている」と指摘する。

 そこで,アルゴ21は2003年8月より,ITSSに基づく技術者認定制度「Argo Certified Professional(ACP)」を導入した。高度かつ専門的な技術者を育成するために,それまで単に“SE”で括られていた技術者の職種を細分化したものだ。

 具体的には,ITSSで規定する11職種の中から,(1)経営の視点から最適なシステムをデザインする「ITアーキテクト」,(2)開発プロジェクトをマネジメントする「プロジェクトマネジメント」,(3)ソフトウエアを設計・開発する「アプリケーションスペシャリスト」,(4)データベースやネットワークといった特定技術の専門家である「ITスペシャリスト」という4職種を抜粋。それぞれレベル4以上に相当する高度なスキルを持つ社員を社内で認定する。

 システム・インテグレーションや組み込みシステム開発を手がける東芝情報システムでも,ITSSを参考にして社員の職種分類を再編。同社では,技術者とともに管理スタッフも含め,全社的な人材育成に取り組んでいる。

 具体的には,ITSSを拡張した「TJSS(東芝情報システム・スキル標準)」と呼ぶスキルフレームワークを2003年6月に策定。ITSSの11職種・38専門分野に加え,ITSSでは定義されていない「組み込み技術者」や「品質保証担当者」,「管理スタッフ」など5職種・15専門分野を独自で追加した。自社の事業活動に合わせてカスタマイズしたものだ。

 社員の該当職種は,上司との面談で決定。その上で社員は4月と10月の年2回に該当職種のスキル・レベルを診断し,その結果に基づいて,各種研修やOJTなどによってスキルアップを図る。東芝情報システムでもやはりSEという職種は消えた。

ITエンジニアの「質的」高度化が急務に

 「一部の会社の話だろう」と思う読者もいるかもしれない。だが,こうした動きは決して一部に限ったことではない。

 例えば,富士通や日立製作所,日本ユニシスといった大手メーカーのほか,NECソフトや日立システムアンドサービスといったメーカー系ソフト会社,あるいはCSKなどの独立系インテグレータなど,規模や業態を問わず広がりを見せている。

 加えて,JISA(情報サービス産業協会)では会員企業に対し,人材育成のためにITSSの積極的な活用を呼びかけるなど,業界を挙げたITSSの普及を後押しする動きが活発化している。

 もちろん,名前を変えることが目的ではない。各社が真剣に取り組むのは,高度かつ専門的な技術者を育成するために,ITSSを参考にしながら自社の職種を再分類・再定義するためだ。大手システム・インテグレータの幹部は言う。

 「システム単価が下落する中で,高付加価値の顧客サービスを提供しなければならない。また,中国やインドの例を持ち出すまでもなく,海外のソフト会社との競争にもさらされている。それだけに,“SE”というあいまいな呼称はなくし,専門性の高い具体的なキャリアパスを明示することで,社員への自発的なスキルアップを促したい」

あなたの職種名が近い将来変わる?

 もちろん,ITエンジニアを総称する呼称として「SE」という名前は残るだろう。しかし,社内やユーザー企業との対話の中では確実に「SE」という呼び名は消えていくのではないか。巷にあふれる「SEのための・・・」という書籍やムックも,近い将来,「ITアーキテクトのための・・・」や「アプリケーションスペシャリストのための・・・」というふうに置き換わるかもしれない。

 そうした中で,皆さんも自分の職業がこの先,どんな職種に置き換わるのか。ITSSに目を向けてみてはいかがだろうか。

(池上 俊也=日経ITプロフェッショナル)