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敏腕プロマネの話は耳が痛い

2004/02/24

 私事で恐縮だが,記者は英検2級を持っている。だが,英語ははっきり言って苦手だ。海外の人に取材する際はいつもしどろもどろになっている。

 大学時代に情報処理技術者試験もパスした。当時の「2種」だから,そうたいしたことはないが,それでも情報処理技術者であることには変わりはない。でも,周囲からは「技術が苦手」と思われている。技術に強い後輩記者からは,「戸川さん,本当に2種持っているんですか?」とよく突っ込まれる。

 もちろん英語が上手に話せないのも,技術が苦手なのも,資格のせいではない。責任は,試験のときに一夜漬けしただけで,その後の精進を怠っていた記者の側にある。

 のっけから長々と記者の恥部を公開したのは,理由がある。最近のプロジェクトマネジメント熱に一抹の不安を感じているからだ。単なる“資格取得ブーム”になりつつあるのではないか・・・。

資格取得者は増えたものの・・・

 ここ2〜3年,日本のIT業界ではプロジェクトマネジメントの重要性が声高に叫ばれている。これを受けて,プロジェクトマネジメントの国際資格「PMP(プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル)」の国内取得者数は,この1年でほぼ倍増した。取材先で「PMP」の“肩書き”を刷り込んだ名刺を頂戴するのも今では珍しくない。

 だが,資格取得者数の増加とは裏腹に,プロジェクトマネジメントの定着は道半ばとしか言いようがない。今年度は多くのインテグレータが業績を下方修正したが,その理由としては「赤字プロジェクトの発生」が必ず挙がる。ユーザー企業のIT投資抑制による競争激化のあおりで,受注条件が悪化し,赤字プロジェクトが発生しやすくなっている。

 インテグレータ各社は,この問題を解決すべく,PMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)といった専門組織を設置し,社内のプロジェクトを監理している。しかし,まだ十分な成果が出ていない。

 さらに,会社として監理体制を強化するだけでは限界がある。やはり赤字プロジェクトを撲滅するためには,プロジェクト・マネジャ一人ひとりが資格取得に満足せず,自らの能力を高めなければならないのではないか。こうした思いから,冒頭の“告白”をさせてもらった。

敏腕マネジャに学ぼう

 それではプロジェクト・マネジャの能力はどうすれば高まるのだろうか。ここ数年,インテグレータ各社はプロジェクトマネジメントの教育・研修制度を整備したが,現場では,「優秀なマネジャは教育では育てられない」といった意見が根強く残る。特に「コミュニケーション力をはじめとする“人間的な”能力は,教えてどうこうなるものではない」とする向きは多い。

 だが,そこであきらめていたら,いつまで経っても敏腕マネジャは育たない。結果として企業のプロジェクトマネジメント力も向上しない。

 果たして,人間的な能力を“学習”する秘策はあるのか。困難なプロジェクトを次々と成功に導く敏腕マネジャは,一般のマネジャと何が違うのか。この点を探るため,今年1月,記者は社内外で“敏腕”と呼ばれるマネジャ10人ほどを取材した。

 その結果は日経コンピュータ2月23日号の特集「プロジェクトマネジメント“再”入門」にまとめたが,一連の取材はいつも以上に大変だった。スケジュールがタイトで肉体的につらかったせいもある。だが,それ以上に精神的に疲れた。

 といっても取材させていただいた敏腕マネジャの方々が悪いわけではない。又しても責任は記者の側にある。要は,皆さんのお話の内容が,記者にとって「耳の痛い話」ばかりだったのである。

 恥を忍んで,一部始終を紹介しよう。

人の話はきちんと聞こう

 最初の一撃を食らったのは,日本ユニシス金融第一事業部システム統括部システム五部の桂 智之氏を取材しているときだった。

 桂氏いわく。「コミュニケーションで大事なのは話術ではない。人の話をきちんと聞くことですよ」。相手の話を真剣に聞く姿勢を重視する同氏は,「相手が気持ちよく話ができるよう,きちんと相槌を打つように心がけている」と続けた。

 そのとき,記者は小学校のころを思い出した。「戸川くん,人の話をきちんと聞きなさい」と先生に何度もしかられた。お恥ずかしい話だが,今でも家族から「ちょっと待て。話を聞きなさい」と諭される。記者の仕事は,取材で話を聞くことから始まる。大丈夫か,オレ。

 そういえば,小さいころ,「尚樹! きちんとあいさつしなさい!!」と何度も両親に諭された(怒られた?!)。敏腕プロマネたちも,社会生活を送るうえでの基本である「あいさつ」にはこだわりがあった。
 
 「マネジャといっても偉くなんかない。新人だろうとだれであろうと,きちんとあいさつすることは当たり前のこと」。日本IBMでシニア・エグゼクティブ・プロジェクトマネジャの肩書きを持つ神庭弘年氏は,記者に向かってこう断言された。神庭氏は,「ありがとう」「ごめんなさい」「お願いします」と誰に対してもわけ隔てなく声をかける。これも最近,自信があまりない。あ〜あ,耳が痛い。

良書を読んで本質を学べ

 「人の話を聞く」,「あいさつする」。この二つ以上に記者に“打撃”を与えたのはNTTデータ取締役で公共システム事業本部副事業本部長の重木昭信氏のお話。

 「良書をもっと読んで勉強すること。プロマネに限らず,ITプロとして一流になるためには避けて通れない」。記者は「なるほど」と相槌を打ちながらも,ペン先が震えていた。「戸川,もっと勉強しろよ!」「ちゃんと本を読んでるか!!」。新人時代,先輩たちと飲んでいると,何度も説教されたからだ。

 にもかかわらず実践できているかというと・・・。「まずい。自分も良書を読んでいるとは胸を張って言えないぞ」。メモを取るスピードには自信がある記者だが,このときばかりは不調だった。自分に都合の悪い情報が入ると,末端神経まで不調になるものなのか。

 「部下を見ていると,やはり勉強が足りないと思わざるを得ないケースもある」。重木氏はさらにボディー・ブローを放ってきた。もちろん,部下の方々への高い期待をこめての発言だが,記者はますます取材がつらくなった。「自分のことを言われているような気がする」と。

 重木氏のいう良書とは,例えば,コンピュータ・アーキテクチャとは何かといった“本質”について解説しているような本のことだ。「良書は難解なものもあるが,思考力を高めるうえでも熟読してほしい」「本質が分かっていれば,どんなに技術が変化しても,とまどうことは少ない」。先輩たちと全く同じことを重木氏は語った。

 ベテランの意見はやはり,謙虚に受け止めなければならない。つくづく,そう思った取材だった。

 とりあえず,あいさつから始めた。これは,すぐに実行できる。ヒトの話も最後まで聞くよう,最近は努力している。これができているかどうかは,家族に聞いてみないとわからない。

 良書も買った。だが,忙しくて,なかなか読む時間がない。そういえば,日経コンピュータでSE/SEマネジャの心構えに関して長期連載をしている馬場史郎さんは,「寝る前に1ページでもマニュアルを読め」とおっしゃっていた。道は遠い。

(戸川 尚樹=日経コンピュータ)

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