IP電話とインターネット電話――。この違いが分かりますか。厳密な定義はないようだが,一般にはインターネットを介していろいろなところにつながる音声通話サービスがインターネット電話,プロバイダのIP網を使う電話サービスがIP電話と呼ばれている。

 昔,インターネットが急速に発展し出した1990年代半ばごろ,インターネット電話という用語も一般的になった。その意味するところは,音声データをデジタル化してIPパケットに入れ,インターネットを介してやりとりしようというもの。国際電話料金などを大幅に節約できるのがウリだ。しかし,インターネットを経由するため,音声がブツブツと途切れたり,エコーがきつすぎたり,タイムラグが出たりする。

 一方のIP電話も,音声データをIPパケットでやりとりする点は同じだ。しかし,プロバイダのIP網という閉じたネットワークを使い,一定の品質が保証されるのが普通だ。050で始まる電話番号が割り当てられたりもする。ただ,異なるプロバイダのユーザー同士がつながるとは限らない。違いを挙げるとしたら,こんなところだろう。

 別の見方をすれば,インターネット電話はインターネットのアプリケーションという側面が強く,IP電話は既存の電話サービスの延長線上にあるとも言える。実際,インターネット電話は,パソコンで動く専用ソフトを使って通話するイメージが強い。ところが,IP電話の方はアナログ電話機をつないで使うのが一般的だ。

近い将来,違いがなくなるかも?

 こうした違いがある二つのサービスだが,将来は区別がなくなるかもしれない。以前,「記者の眼」で紹介したENUM(関連記事)のように,電話番号からSIPアドレス(通話相手のアドレス)が調べられるようになるのがその一つ。

 また,無料プロバイダ・サービスを提供しているライブドアがSIP IX(session initiation protocol internet exchange)というサービスを2004年1月下旬から始めたのも,そう考えるようになった理由だ。

 これは,インターネット電話やIP電話のサービス提供者を相互に接続し,制御情報をやりとりするためのSIPメッセージを交換するサービス。事業者がライブドアのSIP IXサーバーに自社のSIPサーバーの情報を登録しておくと,ほかの事業者ともつながるようになる。こうなれば,プロバイダが自社のIP網と他社をいちいち相互接続する必要がなくなる。中継はすべてインターネットに任せてしまえばよいからだ。

 ただし,この話はあくまでも理想論。そもそも,ライブドアは「インターネット上で使える無償のインターネット電話サービス同士の相互接続」のためとしているし,雑音や遅延といった問題をクリアする手だてもない。電話サービスに詳しい方々からすれば,そんな乱暴な話はないとおしかりを受けるだろう。

 でも,電話を使う一般ユーザーからすれば,バックのネットワーク構成なんてどうだっていいはず。通話ができれば,安い方がいいに決まっている。せめて,1台の電話機で電話網,IP網,インターネットと最適な経路を自動的に判断して切り替えてくれるようになると,私はうれしいのだが・・・。

(三輪 芳久=日経NETWORK副編集長)