電話会社を変更しても元の電話番号を使えるサービス「番号ポータビリティ」,携帯電話に必要だと思いますか――。2004年1月15日の記者の眼では,IT Pro読者の方々を対象にこうしたアンケートを実施した。

 総務省が昨年11月から開催している「携帯電話の番号ポータビリティの在り方に関する研究会」は,回を追うごとに白熱。携帯電話会社側にかかるシステム費用を詳しく見積もったり,社会全体への経済効果を割り出すなど,番号ポータビリティの導入を視野に入れた議論へ発展している。結局,サービス導入の是非について結論をまとめる時期を当初の2月から4月に延期せざるを得なかったほどである。

 そうした中でユーザーの注目が高まってきたのだろう,1月21日までのたった1週間で,3315件もの回答をいただいた。そして,アンケート回答者の約74%が,携帯電話の番号ポータビリティを有料でも使いたいと考えていたのだ。これは携帯電話会社自身が実施した類似調査とは,正反対といってもよい結果だ。

「まずユーザーの利益を考えよ」

 今回のアンケートで聞いた質問は(問1)現在契約中の携帯電話会社,(問2)番号ポータビリティが実現した場合に支払っても良い金額,(問3)メール・アドレスのポータビリティの必要性,の3つ。

 最大の焦点は(問2)である。先に述べた携帯電話会社によるアンケートは昨年夏に実施された。その結果を総務省研究会の場で「番号ポータビリティを有料サービスにした場合,利用希望者は全携帯電話ユーザーの10%止まり」と報告していたのだ。NTTドコモなど番号ポータビリティ導入に消極的な事業者は,この数字を基に慎重論を展開してきた。

 だが今回のアンケート結果によれば「300円以下」から「2万1円以上」までの項目を選んだ,つまり「有料でも使いたい」とした回答者は2459人。回答者全体の約74%に達した(グラフ1)。携帯電話事業者のアンケート結果に疑問を呈した記事の中でのアンケートをとった点は割り引いても,番号ポータビリティの潜在的なニーズはかなりあるとみていいのではないだろうか。

グラフ1●番号ポータビリティに対するIT Pro読者の態度 番号ポータビリティが実現した場合に支払っても良い金額をたずねた。「300円以下」から「2万1円以上」との回答者を「有料」とくくった

 番号ポータビリティにこれほどの潜在ニーズが出てきた背景には,携帯電話番号が“個人ID”としても使われるようになったことが背景にあるようだ。アンケートの自由回答欄には,番号ポータビリティを使いたい理由として「固定電話を解約して携帯電話だけを持っている。緊急連絡先にも携帯電話番号を使うため,気軽に番号を変えられない」など,番号変更の不便さを訴える声が集まった。さらに,携帯電話会社の消極姿勢に対しては「既存ユーザーを他社に奪われたくないだけ。自社のサービスを向上させればユーザーの流出を防げるはず」「ユーザーの利益をもっと考えるべきだ」といった厳しい指摘が相次いだ。

シェア競争が一気に加速?

 アンケートからはほかにも興味深い結果が得られた。(問1)と(問2)の結果を元に,各事業者ごとに,番号ポータビリティへの最高支出額の平均値を算出してみた。平均値が高いほど,「高いお金を支払ってでも,番号ポータビリティを使いたい」と考えるユーザーが多いと考えられる。結果,KDDI(au)が一番少なく,NTTドコモとボーダフォンが伯仲。ツーカー・グループが最も多かった。

 この順序は,最近の携帯電話市場の純増シェアの順序にほぼ合致する。純増シェアが大きい携帯電話会社は,他社よりも優れたサービスや端末を提供することで新規加入者を集め,既存ユーザーをつなぎとめている。そうした会社の既存ユーザーは携帯電話会社に対する満足度が高く,わざわざお金を払って番号ポータビリティを使う必要はないと考えているのだろう。これに対して,純増シェアが少ない,つまり現時点でユーザーにとって訴求力が小さい携帯電話会社の場合は,高いお金を払ってでも乗り換えたいというユーザーが多かった。

 つまり携帯電話会社にとっては,番号ポータビリティが導入されると,魅力的なサービス・端末の開発によって純増シェアを一気に増やす可能性が,これまで以上に高まると推測できる。逆に,魅力的なサービス・端末を提供していない事業者はシェアを一気に落とす可能性もある。

 最後に(問3)のメール・アドレスのポータビリティだが,これほど携帯電話のメールが普及している中で,意外にも“不要”と考えるユーザーが大半を占めた。電話番号のポータビリティだけでよいとした回答者は2315人で,全体の約70%に達した。迷惑メールが何通も届くようになったら,アドレスを変更することがありえるので,使い捨て感覚を持っているのかもしれない。パソコンでの電子メール・アドレスのように固定的なもの,とは捉えていないのだろう。

 今回のアンケート結果を見る限り,携帯電話の番号ポータビリティに対するユーザーの関心は非常に高い。その導入の是非について研究会で結論が出るのは2カ月後。慎重論を唱えていた携帯電話会社がこれにどう応えるのか,まだまだ目が離せない。

(高槻 芳=日経コミュニケーション)

■付記:読者からのご要望が多かったので,番号ポータビリティに支払っても良い金額の分布のグラフを掲載します(2004年2月26日)。

グラフ2●支払っても良い金額の分布 「無料」を上回って「1000円以下」という回答があった