マイクロソフトの最新サーバーOS製品がWindows Server 2003であることは,ほとんどの人が知っているだろう。では,このWindows Server 2003を利用するために,どういった製品があるかご存じだろうか。一般的に使われているStandard Editionをはじめ,Enterprise EditionやDatacenter Edition,ちょっと詳しい人ならWeb Editionというバージョンが存在していることは知っているだろう。

 しかし,残念ながらこれだけでは満点ではない。これらの通常パッケージ以外にも,ターゲット・ユーザーを絞った低コストのWindows Server 2003製品がある。

 例えば,1月末に発表したWindows Small Business Server 2003(SBS 2003)がある。このSBS 2003は,Windows Server 2003に,メッセージング・ソフトの「Exchange Server 2003」や情報共有ソフトの「Windows SharePoint Services」などを組み合わせたパッケージ製品。データベース・ソフトの「SQL Server 2000」とファイアウオール・ソフトの「Internet Security and Accelaration Server 2000」が付属する上位版もあり,いずれもWindows Server 2003を搭載したサーバー環境を簡単に構築できることを売り物にしている。このSBS 2003は大々的に発表したばかりのため,覚えている人は多いだろう。

 では,Windows Storage Server 2003はどうだろう。こちらも,Windows Server 2003を使ったサーバーを簡単に構築できるもの。とはいっても,こちらで構築できるのは普通のサーバーではなく,いわゆるNAS(Network Attached Storage)と呼ばれるファイル・サーバー専用の環境である。Windows Server 2003をNASを構築するための専用OSとして利用したもので,Windowsサーバーとしてだけではなく,Services for UNIXやServices for Macintoshの機能を標準で搭載してUNIXのNFS(Network File System)やAppleShareのサーバーとしても利用できるようになっている。ファイルやプリンタの共有だけでよければ設定項目も少なく,手軽に導入できる。

ターゲットを限定することで格安の価格を設定

 Windows Server 2003から派生したこれらの製品の特徴は,利用するユーザーを特定することで価格を安く抑えようというもの。通常のWindows Server 2003のままではコスト的に導入しにくいと考えるユーザーにも,Windows Server 2003を使ってもらうことを期待した製品,と言えよう。

 これらの価格を調べてみよう。例えばSBS 2003は,パッケージの参考価格で5CAL(クライアント・アクセス・ライセンス)付きが11万円(参考価格)である。Windows Server 2003のStandard Editionにおけるパッケージ価格が参考価格で17万6000円なので,それより約4割ほど安い値段で購入できる。しかも,ハードウエアにプリインストールされたセットで購入すると,デルや日本ヒューレット・パッカード(HP)のように,サーバーのハードウエア込みで8万円台という驚異的な価格で販売しているところもある。

 もう一方のWindows Storage Server 2003を搭載したNAS製品についても,アイオメガが17万6000円という価格から直販で販売しているほか,NECも25万9000円から製品を提供している。それ以外にも,EMCジャパン,デル,日本HP,日立製作所といった各社から製品が出ている。

 中には100万円を超えるものもあるため,単体で見るとあまり安い印象を持たないが,これらの製品はいずれも利用に当たってCALと呼ばれるクライアント側のライセンスが必要ない。さらにマイクロソフトが強調しているのは,単純なコストだけでなく,導入・管理・運用といったコストの削減である。バックアップや障害対策など通常の運用でよく使う機能ははじめから組み込まれているため,ネットワーク関連の最低限必要な設定をするだけですぐに使え,管理者の負荷がかからない,としている。

低コストの裏に潜む落とし穴

 このようにコストが安いというメリットだけを見ると,経費削減が叫ばれる折り,ついついこれらの製品を買いたくなるのが人情というものだろう。しかし,ちょっと待っていただきたい。これらの製品は,前述したようにターゲットとするユーザーを制限することで,価格を安くしている特別な製品である。本来は該当しないユーザーが,深く考えずに価格だけに引かれて手を出すと,後になってから普通のWindows Server 2003を購入したほうが安かった・・・と後悔するハメになりかねないので注意が必要である。

 例えば,SBS 2003で想定しているのは,あくまで初めてのサーバーを導入する中小規模の企業というユーザー。このようなユーザーで5クライアントまでの企業ならば,もちろん8万円という超低価格なサーバー機などを購入して,そのまま利用すれば非常に低価格でシステムを構築できる。

 ただし,クライアント数がそれ以上に増える見込みがある場合は注意が必要である。SBS 2003では,追加で購入するCALの値段が,通常のWindows Server 2003と比べて極端に高い設定になっているのだ。具体的には,SBS 2003向けの追加CALは5CALで8万8600円,30CALで35万4400円という価格になっており,5クライアント分を追加するだけでサーバーとのセット価格と同等の料金が発生する。

 ちなみに,通常のWindows Server向け追加CALは5CALで3万1500円,20CALで12万6000円。SBS 2003は,この2倍以上の価格設定になっている。もちろん,SBS 2003にはExchange Server 2003なども含まれているため,単純な比較はできないが,それなりのクライアント数で利用する環境では,価格的なメリットはあまりなくなってくるだろう。

 機能面から見ても,SBS 2003には規模的な制約がある。SBS 2003は基本的に自分単独のサーバーでドメインを構成しなければならない。同じドメインにドメイン・コントローラやメンバー・サーバーを追加して利用することもできるが,他のドメインとフォレストなどで連携させることはできない。このため,安いからといって部署単位で導入すると,社内の他のシステムとの連携ができずに苦労する可能性がある。また,CALも通常のWindows Server向けのものとは全く別になるため,他の部署のユーザーからアクセスさせるとライセンス違反となる可能性さえあるのだ。

 一方のWindows Storage Server 2003は,UNIXやWindowsが混在するような大規模なシステムのうちの一部に関して,運用コストを抑えながら安全にデータを保管することを第一の用途にしている。このため,「どうせファイル・サーバーでしか利用しないのだから,セットアップが楽なほうがいいだろう」と,安易な気持ちで導入すると問題が発生することがある。

 Windows Storage Server 2003はWindows Server 2003をベースに開発しているが,ユーザーが購入する製品は,ベンダーがハードウエアに組み込んだ形で提供される。つまり,OSに問題が発生した場合でも,実際に対処してくれるのは原則としてマイクロソフトではなく,製品を提供するハードウエア・ベンダーとなる。このため,セキュリティ・ホールやトラブルが発生した時の対応が出荷元のベンダーの対応に依存せざるを得ないのだ。

 例えばWindows Server 2003にセキュリティ・ホールが発見されたとき,同様の弱点はWindows Storage Server 2003にも存在する可能性が高い。しかし,その弱点を修正するためのパッチはあくまでハードウエアのベンダーから入手しなければならず,マイクロソフトが公開したパッチを使うことはできない。仮に適用できても,それをユーザー自身で実施するとベンダーのサポート対象から外れてしまうといった問題が発生する。

 つまり,Windows Storage Server 2003搭載のNASを導入するには,場合によっては通常のWindows Server 2003以上に事前にきちんとトラブルやセキュリティの運用体制を整えておくことが必要になる。

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 ここではあえて,SBS 2003とWindows Storage Server 2003の“低価格の落とし穴”を述べてきた。これらの製品を導入する際には,ユーザー自身のニーズとこれらの製品が想定している利用目的にズレがないかどうか,注意深く見比てみる必要があると考えているからだ。とはいえ,目的によっては,非常に低価格で便利な製品であることも確か。“利用上の注意”をきちんとチェックした上で,システム構築・運用の費用削減に活用していただきたい。

(根本 浩之=日経Windowsプロ副編集長)