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P2Pファイル共有ソフトのトラフィックについて考えた

2004/01/23

 P2P(peer to peer)技術を使ったファイル共有ソフトの通信に帯域制限をかけるプロバイダ(インターネット接続事業者)が増えている。

 ぷららネットワークスは2003年10月20日,「WinMX」と「Winny」に代表されるP2Pファイル共有ソフトの上り方向のトラフィックを中心に,他のユーザーに影響を与えないように転送を制御すると発表した。

 2003年12月24日には九州の老舗プロバイダであるコアラも,同年10月からP2Pソフトの帯域を制限していることを表明。ASAHIネットやCATVインターネット・サービスを提供するイッツ・コミュニケーションズも,P2Pファイル共有ソフトを名指ししているわけではないが,ほかのユーザーの迷惑になるような大量のデータ通信に関して制限を加えることを明らかにしている。インターネットの掲示板などを見ると,公表しないままP2Pソフトのトラフィック量に制限をかけているプロバイダもあるようだ。

 こうしたプロバイダの対応に対して,同じ掲示板では,ユーザーの苦情や憤慨,自らが契約しているプロバイダに関する情報を求める声などが数多く見られる。

 そこで,P2Pファイル共有ソフトのトラフィックが実際にどれほどプロバイダのアクセス回線や基幹網,はたまたインターネットに影響を与えているのか,考えてみた。

 今回の記事では,プロバイダによるP2Pファイル共有のトラフィック制限に関する是非は問わない。P2Pファイル共有ソフトでやりとりされるファイルの多くが著作権法などに抵触する違法ファイルだという事実にも触れない。P2Pファイル共有ソフトのトラフィック量に絞って見ていく。

P2Pファイル共有ソフトで100メガのFTTH回線を使いきれるか?

 FTTHサービスを申し込むなら,100Mビット/秒の回線を専有するサービスか,共用するサービスか――。NTT東日本が提供する戸建て住宅向けFTTHサービス「Bフレッツ・ニューファミリータイプ」に対して公正取引委員会が排除勧告を出したというニュースを聞いたとき,内輪でこんな話題になった。ニューファミリータイプは本来,100Mビット/秒全2重の容量を持つ回線を最大32ユーザーで共用するというFTTHサービスだが,ニュースでは,公正取引委員会の調べた結果1本の回線を1ユーザーが専有して使えるようになっていたという。

 なぜこんな話から始めたかというと,このとき「P2Pファイル共有ソフトのユーザーなら,100Mビット/秒の回線を専有してファイルをダウンロードしまくりたくなる」と言い出した人がいたからだ。

 確かに,回線速度が速ければ速いほど,P2Pファイル共有ソフトには向いていそうだ。これは筆者の感触でしかないのだが,ブロードバンド・サービス(特にFTTHサービス)が現在でも伸びつつある背景には,P2Pファイル共有ソフトの影響が無視できないと思っている。「WinnyやWinMXを使うなら,できるだけ高速なFTTHがベスト」と考えて,NTT東西地域会社のBフレッツなどのサービスに契約したユーザーは少なくないはずだ。

 そこで,FTTHユーザーがP2Pファイル共有ソフトでどれくらいのデータ量を受信できるのか試算してみた。P2Pファイル共有ソフトを24時間起動させておき,常時100Mビット/秒のトラフィックでデータを受信しているユーザーがいると仮定する。このユーザーが1日に受信できるデータ量の最大値を単純計算すると,「100M(ビット)×60(秒)×60(分)×24(時間)÷8(バイト)≒1000Gバイト/日(注1)」となる。

注1:バイト数は1024倍ごとに単位が変わるため。

 仮に,このうちヘッダーなどのオーバーヘッドが3割あったとしても,1日に700Gバイトものデータを受信できることになる。普及しつつある容量4.7GバイトのDVD-Rにすべて記録するにしても,1日で149枚ものメディアが必要になる計算だ。

 こう考えると,FTTHに契約してP2Pファイル共有ソフトを利用し,常時100Mビット/秒でファイルをダウンロードし続けるというのは,現実的には考えにくい。ダウンロードする用途で考えると,P2Pファイル共有ソフトをバリバリに使っても,FTTHの100Mビット/秒の帯域を使い切るのは難しそうだ。

インターネット全体のP2Pトラフィックを試算する

 それでは,実際のP2Pファイル共有ユーザーはどれくらいのデータ量をダウンロードしているのか。こればかりは単純計算で算出できないので,FTTHユーザーの平均ダウンロード量を前述の計算結果の1000分の1と,かなり割り引いて仮定しよう。それでも,1日で700Mバイトのデータを受信する計算になる。

 1000分の1ということは,P2Pファイル共有ソフトを利用するFTTHユーザー1人当たりの平均スループットは100kビット/秒になる。FTTHサービスのユーザー数は,2003年11月末現在で81万5402。そのうち2割がP2Pファイル共有ソフトのユーザーだと仮定する(注2)とその数は約16万3000。そうすると,FTTHのP2Pユーザーだけで16.3Gビット/秒のトラフィックが発生している計算になる。

注2:これは,2003年9月にネットアークとサイバーエリアリサーチが共同で調査した結果と,当時のFTTH回線数の比率に基く。

 ちなみに,FTTHと同様にADSLの場合もユーザーも考えてみる。ADSLの下り方向の平均リンク速度を2Mビット/秒,P2Pファイル共有に使う帯域をその1000分の1という条件で計算すると,1ユーザー当たりのスループットは2kビット/秒になる。2003年12月末時点でADSLのユーザー数は1000万を突破し1027万2052になった。そのうち6.5%がP2Pファイル共有ソフトのユーザーだと仮定する(注3)と,ユーザー数は約66万8000。そのトラフィック量は約1.3Gビット/秒になる。

注3:上記調査と当時のADSL回線数の比率に基く。

 FTTHとADSLを合計すると,P2Pファイル共有ソフトのスループットの合計は,約18Gビット/秒という計算になる。

Winnyユーザーに逮捕者が出たあと急降下

 ここまでは仮の値を基に計算してきた。計算結果に具体的な根拠はほとんどない。ただし,それほどかけ離れた数字ではないと思っている。その根拠となるのが,IX(インターネット・エクスチェンジ)各社が公開しているトラフィック・データだ。

 IXサービスを提供しているインターネット・マルチフィードのホームページからリンクをたどると,同社の提供する分散型IXサービス「JPNAP」のトラフィック状況をWeb上で参照できる。このデータを見ると,2003年11月を境にインターネットのトラフィック量が急激に減少している。ピーク時が36Gビット/秒,落ちた直後が30Gビット/秒だ。未だ2003年11月以前のトラフィック量まで回復していないことがわかる。

 同じくIXサービスを提供するJPIXのトラフィックも,2003年11月末に約32Gビット/秒のピークを迎えたあと急降下し,まだ30Gまで回復していない。2社のIXサービス合計で8Gビット/秒のトラフィックが減った格好だ。

 2003年11月は,Winnyユーザーから逮捕者が出たというニュースが報道された月である(関連記事)。明確な因果関係の証明はないが,IXに流れるトラフィック量の急激な低下とこのニュースが関係しているだろうことは想像に難くない。「明日は我が身か」とファイルの公開を止めたユーザーの影響でトラフィックが減ったと見るのが自然だろう。

 日本国内にはJPNAPとJPIXのほかにもWIDEの運営するNSPIXP-2(dix-ie)やメディアエクスチェンジのMEXなどがある。こうしたIXのトラフィック量の変動も含めれば,この時期のトラフィック減少幅は8Gビット/秒よりも大きいはずだ。

 また,IXはプロバイダ間を結ぶ場所なので,同一プロバイダ内でやりとりされるトラフィックは計測されない。しかも,逮捕者が出たからといってWinnyやWinMXのユーザー全員がP2Pファイル共有ソフトを使わなくなったというわけではない。ニュースが流れた直後であってもWinnyやWinMXを使っていたユーザーもいるはずだ。

 これらを勘案すると,Winnyユーザーに逮捕者が出る前のP2Pファイル共有ソフト全体のトラフィックは10G〜20Gビット/秒,もしかするとそれ以上に及ぶかもしれない。

 これだけ膨大なトラフィックを発生させるP2Pソフトに何も対処しないでいると,プロバイダの基幹ネットワークの容量が不足してしまう。プロバイダ各社がP2Pファイル共有ソフトのトラフィックを制限したくなるのもうなずける。

幹線網の強化が自社ユーザーのメリットにならない?

 トラフィックが増加したのなら,プロバイダは自社のバックボーン・ネットワークを強化して対応するのが普通である。しかし,P2Pファイル共有ソフトによるトラフィック増加に対しては,プロバイダ各社とも帯域制限という対策を打ち出した。その理由はどこにあるのか。

 まず,理由の1つにやりとりされるデータの多くが違法ファイルだという点が挙げられる。しかし,理由はそれだけではない。P2Pのトラフィックには,他プロバイダのユーザーからのアクセスに対して自社のユーザーがファイルを送る「上り方向」のトラフィックが局所的に集中するという特徴がある。これが大きな理由となっている。

 前述の計算ではおもに,ダウンロードする場面を想定した。しかし,アップロードする場面では状況が変わる。あるP2Pファイル共有ユーザーが人気のあるコンテンツを数多く公開していると,他の多くのユーザーが次から次へとアクセスしてきてダウンロードを試みる。ソフトの設定で帯域を制限していなければ,上り回線の帯域を目一杯使って,ファイルが次々とダウンロードされていく。ファイルを公開したユーザーがFTTHにつながっていると,まさに100Mビット/秒の帯域をフル活用したファイルのアップロードが続くことになる。

 ダウンロードするユーザーは,同じプロバイダの場合もあるだろうが,そうでないケースも多い。つまり,人気のあるファイルを多く公開しているユーザーを抱えているプロバイダは,他のプロバイダのユーザーがファイルをダウンロードするために,自社の基幹網のトラフィックが圧迫されてしまうことになる。

 ここで基幹網を増強しても,こうした他プロバイダのユーザーの利便性を向上するだけで,自社のユーザーへのメリットにはなりにくい。プロバイダにしてみれば,他のプロバイダのユーザーのためにコストをかけるのはバカバカしいと感じているのだろう。そこで,上り方向のデータ転送量が極端に多いユーザーのトラフィックを制限するという「簡単で効果的な対策」に動いたというわけだ。

 これに対して,ユーザーの視点に立つと,「プロバイダは,100メガだと高速性を売り文句にFTTHサービスを売っているのに,100Mビット/秒の帯域をフルで使わせないように制限をかけるのはおかしい」と反論したくなる。

 しかし,ベストエフォート型サービスのインターネットで,アクセス回線と同じ伝送容量を保証しろとプロバイダに求めても,到底無理な話。そもそも,IPとは帯域を共用することで回線を有効に使えるパケット多重方式の通信手順である。すべてのFTTHユーザーに対して100Mビット/秒のアクセス回線そのままの帯域を保証できるようなネットワークを構築・運用するとなると,コストは大きく膨れ上がる。とても月額数千円で提供できるサービスではなくなってしまう。

ブロードバント回線の使い方は変わるか?

 そもそも,ブロードバンドの有効性はどこにあるのか。いろいろな考え方があると思うが,その1つに,「コンテンツに高速でアクせスする手段があれば,コンテンツ自体はどこにあってもかまわない」という「オン・デマンド」の考え方があるだろう。ネットワーク運用者側にいる人々は,オン・デマンドの考え方をベースにブロードバンド社会の進む先を見ていたように思う。

 しかし,P2Pファイル共有ソフトのユーザーにとって,今のブロードバンド回線は「コンテンツを高速で手元に取り寄せる手段」になってしまっている。登場して以来,数年でインターネットのメジャー・アプリケーションに成長したP2Pファイル共有。その成長の速度を,ネットワークの運用者側は甘く見ていたのかもしれない。「オン・デマンド」思想と現実のギャップが,想定外のトラフィックへの対処を困難にしている。運用者側が理想とした形は,人々が根源的に持っている所有欲に打ち負かされた格好だ。

 P2Pファイル共有ソフトを利用するユーザーは,もしかしたらダウン口ードしなくてもいいファイルまでダウンロードして,その分のトラフィックを無駄にしているかもしれない。数百メガのコンテンツをダウンロードしても,ちょっと見聞きするだけで消去してしまっているかもしれない。こうした事態は,ネットワークの運用者側から見ると望ましくない。

 しかし,だからといって強制的にP2Pファイル共有ソフトのトラフィックを抑制するのではユーザーの反感を買う。ネットワークとして今必要とされるのは,コンテンツを手元に置きたがるP2Pユーザーを,オン・デマンドでコンテンツを利用する方向へ自然に導くための枠組みだろう。

 ただ,この枠組みの実現には,著作権の問題など解決すべきハードルは高い。インターネットを効率的に,すべてのユーザーが満足いく形で運用していくために,P2Pファイル共有ソフトのトラフィックをどのように制御するべきなのか――。この問題を根本から解決するにはまだまだ時間がかかりそうだ。

 ちなみに,P2Pファイル共有ソフトがインターネット・インフラに与える影響については,日本のインターネット技術者・利用者などが参加する活動グループJANOG(Japan Network Operators' Group)が1月29〜30日に開催する「JANOG13 Meeting 〜橋〜」でも「広がるP2Pサービスとインターネットインフラへの影響」として取り上げられる予定である。その議論にも注目したい。

(藤川 雅朗=日経NETWORK 副編集長)

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