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情報システム

記者の眼

ITpro

読者から学ぶ,提案は“信長方式”で通す

2004/01/22

 意思決定者に対して何らかの提案をし,提案内容を採択してもらうのは,なかなか難しいことである。IT Pro読者の皆様であれば,システム提案が身近な例だろう。情報システム部門が自社システムの再構築のために予算措置を経営陣に提案する。システム・インテグレータが,顧客企業に新システムを提案する。どちらについても,提案内容を煮詰めた上で,提案書をまとめ,意思決定者が理解できるように説明しなければならない。

 筆者は昨年1年間,社内で提案ばかりしていた。そのためコラムはあれこれ書いたものの,取材をほとんどしていなかったので,本格的な記事をろくに書かずに終わった。提案の対象物は筆者の場合,情報システムではなく,新雑誌であった。ちょうど1年前,新しい雑誌を作ろうと張り切って企画書を作り始めたのだが,なかなか提案を通せず,雑誌の開発は大きく遅れてしまった。

 新雑誌を経営陣に承認してもらった時は12月の終わりになっていた。結局,丸一年を提案活動で費やしてしまったことになる。それでも一時は,「動かないコンピュータ」ならぬ,「動かない雑誌」になるのではないかと不安を感じていたので,2004年からは前に進めるようになってよかったと思っている。

ある女性愛読者からの電子メール

 1月7日,ある製造業で情報システムを担当している女性から電子メールをいただいた。そのメールを読んで考え込んでしまった。彼女は筆者のWebページの愛読者であり,しばしばメールを送ってくる。7日のメールの内容は,IT投資を経営陣に認めてもらう方法についてであった。

 彼女は,IT投資の許可を取り付けることに関してはあまり悩んだことがないという。といっても,その企業がITのことをよく理解しているわけではない。そうした中でIT投資の経営判断をなぜしてもらえるのか。彼女はつい最近,その理由に気が付いた。それは,彼女自らが「信長方式」をとっているからだという。彼女のメールを紹介する。


【読者のメール1】
 最近読んでいたある書籍に,「IT投資の経営判断をする時は,反対投票方式を採用した方がよい」と記載されていました。社長があるIT投資案件について,「反対の人は理由込みで意見を述べよ」と要請するやり方です。

 IT投資については,賛成する人でも投資の経済効果をなかなか説明できません。それと同様に,反対者もまたIT投資のマイナス効果の程度について断言できません。ですから,反対投票をしたほうが通りやすくなるわけです。

 情報システム部門が経営層にIT投資をなかなか受け入れてもらえない,という話をしばしば聞きます。その理由は,賛成投票方式を用いているからなのかと思いました。

 突然こんなお話をするのは,私自身はシステム投資に関してあまり悩んだことはなく,以前からよそで聞く話とどこが違うのかと疑問に思っていたからでした。もっともシステム担当者の知識強化・補充を役員に認識していただけなくていろいろ苦労をしていますが。

 この書籍を読んで認識したことは,私は信長方式なのだ,という点です。経営陣に対して,「反対のものはもの申せ」と私が言ってしまうのです。こんな平社員はなかなかいないな,と改めて思い,苦笑してしまいました。

 システム担当者の方が本当に意を通したかったら,社長を説得して反対投票方式で採決をとるがいいのでしょう。ただ普通は,社長を説得するのが一番難しかったりするのですよね。ここまで考えて,仕事は大変だけれど,社長をはじめ経営陣を説得できている私は恵まれているのかもしれない,と思いました。


 確かに,こんな平社員は滅多にいないだろう。反対投票方式を自分で採用しているところが凄い。ちなみに彼女は,経営陣の説得,利用部門の要求整理,システムの企画と提案,協力ソフト会社を含めたプロジェクト全体のマネジメント,できあがったシステムの検証,利用部門への説明などを一人でこなしている。会社の業務と金の流れはすべて頭に入っているし,データベースのパフォーマンス・チューニングができる技術力も持つ。機会があったら,彼女のことを詳しく紹介したい。

 さて筆者は彼女のメールに感心したので,自分のWebページで信長方式を紹介した。すると1月16日に,別の愛読者からメールが来た。製造業に勤務している男性のシステム担当者である。彼のメールを読んで,筆者はさらに考えてしまい,正直かなり落ち込んだ。その読者のメールも紹介する。


【読者のメール2】
 反対投票方式をとられている女性の方のお話を読みました。そして自分も知らず知らずのうちに,同様のやり方をしていることに気づきました。確かに,システムに関する予算申請を却下されたことはありません。まぁ,たいした規模ではないですし,理解を得るための努力もしていますが。

 なぜそうしているのか。なぜそうできるのか,と改めて考えてみました。結論は,「自分の企画や計画に自信があると自然にそうなる気がする」ということです。威勢のいい言い方をすれば,「文句があるなら言ってみぃ!」みたいな(笑)。逆に自分に自信がなく,お伺いや同意を求める姿勢をとってしまうと,自然に賛成方式となってしまうのではないでしょうか。つまり自信がなければ,信長方式はできないとも言えると思います。形だけ真似をすると怪我をするかもしれません。

 信長方式を実践するためには,高い質の企画・計画を追求する姿勢と責任を自身で負うつもりの覚悟が必要です。自分自身に強い圧力を与え続ける事が基盤として必要なのだと思います。谷島さんが話題にされた彼女の凄いところも,こういった点にあるように思います。


 彼女も凄いが,この彼も凄い。もう一回引用する。

 「自分に自信がなく,お伺いや同意を求める姿勢をとってしまうと,自然に賛成方式となってしまう」

 「高い質の企画・計画を追求する姿勢と責任を自身で負うつもりの覚悟が必要」

 「自分自身に強い圧力を与え続ける事が基盤」

 これを読んで筆者がなぜ落ち込んだか,くどくどと説明する必要はないと思う。その説明は割愛し,気を取り直して続きを書く。

 筆者は少なくとも記事を書いているときは,「高い質の記事を追求する姿勢と責任を自身で負うつもりの覚悟」は持っているし,「自分自身に強い圧力を与え続ける」ようにしている。「記者である自分に自信がなく,お伺いや同意を求める姿勢をとってしまう」ことはない。しかし,事業の提案という数段大きな規模の話になると,覚悟や姿勢の面で問題が非常に出てくるわけである。

今年は現場の記者に復帰

 昨年一年,雑誌開発のプロジェクトマネジャもどきをやってみて,自分の実力がよく分かった。今年は筆者がもっとも自信を持ってやれるであろう仕事に専念すべきである。ということでプロジェクトマネジャは降り,記者に戻ることにした。

 具体的には新雑誌の編集委員として,取材・執筆業務でフル回転する所存である。年初の仕事始めから早速,外回りに専念している。実に楽しい。システム開発が好きな方がSE課長を辞めて,現場のSEに戻ると,こういう気分になるのではないかと思う。

 さて1年かけて通した新雑誌の計画が1月20日に正式発表となった(関連情報)。新雑誌の名前は,「日経ビズテック」である。

 この新雑誌のテーマは,技術(テック)を活かして新商品や新事業(ビズ)を創り出すことである。ここでいう技術はITに限らない。これまでIT Proで説明してきた雑誌構想と,最終形は相当に変わった。その顛末は,筆者のWebページに書いたので興味のある方はこちらのページをご覧いただきたい。

 2月に,日経ビズテックの特別編集版というものを作り,希望される方に無料で送付する。おってお知らせするので関心がある方は,ぜひお読みいただきたい。それから雑誌作りと並行して,IT Proへの執筆は継続する。さらに筆者のWebページ「情識」も刷新した(谷島宣之の常識)。最後になってしまいましたが,IT Pro読者の皆様,本年もよろしくお願いします。

(谷島 宣之=日経ビステック編集委員)

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