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記者の眼

最近のコンピュータ書籍は面白い――著者の個性を前面に打ち出す

矢崎茂明 2003/12/17 ITpro

 私はプログラマ向け雑誌「日経ソフトウエア」の編集者である。現部署に異動して2年近くになる。以前,「日経オープンシステム(現在は日経システム構築)に所属していたころに比べ,取材がかなり減った。その代わり,書籍を読む時間が増えた。月数冊のペースで,IT,コンピュータ,プログラミングに関する書籍を読む。書店に行く回数も増えた。

 “記者”として取材が減るのはよろしくない。でも,“編集者”として読む書籍が増えたのも悪くない。日々,他人が書いた原稿を読んだり,自分で原稿を書いたりする私に,書籍は知識だけでなく,企画やタイトル選定のセンス,著者が書籍を書くときの気持ち,読者への語りかけ方――など多くのヒントを与えてくれる。ありがたいことである。

 本誌編集部にはそれこそ本棚からあふれて書籍が散乱しているが,読み,印象に残った本は,雑然と積み上げられた中でも少しだけ目立って見える。今回の記者の眼では,そんな書籍を3冊ほど紹介したい。いずれもここ1年の間に発行された最近の書籍である。

読者を身構えさせず,ストレートに表現する

CPUの創りかた
CPUの創りかた
 今年最も衝撃を受けた本を最初に紹介したい。「CPUの創りかた」(渡波 郁 著,毎日コミュニケーションズ)である。

 なんといっても表紙がスゴい。アニメ調というか,オタクっぽいメイドさん(?)が,テスターのプローブを握っている。日経ソフトウエア編集部では,このような表紙の書籍を「萌え本(もえぼん)」とか「萌え系(もえけい)」と呼んでいる。ここ1,2年ほど,IT関連に限らず,このようなイラストの書籍がいくつかでている。発売前に本書の表紙を見た瞬間,私は自分とは関係ない本だと感じた。ここをお読みの皆さんもそうかもしれない。

 ところが本書の発売日,事件が起きた。Amazon.co.jpの総合ランキング,ベスト10に本書が突如ランクインしたのである。たしか総合7位だった。萌え本恐るべし。

 ちょうどそのとき,日経ソフトウエアでは書籍の特集を企画中だった。売れている本をチェックしないわけにはいかない。編集部がいつも書籍を購入している書店に電話する。売り切れである。発売日なのに。あわてて,版元の毎日コミュニケーションズさんに電話をかける。電話に対応してくれた販売担当者さんは「増刷を決めました」と嬉しそうに語っている。発売日なのに。ともかく誌面に紹介する目的で1部わけてもらった。読んでみた。面白かった・・・。

 本書の内容は,一言で言えば「デジタル回路入門」である。ほとんどパソコンを触った経験しかない読者を,IC10個からなる4ビットのCPUを組み立てて動作させるところまで,表紙のようなイラストと語りかけるような文章で解説していく。

 面白さの源となるポイントは「親しみ」と「楽しさ」である。難しく高尚な言葉とスタイルで書かれた教科書のような書籍よりも,技術そのものが備える楽しさがストレートに伝わってくる。著者の態度は,前書きで著者自身を「ボンクラ技術者」と言い切るほど腰が低い。おかげで読者は身構えずに,親近感を持って著者が語る言葉を追える。

 実際の著者はもちろんボンクラではなく,読者が怖がらずに楽しめるようによく配慮して本書を構成,執筆しているように感じる。文章とその“ノリ”は,ちょっと不真面目過ぎるかな,という気もしたが,その結果得られる親しみやすさには驚かされた。正直,やられたという気さえする。イラストの雰囲気に好きずきはあるだろうが,コンピュータに興味がある若い技術者に,広くお薦めしたい。

挫折しないよう,細部までていねいに配慮する

暗号技術入門――秘密の国のアリス
「暗号技術入門――秘密の国のアリス」
 2冊目は,「暗号技術入門――秘密の国のアリス」(結城 浩 著 ,ソフトバンク パブリッシング)である。内容はタイトルの通り,暗号に興味がある人に向けて,暗号技術を解説するものである。特徴的なのは,難解で面倒で理解するのに時間がかかる(ような気がする)暗号技術が,とても分かりやすく,読みやすく書かれていることだ。驚くほどに。

 一度読み終えて,内容を理解したあと,著者の狙いを考えながら再読すると,この,分かりやすさのための徹底した配慮が,本書を通して,あらゆる細部で発見できる。

 例えば,数式がほとんど登場しないことである。暗号技術は数学と関係が深いが,著者は,難解な数式はあまり使わず,代わりに図と文章でていねいに解説してくれる。数式が登場する場合でも,簡単な例から複雑な例に進むように配慮している。各章の頭では,簡単な例え話を用意して,これから解説する事柄の大まかなイメージを伝える。これによって,読みとる姿勢を整えると同時に,読む内容が収まるだろう受け皿を頭の中に準備できる。

 覚えるべき重要なキーワードや,読者が安易に予想しがちだが実はそれとは異なる事実は,書体を変えるなどして強調する。いずれも小さな工夫に思えるが,これらが徹底されており,驚くほど快適に,つまづかずに読み進めることができる。

 きっと,この本を書き,仕上げるのはとても時間がかかる作業だったと思う。でも,正確に伝わり,読者がそれを喜ぶことを,著者は強く楽しみにしているのだろう。ファンが増えるのも分かる。ファンでなくても,最近の暗号技術にモヤモヤしたものを感じている方は本書で楽にすっきりできるだろう。

難しいことは難しい,難しいから面白い

Rubyソースコード完全解説
Rubyソースコード完全解説
 最後に紹介する3冊目の書籍が「Rubyソースコード完全解説」(青木 峰郎 著,まつもと ゆきひろ 監修,インプレス)である。本書は,オブジェクト指向言語Rubyの言語処理系のソースコードを読み,内部構造を明らかにする,という内容だ。「はじめに」の冒頭で,本書のテーマはいくつかあるとしたうえで,三つ挙げている。

  • rubyの構造を知ること
  • 言語処理系一般についての知識を身に付けること
  • ソースコードを読む技術を身に付けること

 のっけから大変そうで,難しそうである。本書の著者は,この難題を恐れることなく(かどうかは知らないが),「正直に言って,この本は易しくはない」と言い切る。私はこれを読んで驚いた。でも続きを読んだら少し納得した。

 「自分の能力より劣るものばかり相手にして面白いわけがない。見た瞬間に答えがわかるパズルを解く奴はいない。<中略>能力をギリギリまで使い切り問題を解いてこそ本当に知識を自分のものにできる」

 アグレッシブなのである。前提とする知識レベルは高いし,比較的高度なCのソースをスラスラ読めないと読み進めるのは難しい。世の中一般の書籍に比べれば,いくらか不親切な感じもする。実際私は,読み終わるまで大変苦労した。特に言語処理系の核心といえる構文解析と評価の章は難しかった。まだ理解できたという実感が十分ないところも多々ある。

 でも面白かった。著者が主張したいと思われる「難しいから面白い」という感覚もいくらか理解できた。著者が冒頭で,これから難しいことに向かうのだがそれは面白いからと語ってくれたことや,本文中で難しいところに遭遇するときはその都度知らせてくれるおかげで,じっくり,時間をかけて本書に取り組めた。結果,知識だけでなく,自ら試したことによる経験も得ることができた。

著者の個性を感じて,安心し,信頼できる

 従来,コンピュータ書籍といえば,入門書から専門書まで,特に和書では著者の個性を廃して実直にかかれた書籍がほとんどだった。でも最近では,ここに紹介したように“ちょっと違う感じ”の書籍が増えてきた。

 紹介した3冊は,従来の“コンピュータ書籍風”なスタイルをそのままなぞることをせず,著者が考えるよりよい表現手法で,コンピュータに関する技術を解説している。それぞれアプローチはかなり異なるが,どれも面白く読めただけでなく,知識が効率よく得られた実感もあった。

 これらの書籍に共通するポイントが二つある。一つは読者を強く思って,挫折せず,楽しく読み進められるように配慮してあるというコミュニケーションの基本ができていること。もう一つは,著者のキャラクタが強く感じられることである。

 ここで強調したいのは後者のキャラクタだ。書籍から見える著者の個性が作られたものか,素のものかは分からない。だが,書籍の向こうにいる書き手を読者に強く実感できると,著者と著者が語る言葉へ親しみを持て,安心したり実感できたりする。結果,知識の習得はスムーズにできるし,読後感もより満足いくものになる。

 もちろん書籍に反映させる個性の分量とは無関係に,語るべき事実の正否のチェック,解説すべき項目の並べ方,それぞれの分量など,従来の書籍を作るときに必要な作業の重要さは変わりない。著者のキャラクタをことさら主張しなくても,“良い本”を作ることも可能だろう。それでも私は,著者が従来のコンピュータ書籍風のスタイルから抜け出し,素のキャラクタで語りかけてくれる書籍を快適に感じる。来年も,こんな書籍に数多く出会えれば幸せだ。

 願わくば,そんな書籍の発行を仕事にしてみたいが,それはもうちょっと先のお話かな。

(矢崎 茂明=日経ソフトウエア)

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