タイトルを見て,“そんなもの”として何をイメージするだろうか。実はこのタイトル,日経コンピュータ12月15日号特集の取材を進めていて,多くの取材先で聞いたフレーズだ。

 特集のタイトルは『迫られるLAN再考』である。だが,今どき秋葉原でも買えないものは,LAN関連以外でもいろいろあるだろう。そんな好奇心から筆者の周りの記者に,このフレーズで連想するものを聞いてみた。

 背景には,現在取材を進めている「運用」特集で同じようなフレーズを聞いたこともある。OS,オフィス系や業務系のパッケージ・ソフト,開発ツール,ミドルウエアといったソフトウエアを追加購入できないことがある。世界的に知られた秋葉原でも売っていないものは買えず,運用に支障を来すことがあるという。

もはや売っていなかったPC-98x1

 運用とタイトルの“そんなもの”については後述するとして,記者たちが挙げた“そんなもの”を列記してみると…

 ドレーク(drake)の短波受信機,NECのPC-98x1シリーズ,5.25インチ/8インチ・フロッピ・ディスク,イエロー・ケーブル(10BASE5),初代ファミコン,MS-DOSやWindows初期バージョン,ゲームウオッチ,ドット・インパクト・プリンタ,50ピンのSCSIドライブ,ポケコン,手でクランクを回して脱水する洗濯機,足踏み式ミシン…

 秋葉原の達人からすれば「今でも売っている」ものがあるかもしれないが,まさに千差万別だった。やはりコンピュータ関係が多いが,聞いた人数が十数人と少なかったこともあって重複回答はほとんどない。ただ2つだけ,4人以上が挙げたものがあった。「NECのPC-98x1シリーズ」と「MS-DOSやWindows初期バージョン」である。

 ある記者は今年の2月,部屋の整理をしていたら昔のゲーム・ソフトが出てきて無性にやりたくなり,実際にPC-98x1シリーズを探したという。中古ショップなども回ったが,見つからない。「最終的にはインターネット・オークションで入手しましたよ」とうれしげに語ってくれた。

 市場では売られなくなっても記憶に残るというのは,それだけ広く普及していた“証(あかし)”だ。今でも購入したいと探してもらえるのは,メーカーとしては作り手みょうりに尽きるのではないだろうか。

企業ユースでは「もう買えない」は許されない

 ただ,買えなかった場合,個人ユースであればあきらめて済むかもしれないが,企業システムではそうはいかない。既存のものが壊れたり,追加が必要になったりしたときに「もう買えません」では済まされない。

 例えば,規模拡大や関連システムの開発のため,自社で利用しているのと同じバージョンのソフトウエアを追加購入しようとしても,バージョンアップされているために旧バージョンが入手できないことがある。ソフトウエアなのでメディアがなくても,追加のマシンにインストールは可能だ。しかしライセンスが取得できなければ使えない。

 とはいえ,新バージョンへの全面移行はコストがかかる。稼働を始めたばかりのシステムなのに,あるミドルウエアの旧バージョンが使えなくなってしまい,新バージョンにあわせるために改修が必要になった,というケースもある。

 バージョンアップはオープン系システムの問題としては以前から指摘されている。決して目新しいテーマではない。各ベンダーのサポート方針やバージョンアップの状況を把握しながら新バージョンへの移行時期を見極めなければ,どこかで立ち行かなくなってしまう。筆者自身,過去に何度かこのテーマで大々的な特集を執筆している。それでもあえてここで取り上げたのは,新しい発見があったからだ。

もう買えないを防ぐには,運用部門が開発にかかわる

 「運用部門が開発に積極的に関与する」。これが“もう買えない”問題の被害を抑える1つの方法になる。あるシステムを開発する場合,開発部門はそのシステムのQCD(品質,コスト,納期)ばかりに気を取られてしまい,バージョンに関するチェックがおろそかになりがちだ。無事にシステムがカットオーバーして運用部門に引き継いでも,前述したケースのようにすぐにバージョンアップ問題が出てしまい,改修が必要になってしまったりする。

 インフラを含めてさまざまなシステムの運用を担っている運用部門は,社内全体の状況を把握している。どのソフトのどのバージョンに問題が起きているかや,将来的に連携を取りそうな別システムの状況から,新システムではどのバージョンを使うべきかを開発部門にアドバイスしやすい。運用を想定した開発は,システムのライフサイクル・コストを大幅に軽減してくれる。

 東京海上火災保険では,新しいシステムを開発する際,運用を担当する東京海上コンピュータサービスが用意したチェック・シートに回答しなければならない。運用の観点からチェックすべきことを記したチェック・シートだ。その項目の1つに,「基盤ソフトのサポート期間と,バージョンアップ時のアプリケーションへの影響について確認済み。バージョンアップ時のアプリケーションの改修の費用負担先について確認している」という旨のものがある。システムを開発時だけでなく運用までを含めたライフサイクルで考えなければ,ユーザーに安定したサービスを提供できないという考えが,根底にある。

 当然,ハードウエアのライフサイクルも考えるべきだ。先日,ある大手企業系列のシステム子会社の取締役から,社内クライアントをNEC PC-98x1系からIBM PC系に全面的に置き換えたときの話を伺った。いまだにNECの当時の担当者からは嫌味を言われるらしい。ただ,そのときにコストをかけてでも乗り換えたことで,「追加のPC-98x1を買えない」という事態を避けることができた。

 「今どき秋葉原でも買えません」という言葉から,情報システム部門には,利用している製品の寿命を適切に見極める力が要求されていることを,あらためて感じた次第である。

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 “そんなもの”を巡る考察は,冒頭で述べたように特集『迫られるLAN再考』の取材が発端だった。この記者の眼ではあえて取材時の“そんなもの”を説明しなかった。LAN特集なので当然,ネットワーク関連なのだが,果たして,何か。この特集の総論の一部をこちらのページで紹介しているので,お時間のあるときに考えてみていただければと思う。

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(小原 忍=日経コンピュータ)