「ITサービス市場は縮小傾向にある」。そんな声がソリューションプロバイダ(ITサービス会社)各社の2003年度中間期決算の説明会から聞こえてきた。理由は,(1)顧客からの値下げ要請が強まってきたことと,(2)同業同士の価格競争が激しくなってきたこと。

 その打開策は中国など海外での開発,外注先の絞り込み,人件費の削減,そしてプロジェクト管理である。だが,これらの多くは数年前から取り組んできたもの。新市場の開拓や新サービス商品の投入といった戦略を打ち出すソリューションプロバイダは少ない。

 筆者は長年,ITサービス業界を取材し続けきており,この業界に愛着もある。各社がいろいろ努力してきたのも知っているのだが,もっとがんばってもらいたいという気持ちをこめて,ここはあえて苦言を呈する。

環境は一変――この10年,何をしてきたのか?

 一体,ソリューションプロバイダはこの10年間,何をしてきたのだろう。請負体質で,自らが提案するケースはまれ。仕様固めの遅れなどで赤字案件が発生するケースは少なくない。だから決算期には毎回,どこかの企業がプロジェクト管理の徹底化を説明している。

 それでも2000年度までは2ケタ近い成長を継続できていたし,年商500億円企業なら「年商1000億円を目指す」,年商1000億円企業なら「年商3000億円を目指す」という威勢のいい話もあった。

 だが,「ユーザーの目が肥えてきた」(あるソリューションプロバイダの幹部)ことで,IT投資にシビアな考え方を持ち始めた。特にコスト圧縮や投資対効果を強く求めてきており,2003年度通期で2~3%売り上げが減少するとの見方をしている。そんな程度ではなく,この数年間でIT投資を半減するという動きも出てきている。

 ソリューションプロバイダを取り巻く環境が一変したのだ。「何でもできます」という特色のないソリューションプロバイダや,自主ビジネスを展開できないソリューションプロバイダなどの業績が落ち込みはじめた結果,ITサービス業の業績は成長から一転して2001年度は1.8%増(大手会社の合計では6.2%増),2002年度は2.4%減(同0%),そして2003年度の見込みも大手ソリューションプロバイダ合計で2.2%増なので業界全体では横ばいだろう(別表「大手ソリューションプロバイダの2003年度中間決算(日経ソリューションビジネス作成)」参照)。この数字を下回る可能性もある。

 M&A(買収・合併)で増収増益を達成しようとする企業もあるだろうが,多くは「売り上げはやや減るが,利益は微増を確保する」という戦略である。中国へのシフトや外注先の絞り込みなど,より安いコストで開発する体制を整備しようとする大手ソリューションプロバイダが目立つ。

早く「自社でしか提供できないサービス/商品」を生み出そう

 そのしわ寄せは下請け会社などにいく。大手メーカーや大手ソリューションプロバイダの傘下に入ることで生き残りを図ろうとするところもある。そして,経常利益率は5%前後を確保したいとする。

 もちろん品質の向上,コスト削減は重要なテーマではあるが,次の成長を担う戦略がなかなか見えてこない。この間に提案力を磨いたり,マーケティング部門を設けサービス商品を開発したりすることを怠ってきたのではないだろうか。「ユーザーから提案を出してくれと言われたところ,当社の営業は見積書を出した」(あるシステム・ディーラーの役員),「ユーザーに行くのではなく,大手メーカーに営業に行っている」(あるソフト会社の役員)というソリューションプロバイダもある。

 ワンストップ・ソリューションを売りとするネットワーク系ソリューションプロバイダは,本当に1社でユーザーの要求に対して,すべての分野で高い能力を持っていると思っているのだろうか。別のネットワーク系ソリューションプロバイダのマーケティング担当者は「ネットワークだけの商談なら勝てるが,アプリケーションを含めた商談になってくると,大手メーカーに負けてしまう」と嘆く。弱い部分は強いソリューションプロバイダと協業していくという考え方はないのだろうか。メーカー系ソリューションプロバイダは親会社の製品にこだわりすぎてか,売り上げを大きく下げたところもある。

 ITサービスとは何かを問い直す必要があるだろう。ソリューションプロバイダは日本企業のIT活用を推進する大きな役割を担っているはずだ。マーケティング力をつけ,そして開発投資をし,自社しか提供できなようなサービス商品や,他社がなかなか真似のできないサービスを作り上げる。人材育成も大切であるし,ITサービスの内容,効果などを分かりやすく説明する。それが今のソリューションプロバイダに求められている。ソリューションプロバイダが元気なら,日本企業のIT活用はますます推進されていくだろう。

 最後に,ITサービス各社のトップがITサービス市場の現状をどう見ているのかを,2003年度中間期説明会でのコメントからひろってみた。

●NTTデータの浜口友一社長
苦しい中でなんとかここまで持ってきたという感じだ。依然として,システム・インテグレーション・ビジネスのデフレ傾向が続いている。こうした状況の中で売り上げを伸ばすのは簡単ではない(11月7日付けニュース」から)。

●伊藤忠テクノサイエンス(CTC)の岡崎友信社長
売り上げよりも利益を重視している。売上原価の見直しをしてきたし,経費も節減してきた。コア事業の通信は底をうち反転してきた。

●富士通ビジネスシステム(FJB)の鈴木勲社長
ハードウエアの低価格化が止まらない。国内のソリューション・ビジネスが飛躍的に伸びることはなく,緩やかな伸びになるだろう。

●TISの船木隆夫社長
昨年下期からアゲンストの風が吹いている。価格競争も激しくなってきているし,今年下期も厳しさは続く。売り上げの3分の1を占めるアウトソーシングが下支えしてくれた。

●日立情報システムズの堀越彌社長
ソフト開発は規模の小口化と単価の下落で売り上げが減少している。伸びが難しくなってきたので,他社の市場をとって事業を伸ばす。そのためには当社の強みとは何かを明確にする。

●新日鉄ソリューションズの鈴木繁社長
昨年下期から市場が低迷,縮小してきている。デフレ傾向は強まっており,供給過多でITベンダー同士の価格競争が激化している。本格的な回復はずれ込むだろう。

●NECソフトの関隆明社長
通期の見込みは楽な目標値ではないが,不可能な数字をあげたとは思っていない。「安くしてくれ」という圧力が強まっており,2~3%の利益のズレが出てくるだろう。これは当社だけの特殊事情ではない。

●電通国際情報サービスの瀧浪寿太郎社長
ユーザー企業のROI(投資対効果)意識など構造的な変化が起きている。単価プレッシャーは競合他社よりも大きく,上期で5億円程度の影響があった。

(田中 克己=コンピュータ・ネットワーク局コンテンツ開発長)