ITプロフェッショナルがここまで過酷な労働を強いられているとは。これは現在応募をお願いしている,「ITプロフェッショナルの給与・処遇」に関するアンケート調査に寄せられた回答者のコメントを読んだ,私の偽らざる感想だ。特に目立ったのが,「収入が減った」というものだ。そのいくつかを紹介する。


●「グループ会社全体の業績不振により,管理職は給与カット,賞与カットを強いられている。過酷な勤務に耐え,高い業績をあげたのにもかかわらず,年収は激減した。残業代を貰える部下よりも低い年収では,全くやる気が失せてしまう」(メーカー系インテグレータ,42歳)

●「賞与は減額しているにもかかわらず,配当は増額しているという状況に疑問を感じる」(独立系インテグレータ,38歳)

●「給料10%カットが5年連続している。2年,3年と期限を区切っているが,そのままずるずると延びている」(製造業ユーザー,31歳)

●「今年度から,一般社員に残業代カット,管理職以上は一律年収10%カットが実施された」(独立系インテグレータ,41歳)

●「どれだけ成果を上げても,不景気という理由で給与が上がらない」(メーカー,27歳)


労働時間は延び,残業代はナシ

 「収入が減った」というコメントと同様に,「残業時間が異常に長い」という書き込みも多かった。その中でも,私が最も衝撃を受けたコメントがこれだ。


●「名目上『超過勤務手当』があるが,支払われない場合がほとんど。200時間近い残業を強いられた場合でも支払われた残業代が1時間分だけ,などは日常茶飯事」(独立系インテグレータ,25歳)

 残業時間だけで200時間である。平日は毎日午前8時から午後10時まで14時間働き,さらに土日も毎日出勤して10時間働いて,やっと1カ月200時間の残業である。


●「顧客との契約では残業分が別途支給されているが,働いている当人には会社から残業代の支給がされない。忙しい時期などは残業時間が200時間を越えることもあるが,支払いは一切ない」(ソフト会社,28歳)

●「残業代という概念がなく,200時間働いても給与明細の残業欄はすべて“0時間”と扱われている」(独立系インテグレータ,27歳)

●「我が社には残業代を支給する“残業”という概念がない。にもかかわらず,1カ月の残業時間が100時間を越えた場合などに義務付けられた,長時間“残業”健診というものが存在する」(独立系インテグレータ,30歳)


 このようなコメントが他にも数多く寄せられた。


●「労働基準法は絵に描いた餅である。IT業界では労働基準法違反が横行しているので,罰金をしっかりとれば政府の財源につながるのではないか。正当な賃金が支払われれば,源泉徴収の税収増にもつながる」(製造業ユーザー,39歳)

 という皮肉混じりなコメントは,実に良い指摘だと思う。

 「収入が減っているにもかかわらず,労働時間は延びる一方」。社員のモチベーションは下がり続け,企業の業績も大幅な改善は望めないだろう。そうなれば企業は業績不振を理由に,さらなる労働強化,賃金抑制に走る。こうした状況が続けば,日本のIT業界が疲弊しきってしまうことは間違いない。どこかでその“負の連鎖”を食い止めなければならない。

 最後にもう一つのコメントを紹介したい。


●「能力や成果を基にした人事考課制度や社内公募制度など,会社の仕組みは整っている。しかし結局のところ,それを運用する上司の意識が低いので,不満は解消されていない。人を育て,部下の功績を正当に評価するという企業文化を作るのが先決だと思う。どんなに制度というハコを改善していっても,それを良い方向に活用していく意識という中身が伴わなければ,意味がない」(独立系インテグレータ,25歳)

 結局のところ,一人一人の意識が変わらなければ何も変わらない。私はこの調査が,IT業界の意識を変えるきっかけになってほしいと考えている。そのために,皆さんのお力を是非お借りしたい。できるかぎり多くの方に,ご自身の労働実態や,働くということへの思いを書き込んでいただきたい(ご回答はこちらのページからお願いします)。

 より多くのITプロフェショナルの労働実態と思いを集めて,日経コンピュータの12月29日号にぶつけてみたい。このIT Proサイトでも,概要を何らかの形でご報告する予定である。

(松浦 龍夫=日経コンピュータ)