苦虫をかみつぶし,うつむき加減の富士通と日立製作所。リソースの国内集中で利益が回復し笑みがこぼれるNEC。売り上げが望むままには伸びずオンデマンド効果がいまだ見えない日本IBM――。大手4社の2003年度上半期決算の悲喜こもごもの寸評だ。

 この2003年度上半期の決算は「日本のIT産業の歴史の中で,記憶にとどめ置くべき」エポックなものとなった。国産3社が,IT事業の戦闘領域を明示したからだ。ITバブル崩壊後の激しい競争の中での生き残りに向けて,それぞれに進む道を選択したわけだ。

 日本のIT市場はこれまで,欧米のITベンダーから「ミニIBMが3社,存在する」と言われ,事あるごとに経済産業省から業界再編の格好のターゲットにされ続けてきた。それが,2003年度上期から金太郎飴状態から抜け出し,それぞれの個性や持ち味を出すように変わりつつある。これにより国産3社のIT事業再編話も当分,棚上げとなるのは確実だ。

グローバル狙う富士通,サービス事業では国内重視の日立,NEC

 まず富士通は,米IBMのようにサービス事業を柱に全方位でIT事業を展開するグローバル企業をあくまでも目指す。売り上げや利益の規模は,まだまだIBMに見劣りするものの,米HP(ヒューレット・パッカード)を加え米国に2社あるのなら,日本にもIBM型が1つあってもいいという論理を貫く。日本企業のグローバル化を支えるITベンダーの存在は,国策にもかなうはずだ。

 これに対して日立は,グローバル展開といいながらも主体はHDDやストレージなどハードの輸出企業として攻める。上半期のHDD生産は前年同期比で5倍伸び,2006年にはHDDだけで6000億円を目指す。その代わりサービス事業は,米国で小規模コンサルティング企業買収という接点はあったものの,国内市場主体で臨む姿勢は変わらない。

 そして自らを「臆病なので・・・」と言い,石橋をたたく金杉明信社長に率いられたNECは,海外展開に伴うリスクの極小化を狙いITリソースを国内市場に絞った展開を見せる。上半期のIT事業の営業利益は13.4%増の339億円。富士通が60.9%減,日立が87.4%減と,両者が海外事業の重さで沈む中,富士通の4倍,日立の5倍を稼ぐ。海外はせいぜい日帰り圏の中国や東南アジアにとどめる方針だ。

 もちろん,これら3社の戦略は永劫のものではない。NECの金杉社長も「国内を固めた後に,米市場へはアライアンスや企業買収で再度挑みたい。2005年がメドだ」と,意欲をチラッと見せる。しかし,米パッカードベルの買収・撤退の後遺症と「来年は黒字,来年は黒字」と言い続けて10年を経た富士通の“狼少年型”グローバルビジネスを間近に見ているだけに,難しい選択を迫られそうだ。

富士通,日立の課題は不安定な海外事業

 それほどに海外事業は不安定だ。富士通の営業利益は,2002年度上半期の207億円が2003年度上半期は81億円に急減したが,その中で欧米100%子会社3社が同50億円の赤字というのは,いかにも辛い。通期で黒字を見込むものの富士通内部では,より抜本的な改革が叫ばれている。具体的には,IBMによるコンサルティング会社買収・統合の富士通版となる,富士通サービス(旧英ICL)と富士通コンサルティング(旧米DMR)の経営統合だ。2社の合併で売上高4200億円の「富士通グローバルサービス」が誕生する。

 富士通は持分法適用でかろうじて黒字の富士通シーメンスコンピュータも抱える。4社合計では2003年度1兆1400億円の売上高。IBMの優良海外子会社である日本IBMの4分の3程度の規模になる。

 一方,日立は決算発表時に「日立全体の輸出比率は35%と史上最高を記録」と胸を張ったが,IBMからのHDD事業買収が貢献したのは言うまでもない。問題は利益だ。2002年度上半期のIT事業の営業利益421億円をたちまち食いつぶしてしまった。2002年に960億円もの赤字を出したIBMのHDD事業を買収したのだから,すぐ結果が出るはずもない。しかし,2003年度の赤字見込みを400億円から200億円に減らし,2004年度は黒字転換を狙っている。

(北川 賢一=日経ソリューションビジネス主席編集委員)

この記事は,日経ソリューションビジネス 2003年11月15日号のコラム「乱反射」より転載したものです。