オープンソースに関する特集記事を日経バイトの2003年11月号でまとめた。そのテーマの一つが,オープンソースとビジネスがどのように融合するかだった。利用とコピー,改変が自由にできるオープンソース・ソフトウエアが,企業に新しい収益を生むのかという話である。その手法の一つをここで紹介しよう。ソフトウエアの開発企業が採用可能なものである。

 ソフトウエアの開発企業にとって,自社のソフトウエアをオープンソースにするのは通常,自殺行為である。ライセンス収入をほぼあきらめることになるからだ。オープンソースはその定義から,「ソフトウエアのコピーは自由」という条件がある。コピーが自由なら,ソフトウエアを提供するだけでは,ほぼ収入は得られない。誰しもお金を払うより,コピーを無償で入手する方を選ぶからだ。コピーを入手するコストは,インターネットというインフラを使えば限りなくゼロに近づく。

 こうした条件でも工夫すれば,オープンソース・ソフトウエアからライセンス収入を得られる。具体的には,オープンソースのライセンスと商用ライセンスという二つのライセンスを使い分けるのである。データベース・ソフトウエア「MySQL」を開発したスウェーデンMySQL社や,GUIツールキット「Qt」を開発したノルウェーTrolltech社がこの方法を採用している。

商用ライセンスで購入すれば,派生物をGPLで公開しなくてよい

 MySQL社は,データベース・ソフトMySQLのすべてのソース・コードを公開し,GPLで配布している。MySQLを使うだけなら,同社のWebサイトから無償でダウンロードできる。それでもMySQLの売り上げのメインは「ライセンス収入」(MySQL社Co-Founder and OpenSorcererのDavid Axmark氏)だという。それはMySQLの商用ライセンスによる収入である。

 GPLで配布されるオープンソース・ソフトウエアは,それを組み込んだパッケージ・ソフトウエアや機器を販売したいメーカーには使いにくい面がある。GPLで配布されているソフトウエアを再配布(販売)するには,そのソフトウエアの派生物,つまり改変したり拡張したりした部分をGPLで公開する必要があるからだ。こうしたメーカー向けにMySQL社は,商用ライセンスを販売している。商用ライセンスでMySQLを購入すれば,その派生物をGPLで公開する必要がなくなる。

 この手法では,オープンソースのライセンスにGPLを使っていることが重要である。GPLの代わりに修正済みBSDライセンスなどを使うと,この仕組みは成り立たない。修正済みBSDライセンスでは商用ソフトウエアへの取り込みが可能だからだ。

 MySQL社は「将来的にはサポートの収入を増やしていきたいが,サポートには人手がかかる。人手が少ないベンチャー企業にライセンス収入はありがたい」(Axmark氏)という。

著作権の譲渡問題に注意を払う

 もっともこの仕組みでソフトウエアを開発する際には,社外の開発者が開発したソース・コードを取り入れる際に,著作権を譲渡してもらう必要がある。社外の開発者が著作権を持つコードを取り入れてしまうと,その著作者がライセンスとしてGPLを主張できることになり,ソース・コードを非公開にできる商用ライセンスでの販売ができなくなるからだ。商用ライセンスで販売できるようにするには,すべてのコードの著作権を自社で保持しておかなければならない(注1)

注1:このため簡単なパッチ程度なら,指摘を受けた部分をMySQL社自身が書き直すことが多いという。

 社外の開発者に著作権の譲渡を依頼することは,コミュニティの開発者のやる気を殺いでしまう危険性がある。著作権の譲渡は,開発者のそれぞれが著作権を持つソフトウエアが,自由に共有されるというオープンソースの文化にはもともと不要なものである。

 そこでMySQL社は,MySQLへの貢献が多い外部の開発者を自ら雇用することで著作権の譲渡問題を小さくしている。開発者が海外に住んでいるような場合は,在宅勤務してもらう。このようにして雇用した開発者は,現在,15カ国に広がっているという。

(安東 一真=日経バイト編集委員)