電話番号を検索キーにして相手のWebページのURLやメール・アドレスを調べる「ENUM」という技術を検証する業界団体「ENUMトライアルジャパン」が,この9月に設立された(関連記事)。そしてインターネット上で実証実験を行い,来年10月をめどに課題を検証する。

 実用化すれば,ユーザーは名刺などに書かれた相手の電話番号から,ホーム・ページのURLなどが調べられるようになる。IP電話なら電話番号からSIPアドレス(IP電話の接続先を表す)なども調べられるので,通信事業者にとっては,通話相手がつながる事業者を特定するために利用できる(詳細は後述)。

 このENUM,しくみそのものは意外と単純なので,今すぐにでも実現しそうなのだが,運用面にいくつかの課題がある。みなさんはどう思うか,ご意見がいただければ幸いです。

電話番号をドメイン名のように扱う

 まず,ENUMのしくみを簡単に確認しておこう。知っている方は,次の小見出しまで読み飛ばしていただいてかまわない。

 ENUMは,今あるDNSのしくみを少し拡張するだけだ。DNSはドメイン名に対するIPアドレスなどを調べるしくみ。ドメイン名に対応するIPアドレスはAレコード(AはAddressの意味)という属性(データの種類)が付いてDNSサーバーに登録されている。例えば,

  www.nikkeibp.co.jp. A 210.145.117.79

というように登録されている。したがって,そこに問い合わせればドメイン名に対応するIPアドレスが分かる。

 ENUMでは,電話番号に対応するURLやメール・アドレス,あるいはSIPアドレスをDNSサーバーにNAPTRレコード(NAPTRはNaming Authority Pointerの意味)として登録しておく。

 ドメイン名はピリオドで区切って階層ごとにDNSサーバーが管理する範囲を分散させているが,この点も同じである。例えば「03-5696-1111」という電話番号は,日本の国番号81を付けて余計なハイフンを除き,「81356961111」という番号にする。さらに番号を逆に並べ替えたうえでピリオドをはさんで,最後に電話番号を示す文字列(.e164.arpa)を付加する。つまり,「1.1.1.1.6.9.6.5.3.1.8.e164.arpa」という名前がENUMでのドメイン名に相当する。したがって,DNSサーバーには

  1.1.1.1.6.9.6.5.3.1.8.e164.arpa. NAPTR mailto:nnw@nikkeibp.co.jp
  1.1.1.1.6.9.6.5.3.1.8.e164.arpa. NAPTR sip:050xxxxxxxx@nikkeibp.co.jp

のような情報が保存される。

 このような形式で表記すれば,1.8.e164.arpaまでで国内,3.1.8.e164.arpaで東京都区内というように,管理するDNSサーバーを分散できる。

誰が情報を登録・更新するのか

 ENUMはDNSを少し拡張するだけなので,技術的には比較的簡単に実現できそうに思える。問題は運用方法にある。

 ドメイン名は管理する範囲に合わせてDNSサーバーを設置できる。例えばitpro.nikkieibp.co.jpなどのドメイン名は,日経BP社が管理するnikkeibp.co.jpドメインのDNSサーバーに登録すればよい。

 ところが,3.1.8.e164.arpaの配下(03で始まる)にある電話番号は,NTT東日本の加入者だけとはかぎらない。090で始まる携帯電話の電話番号だったら,もっと事業者が増える。今のところは,事業者ごとにブロック単位で電話番号が割り振られているので,まだ何とかなるかもしれない。でも,携帯電話の電話番号などは,事業者を乗り換えても同じ電話番号が使い続けられるようにする動きもある。こうなると,番号のある桁数で事業者に割り振って,ENUMを管理するというわけにはいかなくなる。したがって,複数の事業者が共同でENUM用のDNSサーバーを管理・運用することが不可欠になる。

 また,ユーザーがDNSサーバーの登録された情報を書き換えたい場合,ユーザー自身が書き換えるか,事業者に依頼して書き換えてもらうのかも決めておく必要がある。いずれにしても,1台のDNSサーバーが管理する情報のうち,どの部分をだれが書き換えられるかといったアクセス制御が必要になってくる。

 さらに,こうした技術的な側面だけでなく,個人情報保護の観点から考えてみる必要もありそうだ。電話番号からメール・アドレスなどを調べられるので,スパム・メールの配信先アドレス収集などに利用されるかもしれないのだ。そもそも,自分のメール・アドレスが勝手にDNSサーバーに登録されるのを認めるユーザーは少ないだろう。

 こう考えてくると,事業者がIP電話(あるいはインターネット電話)のSIPアドレスを調べるためだけにしか利用されないのではないかと思う。今,国内でサービスが提供されている050番号を用いたIP電話システムではENUMの出番はない。SIPサーバーが相互接続している事業者間ではIP網で直接通話できるが,相互接続していない事業者間では固定電話経由になってしまうからだ。

 しかし,今後,政治的理由などにより,SIPサーバーが相互接続していなくてもインターネット経由で通話できるようになるとか,通話品質の劣化を許容するようになれば状況は変わる。こうなれば,ENUMによって全世界の電話機がインターネットを介して通話できるようになる可能性があるのだ。みなさんは,どう思いますか?

(三輪 芳久=日経NETWORK副編集長)

【追記】下記のアンケートの分析記事を掲載しました(2003/11/14)。

【追記】下記のアンケート受け付けは11月12日に終了しました。ご協力ありがとうございました。分析記事は近日中に掲載します(2003/11/12)。

IT Proに会員登録をされている方は,ぜひ以下のアンケートにご協力をお願いします(回答はお一人様一回とさせていただきます)。結果は後日このページで発表します。

Q1.あなたはENUMが普及すると思いますか?

普及すると思う
普及するとは思わない
分からない

Q2.ENUMについてご意見がございましたら,簡潔にご記入ください。

Q3.上記ご意見をIT Proや日経NETWORKなど弊社メディアのアンケート結果記事などで公開してもよいでしょうか?
  (「実名で公開してよい」とご回答の方は,お名前を上記自由意見欄にご記入ください)

実名で公開してよい
匿名で公開してよい
公開してはいけない 

ご協力ありがとうございました。