Oracle Worldの翌週に当たる9月16日,米国サンフランシスコの同じ会場で開催されたSunNetwork2003で今度は,米サン・マイクロシステムズのスコット・マクニーリ会長が,米マイクロソフトを頂点とするソフト産業に革命を起こしそうな料金体系を発表した。サンが持つ225種類のOSやミドルウエアを6グループに分け,例えば,サーバー・ソフトは「従業員1人当たり年間100ドル」など,シンプルさを強調した値付けだ。米デルがハードで採った戦略をソフトで実施する。

 OracleWorldで米オラクルのラリー・エリソン会長は「オラクルのエンタープライズグリッドの提供で,40年間続いた大型サーバー開発競争は終焉を迎える」と,米IBMや富士通などのハード・ベンダーにソフト・ベンダーからの挑戦状を突きつけた。これに負けてはならじとマクニーリ氏は「ソフト・ベンダーの人たちは顧客よりも高い車に乗っている」と,非常に分かりやすい言葉を使って,ハード・ベンダーからソフト・ベンダーにリコールを放った。IT業界を代表する2人の“毒舌”CEO(最高経営責任者)は,他人が安住するエリアの喉奥に手を突っ込みかき回す。

 「ハードもソフトも従量制課金により,すべてがサービスになる」というITユーティリティの大波の中では,ハード・ベンダーかソフト・ベンダーかを定義すること自体に意味がなくなる。とはいえ,個性を薄めるユーティリティの世界はもう少し先。2人の戦法は,まさに産業構造が変わる過渡期にこそ効果が出るもので,ITトレンドのセッター役をしっかりと演じた。

起死回生策を立て続けに打ち出すサン

 サンの売上高は,9四半期連続で対前年同期比マイナスが続いている。そこで2003年2月,2つの起死回生策を明らかにした。第1がプロジェクトOrion。「コストと複雑さ」を取り除き,OSであるSolarisをWebサービスのデータ・センターにおける競争力が高いプラットフォームにする。すべてのサーバー・ソフトを年間契約料金で提供し,四半期ごとにアップデートする。これに加えて,マイクロソフト互換でLinuxベースのデスクトップ・ソフトを年間契約料金で提供するMad Hatterを用意する。OrionとMad Hatterでサンは,マイクロソフトと真っ向対決の姿勢を再度,明示した。

 SunNetworkでは,これらのソフト統合戦略をSun Java Systemとして全貌を発表した。年間契約料金は,サーバー向けEnterprise Syetemが冒頭に上げた従業員1人当たり100ドルで,デスクトップ向けDesktop Systemはデスクトップ1台当たり100ドル,開発ツール・セットのStudio Enterpriseは従業員1人当たり5ドルだ。いずれも移行サービスや教育,保守料を含む。他に,運用ツールN1など3つのグループがある。

 どれだけのコスト削減になるか,日本のある金融ユーザーが見積もってみた。IBM製メインフレームを19台利用するこの企業は,OSとミドルウエアの保守料金を日本IBMや他のソフト会社に年間約30億円支払っている。従業員は5万8000人。サンのサーバー向けソフトと開発ツールを単純に適用すると年間609万ドル(6億7000万円)で,4分の1以下になる。サンによるとデスクトップはマイクロソフトの7分の1だ。

 もう1つの策は,スループット・コンピュータの開発。2000年に比べ200億ドルも縮小したサーバー市場で,トップへの返り咲きを狙う。デルを筆頭に,今日のサーバーはコモディティ(日用品)な技術をレンガのように積み上げて最先端サーバーを作り上げている。そんな風潮の中でサンやIBMは,技術的な飛躍を実現した企業だけが明日の大量販売業者になるとの信念を絶やしていない。

 サンが開発する半導体技術のアプローチは,チップ上にプロセッサを多数搭載し,同時処理速度を格段に引き上げるもの。2005年に完成するサーバーは現行の同等サーバーに比べ15倍高速になる見込みで,2008年には今の32倍を実現する。このロードマップには「第2のDECになる」との噂を一掃したい願いがこもる。それを手に,マクニーリ会長が今月20日,来日する。

(北川 賢一=日経ソリューションビジネス主席編集委員)

この記事は,日経ソリューションビジネス 2003年10月15日号のコラム「乱反射」より転載したものです。