「ネットデイ」という言葉をご存じだろうか。小中学校の児童や生徒の一人ひとりがインターネットにアクセスできるように,ボランティアが集まって学校内にネットワーク環境を構築するイベントのことである。このページを見ていただくとイメージがわくだろう。

 実は,9月20日の土曜日に筆者の地元の小学校でネットデイがあったので,参加してきた。今回はその体験談と,ネットデイに参加して学校のネットワーク化について考えたことを書いていきたい。

下心を持ってボランティアに参加

 そもそもネットデイというのは,あまりお金をかけずに,ボランティアの協力を得て学校内のネットワーク化を進めてしまおうというもののようだ。しかし,単にお金を節約するのだけが目的ではない。学校と地元の父兄などのボランティアとの連携や連帯感が生まれるという効果もある。

 筆者の場合,日経NETWORKという雑誌に携わっていることもあり「何かお役に立てることもあるだろう」という気持ちと,「あわよくば記事になるかも」という下心が働いてネットデイに参加してみることにした。

 筆者の参加した「ネットデイ」は,地元の小学校にLANの配線をして,各教室からインターネットにアクセスできる環境を整えるのと同時に,「パソコン・ルーム」を新設してしまおうというものである。

 ネットデイそのものは市の教育委員会の主導で2003年度から5年間をかけて市立の小中学校全校にLANを敷設する計画に基づき進められる。しかし,どのようなネットワークを構築するのか,どういった授業にそのネットワークを利用するのか,何台のパソコンを導入するのか――といったことは,それぞれの学校で個別に決めていく。その中心的な役割を果たすのはそれぞれの学校の先生で,それをサポートして実際にいろいろな仕事をするのがボランティアというわけだ。

 ネットデイを担当するのは,この春ほかの学校から赴任したばかりのS先生。「パソコンやネットワークにはあまり詳しくないので,みなさんが頼りです」とのこと。一応前もって筆者の仕事と記事にさせてもらうかもしれないという意図をお伝えし,快諾していただいた。

担当の先生はとっても大変

 今回のネットデイのボランティア募集があったのが6月中旬。そこから,参加の意思表示をしたボランティアの人たちの仕事の分担を決め,それぞれ作業を進めていった。筆者を含むボランティア三人(他のお二方は大手通信事業者と大手電気メーカーにお勤めの技術者である)は,S先生と協力して,まずネットワークの論理的な設計を担当することになった。

 メーリング・リストや実際の打ち合わせを経て基本的なネットワーク構成の検討を進め,大枠が決まったのが夏休み前。LANスイッチなど購入するLAN機器を選定し,コネクタやLANスイッチのおおまかな設置場所を決めるといった作業を並行して進めた。

 この間,S先生は週末も学校に出て,作業の調整や研修などをこなしていたようである。まず先生の努力がないとネットデイは成功しない。一方,筆者はメーリング・リストで横から文句を言う程度のお助けしかできなかった。ボランティア参加に手を上げてみたものの,なかなか時間を作れなかったという言い訳もあるのだが,今になって思うと,前もって仕事を明らかにしてしまったことで,スムーズなコミュニケーションができていなかったのではないかと思っている(これがネットデイ当日の作業に影響することになったのかもしれない)。

 その間,担当の先生と父兄のボランティアの方が中心となった配線グループでは,具体的にどうやって校内にLANケーブルを配線するかを決め,詳細な図面を作成して,必要となる各ケーブルの長さを調べていた。さらに,9月20日のネットデイ当日の作業を円滑に進めるため,配線の難しい個所については,夏休み中に地元の配線業者の方に協力して頂いて済ませていた。地元の配線業者の方は,利益なしの実費で基礎部分の配線作業を請け負ってくれたという話だった。

当日の作業でトラブル発生!

 ネットデイ当日は,残暑もおさまった作業日和。朝の9時15分に集合し,校長先生のお話などを聞いてからそれぞれのグループに分かれて作業を行った。実際にLANケーブルを校舎のあちこちに配線する配線グループ,記録をとるグループ,昼食を用意する児童のお母さんたちのグループなど,ボランティアの方々がそれぞれの役割でネットデイに参加するわけである。

 先に紹介したページでもイメージできるように,ネットデイの醍醐味は,脚立に上って天井裏にケーブルをはわせたり,ケーブルの端に情報コネクタ・ボックスを取り付けるといった工事。しかし,筆者の当日の作業はパソコンの設定だった。パソコン・ルームに新しく導入した20数台のパソコンをインターネットに接続するように設定するほか,1台のパソコンをサーバーに仕立て,その中に各学級のフォルダを用意し,各クラスの児童が読み書きできるようにする計画である。

 実は,パソコン・ルームに設置したパソコンはWindowsXP搭載の新品で,あらかじめ児童用と教師用の二つのIDが登録されていた。さらにインターネットに接続できるような初期設定も済ませてあった。そこで筆者たちのグループは新たにクラス別のIDを登録していったのだが,ここでトラブルが発生した。デスクトップやスタートメニューなど,そもそも元の児童用の設定を新しいIDにコピーする方法が分からず,数時間を無駄にしてしまったのである。

 筆者は,LANなどのネットワークに関する知識は持ち合わせているという自負があるが,ことパソコン(特にソフトウエア)のこととなると怪しくなる。それでもある程度のことはできるつもりだったが,大量のID設定やその設定を多数のパソコンに反映させる方法など,日ごろパソコンを使っているなかではなかなか出くわさない。筆者以外のボランティアのお二人も同じような感触を味わっていたようである。

 結局,配線の済んだ各教室へノート・パソコンを持っていってインターネットにアクセスできるかどうかの最終確認までたどり着けずに,午後3時からのセレモニーに出席。セレモニー後に先生方の協力を得て作業を行い,午後6時すぎにようやくインターネット接続およびフォルダ共有環境の構築が終わった。

システム・コンセプトを固めるのは難しい

 今回こうした結果になってしまった原因の一つはもちろん,パソコンの設定に関する事前の準備不足にあったと思う。配線グループは確実に準備していたおかげで,ネットデイ当日も滞りなく作業が進められていたようである(自分の仕事で手一杯でとても見て回れる状態でなかったので,この点は筆者の想像)。それに対してパソコンのネットワーク設定には,多くの時間を割いていなかった。

 しかし,今回のネットデイを振り返って,筆者は今,別なところに根本的な問題があるように感じている。それは,小中学校のネットワークでは「システム・コンセプト」を固めるのがとても難しいという点である。

 小中学校のネットワークにはさまざまな特殊性がある。例えば,ネットワークを使うユーザーである児童や生徒は,毎年入学と卒業で入れ替わっていく。クラスも毎年変わる。そうした中で,個人にIDを持たせると,その管理は大きな負荷になる。逆に,すべての児童/生徒が一つのIDを使うようにすると,クラス単位のファイル共有やメールの利用などに支障が出る。セキュリティの意識も生まれにくくなる。

 6才から12才まで,年齢的に幅広い児童がいる点も小学校の特徴といえる。つまり,例えばIDとパスワードを入力してログインするという操作一つをとってみても,6年生には簡単にできることが1年生には難しかったりする。ネットワークの使い勝手を学年のレベルに合わせて考えるもの難しい。学年ごとに異なる設定を施すのも手間がかかる。

 ネットデイでは,こうした要素について各学校の方針を固め,それに合わせてネットワークを構築しソフトウエアの設定を決めていく。例えば,教育委員会が画一的に方針を決めてしまい,パソコンの初期設定をそれにあわせておくというのも一つの方法だが,それでは現場の先生方の意向を無視することになり,望ましくないだろう。

 現在のパソコン(OS)は,実にいろいろなことができるようになっている。だからといって,OSの機能を最大限生かすようなシステム設定を専門のシステム・インテグレータに依頼するというのでは本末転倒である。そもそもお金をかけずに地元のボランティアの力を借りて学校内にネットワークを引いてしまおうというのがネットデイの根本的な考えだからだ。

ノウハウの蓄積が欠かせない

 そうすると,自由度を大きく持たせながら,各学校の要求に合わせて手軽にパソコンを設定できるようなノウハウが今後求められることになるだろう。

 余談になるが,実は,ケーブルの敷設や終端処理はもちろん,基本的なネットワーク設計にはノウハウがあった。教師用のネットワークと児童用のネットワークを一つのLAN上で分離するのにバーチャルLAN(VLAN)の仕組みを利用するという点だ。

 教師用のネットワークには児童の個人情報が流れる可能性がある。テスト問題などをサーバーに蓄積するような使い方もするだろう。そうした教師用のネットワークと児童用のネットワークをVLAN機能を持つLANスイッチで分割し,インターネットにつなぐルーターを接続するポートだけ教師用と児童用の両方のVLANに所属するように設定すれば,それぞれのネットワークはお互いにアクセスできないが,どちらのネットワークからもインターネットに接続できるようになるわけだ。この仕組みは今回のネットデイでも利用した。

 こうしたノウハウをパソコンのネットワーク設定についても蓄積していくのが重要になりそうだ。今回筆者が体験したトラブル(不手際)も,その内容をこれからネットデイを実施する学校にノウハウとして伝えていくべきだろう。

機会があればぜひ参加を

 全体的に言い訳がましくなってしまったが,ネットデイというイベントそのものは,地元の人たちや学校と交流できて参加するととても実りの多いものだと思う。実際に実務としてネットワークに携わっている方なら即戦力になるし,ネットワークを勉強している人にとっては貴重な実体験になるはずだ。ネットデイに参加した経験はほかではなかなか得られない類のもの。もし,近くの学校でネットデイをやるような機会があれば,ぜひ参加されることをお勧めしたい。

(藤川 雅朗=日経NETWORK副編集長)