「コンサルタント」という言葉にはかっこいい響きがある,と思う。イメージでいうと,頭が切れて,経営者を惹きつける人間力があり,しかも高収入。取材でも,大手コンサルタント・ファームの人には何度もお会いしているが,総じて分析力や鋭い視点を持った人が多く,話が盛り上がることが多い。

 しかし,これはほんの業界の「上澄み」を見ているだけなのだろう。日経情報ストラテジー11月号の特集「ITコンサルタントを参謀にする」での取材中,とてつもなく玉石混交の業界だという現実が垣間見えた。

 あるユーザー企業の情報システム部長は,ある独立系のコンサルティング会社に頼んだところ,「当社の資料をコピーして,会議にも出席するだけで何も発言も提案もしない。半年間で5000万円も払って当社のことを教えてあげただけだった」と嘆く。

 中堅メーカーの情報システム部長は,国産コンピュータ・メーカーの「ITコンサルタント」に頼んだところ,「製品知識は今ひとつ,会計処理は勘違いする,プロジェクトの進ちょく管理は行き当たりばったり」と散々な評価を下す。当然,途中で先方のリーダーは交代させられたというが,失地回復には至らなかったようだ。

 顧客企業ばかりでなく,下流工程を請け負うソフト開発会社からの評価も厳しい。中堅ソフト会社で,厳格な生産管理手法を実践していることで知られるジャステックの幹部は「コンサルタントがシステム開発の下流まで手がけると,開発経験が乏しいのに無謀なシステムを作る傾向がある。見積もりはあてにならない,性能が出ない仕様を決める,など問題が多い」と厳しい評価を下していた。

「淘汰の仕組み」はどこにある? 「顧客志向」はどう担保する?

 これだけ玉石混交,課題が多いなら,「淘汰の仕組みがないとおかしい」と誰もが思うはず。しかし淘汰の仕組みが機能していない業界だと見る向きがある。

 個別に確かめたわけではないが,大手コンサルティング会社なら大抵は,顧客企業に定期的に顧客満足度を調査していると言われる。ところが「そんな調査は形骸化してますよ」という意見がある。

 これはある大手外資系コンサルティング会社のOBと一席設けて雑談したときのことだ。そのOBいわく「顧客は,5段階評価で2とか3なんて付けたら,下手をすればアジア・パシフィック担当の外人重役が飛んできて,どこがどう不満かと質問攻めにあうんです。でも,システムが動かないのは論外として,システムが稼働して経営が良くなったか良くなってないか,明確に説明するなんて無理でしょう。そんなの面倒だから,顧客は波風立てずに4や5の回答を付けるものなんです。そんな実情だから,トップはともかく,現場のコンサルタントは調査結果なんて気にしていませんよ」という。

 だとすると,コンサルティング会社の「顧客志向」「ソリューション志向」というのはいったいどういう仕組みやルールで担保されるのだろう?

 筆者は,今回の特集取材を終えても,これが最後まで分からなかった。だから特集記事の中では,「とにかく,慎重に選ばなければいけませんよ」というメッセージを強調して,選び方についてあれこれと紹介した。もし「顧客志向はこう担保し強化しています」というコンサルティング会社があれば,それも取り上げたいと考えていたのだが。

 顧客志向といっても,属人的な努力と,組織的な努力がある。しかし属人的な努力については,人間というのは,精神的にも体力的にも余裕のあるときは他人を思いやれても,追い詰められるとなかなか自分のことしか考えられなくなるものだ。

 コンサルタントOBや現役の中堅ITコンサルタントの話を聞くと,「突然プロジェクトにアサインされて営業に業界本を十数冊も机に積まれ大慌てで読んだりした」「コンサルタントは適度な鈍感さが必要。プロジェクトが難航した時に,適度な鈍感さがないと何度自殺するかわからない」「コンサルタント時代のストレスと忙しさに比べたら,公認会計士試験の勉強なんて楽勝でしたよ」など,修羅場を彷彿とさせるコメントが少なくない。

 かといって,組織的な顧客志向の取り組みもあてにしづらい感がある。ある大手外資系コンサルティング会社の広報担当者は,取材拒否の理由として,「結局,当社は,中小企業の集まりみたいなものですから,全社的に営業を工夫しているか,と問われても全社を代表してお答えする部門や担当者がいないんですよ」とおっしゃった(実はこのコメントは,後になって「中小企業の集まり・・・云々は会社の見解ではなく私個人の意見です」と釘を刺されたものだ。しかし同様の意見はそのコンサルティング企業出身のOBからも聞けたので一つの側面を言い当てていると思う)。

「教えられた」ものがなければ,顧客は堂々と文句を言うべき

 結論として,「クライアント企業がもっと,満足・不満足を堂々と主張しないと,コンサルティング業界は淘汰が進まない」というのが今回の主張だ。

 しかしその基準を経営効果では説明不能なら,どこに置くべきか。筆者の提案は,経営トップやCIO(情報戦略統括役員)が,プロジェクト・チーム関係者に「何か,コンサルタントから吸収できたスキルや知識はあったか」と尋ねて,「特になかった」というようなら,堂々と経営トップから不満を述べるべき,というものだ。

それは,課題の可視化といった業務分析の方法論だったり,ERP導入におけるヒアリングの調査票のようなものでもいい。本来,プロジェクトは顧客企業の社員が成長する機会であるはずだ。そこでコンサルタントが来ても何も「教えられた」と感じるものがないなら,顧客企業は堂々とそのコンサルティング企業を糾弾すべきと思うのだが,いかがだろうか。

(井上 健太郎=日経情報ストラテジー編集)