「日経平均,円高を嫌気して大幅続落」「日経平均株価が1万1100円を回復」「12営業日連続で1日の合計売買代金が1兆円超え」――。このところ,国内の株式市場は動きが激しい。自分が株式投資しているわけではないのだが,この1カ月ほど,以前よりも株価の動きがやけに気になるようになった。きっかけは,インターネット証券のWebサイトを襲ったトラブルだ。

7月3日,空前の大トラフィックが

 ちょっと前になるが,7月3日,インターネット証券サイトを膨大なトラフィックが襲った。午前9時に東京証券取引所での取引が始まるとほぼ同時に,通常の数倍に上る記録的な大トラフィックが押し寄せたのである。一部のネット証券会社は,売買を成立させる約定処理に大幅な遅れが発生するなどのトラブルに陥った。

 ネット証券各社は,こうしたピーク・トラフィックにも耐えられるように,システムを設計してきた。多くの場合,「サーバーのCPU使用率が50%を超えない」という目安を設けている。単純計算では,これで通常の2倍程度までならアクセスが集中してもさばき切れる。しかし,裏を返せば,2倍を超えるトラフィックが来ると,システムは対応しきれないことになる。

 実際,7月3日のネット証券サイトへのトラフィックは,いつもとは事情が違った。この日,東京証券取引所で売買された株の数(出来高)は21億株を超えた。それまでは,通常,1日の出来高は6億~7億株程度というから,3倍以上である。もちろん,ネット証券のサイトにも,通常の3倍以上ものアクセスが殺到した。

 もちろん,トラブルに陥った,あるいは陥りかけたサイトでは,急場をしのぐための対策を講じた。例えばカブドットコム証券は,急きょ,増強用のサーバー・マシンを手配すると同時に,アプリケーションの一部を見直し,翌朝までにシステムを強化した。事前の対策で空前のトラフィックをなんとか乗り切ったサイトもあるが,ネット証券サイトへのトラフィックは,その後も増え続けている。このトラフィック増に対処すべく,多くのネット証券会社が,システム増強計画を前倒しで進めている。

 9月に入っても,株価の変動は激しい。日経平均終値が1万1000円を超えたかと思うと,1万500円を切るところまで暴落。活発な取引は証券会社にとってうれしいことだが,半面,7月初旬のトラブルを思うと冷や汗ものだろう。

多くのECサイトも悲鳴を上げている

 ピーク・トラフィックに襲われ,トラブルに直面するサイトは,ネット証券だけではない。ECサイトなどにも,同様の事例がいくつも見られる。例えば,携帯電話向けの「着うた」配信サイトを運営するレーベルモバイルは,2002年末のサービス開始以来,毎月のトラフィック増に苦しんできた。サーバーは増設を繰り返している。アプリケーションも見直した。しかし,それぞれの対策では,トラフィックの増加ペースに追いつくのがやっと。「今月はこれで何とかなったからいいが,来月はどうなってしまうんだろう」――。こんな思いを抱えながら,常に対策を余儀なくされていた。

 では,こうしたトラブルに直面したとき,サイトの運用担当者はどう対処したのだろうか。対策は,サイトによってまちまちだ。単にサーバーを増設する場合もあるし,アプリケーションやデータベース接続の仕組みを見直し,処理の効率化を図る場合もある。サーバー間を結ぶネットワークや,サーバー負荷分散装置をリプレースせざるを得なかったという例もある。

 前述のレーベルモバイルは,動的コンテンツをキャッシュし,短時間に同じコンテンツをキャッシュから返信するようにした。例えば新譜公開時には,同じアーティスト名での着うた検索が短時間に集中しやすい。検索結果をキャッシュから返せれば,データベース・サーバーの負荷を減らせる。果たして,効果は絶大。どんなにアクセスが殺到しても,データベースの負荷が一定以上には上がらなくなったという。

対策に決定打はない

 ただ,残念ながら,ピーク対策に「決定打」と呼べる手法はない。ボトルネックの所在に応じて採るべき対策は違うし,多くの場合,ピーク対策は一時的な解決策に過ぎない。アクセス数がさらに増えれば,再び,サーバーの増設やシステム構成の見直しを迫られる。ボトルネックがシステムのほかの部分に移れば,また別の対策が必要になる。

 ハードウエア的な対策としては,「キャパシティ・オンデマンド」という方法がある。サーバーの負荷状況に応じて動的にCPU数を増減させ,使った分だけ料金を支払うというスタイルだ。ただ,今のところ,キャパシティ・オンデマンドに対応しているベンダーは日本IBMと日本ヒューレット・パッカードだけ。利用できるマシンも,メインフレーム級の大型サーバーだけ。一般のWebサイトには縁遠い。

 結局,サイトの運用担当者は状況に応じて適切な方法を選び,対策を打ち続けていくしかない。どのような場合にも通用する万能の決定打はない。サイト担当者の問題解決能力――動的コンテンツのキャッシュなど,技術的な「切り札」をどれだけ多く持っているか――がWebサイトの成否を分ける大きなポイントになっているのである。

(河井 保博=日経インターネットソリューション)

■「日経インターネットソリューション」11月号では,「Webトラフィックの“突風”を受け止めろ」と題して,ネット証券やECサイトが直面したトラブルと,その対策を追った。決定打はないが,動的コンテンツのキャッシュのように,特定のトラブル内容に対する「切り札」はいくつかある。サイトの高速化に悩む方の参考になればと思う。「ブレードサーバー」を紹介した別コラムと併せてお読みいただければ幸いである。