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デジタルであってデジタルにならないもの

2003/09/20

 いよいよ本放送開始まであと3カ月を切った地上波デジタル放送。テレビ受像機を開発販売する電機メーカーは,高画質が売り物のデジタル放送がくすんで映ってしまっては台なしとばかり,より美しく見るための絵作りの技を競いあっている。

 幕張メッセ(千葉県)で先週開催されたデジタル総合展「WPC EXPO 2003」(9月17日〜9月20日)ではまさにそんな時期にふさわしい,大画面,高画質のテレビが会場のあちこちであでやかさをふりまいていた。その一方で,これまた大盛況なのがデジタルで動画を記録する,DVD/HDDレコーダ,HDDやメモリー・カード型ムービー・カメラだ。テレビ放送から流れてくる映像を録画し,屋外に持ち出し,時間や場所に制約されずに自由に楽しむというライフ・スタイルの提案だ。

 ん? しかし,ちょっと待てよ,待望の高画質地上波デジタル放送をこんなすてきなデジタル・ビデオ・ライフ・スタイルに持ち込むにはどうすればいいの? と考えると,そこには大きなブラック・ホールがあるのに気がつく。モバイル型録画装置はその容量,ディスプレイ装置の制限などから,高画質のデジタル放送を記録するにはそもそも向いていない。しかし,高画質を狙えるDVD/HDDビデオ・レコーダのほとんどでこの部分は,現在のところ完全に考慮の対象外となっているのはおかしくないだろうか。第一,本放送が始まったときに不便ではないか?

 BSハイビジョン・チューナ,地上波デジタル・チューナの両方を搭載し,高画質映像が自慢の薄型テレビ「VIERA」と大容量HDDを搭載したDVD/HDDビデオレコーダ「DIGA」の両方を強力に推進する松下電器産業あたりは,地上波デジタル放送に関してもスマートな録画機能を提供してくれるものと一番期待できるメーカーだが,残念ながら,地上波にせよ,BSハイビジョン放送にせよ,録画するにはいったんNTSCレベルのビデオ映像(アナログ)に品質を落とした上で,録画操作するということになる。

 同じく地上波デジタル・チューナも内蔵し,高画質を追及した「ベガ」,そしてネットワークを通じて好みの番組を大容量HDDに選択録画できる「コクーンチャンネルサーバー」を持つソニーでも,その部分はぽっかりと大きな穴が開いている。BS,地上波にかかわらず,高画質デジタル放送は一旦アナログに戻して録画することとなる。これはデジタル・ハイビジョン放送を録画できる「ブルーレイディスクレコーダ」でも同様だというからガッカリである。

著作権保護の為のスクランブル放送が垣根を作る

 新しい映像生活の入り口に立てる商品が出てきたのに,その生活を広げる応用商品が全くついてこないという原因は,2004年4月にも移行が決まっているスクランブル放送への対応がなかなか難しい,というところにある。

 地上波,BSにかかわらずデジタル放送はスクランブルをかけた上に,「一度だけコピーを認める」というCCI(Copy Control Information)信号をくっつける。「一度だけコピーを認める」ためには,一度録画したものを他の媒体に移すときには,元のコンテンツが別の媒体に移されると同時に完全に消去してやらなければならない。この機能を「ムーブ」と呼ぶが,こうしたCCIのオペレーションに完全に従った機器のみに対してスクランブル解除用の鍵を発行する。

 現行の機種にこうした機能を実装するのは,なかなか骨の折れる仕事だという。松下もソニーも,まだ地上波デジタル放送受信者がどんな市場を形成するのか読めていない以上,DIGAやコクーン,ブルーレイディスクレコーダにCCIの規定に従ったレコーダを用意できないでいる。これらの機器の中には,コントロール・ソフトがアップグレードできる機種もある。しかし,コンテンツの「ムーブ」に対応させるのはいずれの機種も現在のところ,できない。

アイ・オー・データ機器のRec-POTが一番乗りか?

 現在BSデジタル放送をハイビジョンのまま録画再生できるHDDレコーダー Rec-POT Sを販売しているアイ・オー・データ機器の動きが気になるところ だ。

 2004年4月に地上波デジタル放送が本格的にスタートすると民放各局も「一度 だけコピー可能」フラグを付けて放送することになる。こうした動きに,これまでHDDレコーダーに積極的に取り組んできたアイ・オー・データ機器はユーザーの利便性を考えたなんらかの対応をしてくるものと見られる。

 現在販売しているRec-POT Sシリーズでは「一度だけコピーできる」番組は,HDD録画はできるが,保存目的でD-VHSやブルーレイディスクに移すことはできない。「ムーブ」機能に対応していないからだ。しかし,他に移せないため,著作権を損なわずに録画を楽しむことはできる。

 実は筆者もそうだが,さまざまな調査によると,HDDレコーダ利用者の多くは,一度見た番組を他媒体に移して保存しようと思っていない。忙しい毎日でスケジュールが混み合っているために,チェックしておきたい番組があったとしても,なかなかその時間にテレビの前に座ることができない。そんなときに「ちょっと時間をずらすために」録画するということがよくあるのだ。チェックし終わったら,もうその番組は用無し,どんどん上書きしてしまうというわけだ。したがって,多くのユーザーには現行のRec-POT Sでも十分な製品であると言える。

 しかし,やはり,いざというときには「ムーブ」機能がほしいユーザーはたくさんいるだろう。

 アイ・オー・データ機器の菅原 崇之マルチメディア事業部 AVネットワーク3課 プロダクトマネージャーは,「一度だけコピーを認める」番組に対応させたHDDレコーダを設計するのは,かなり難しいという。

 Rec-POTの話題が出たついでに,お得な情報を書いておこう。Rec-POT SはMPEG-2 TSストリームをデコードするデジタル・チューナを自身では搭載していないため,一般的には追いかけ再生はできない。しかし,東芝の28D4000 / 32D4000 / 36D4000デジタル・ハイビジョン・テレビ「FACE」につなぐと追いかけ再生ができる。このテレビは2本のMPEG-2 TSストリームを扱えるチューナ・ユニットを使っており,これをRec-POT Sでうまく引き出したからだ。菅原氏によると,こうした連携機能をうまく使ってもらうよう各テレビ・メーカーに働き掛けており,徐々に追いかけ再生ができる機種が増えていくという。

キャプチャ・ボードは作れない?

 さて,PCユーザーにとってさらに気になるのは,取りためたデジタル・コンテンツをPC側で扱えないか? あるいは,今のTVキャプチャ・ボードのようなものがデジタル放送対応にならないか,という点だろう。

 チューナをデジタル対応にすれば良いといった簡単な解決方法はこの場合通用しない。パソコンに取り込まれたデータはユーザーが扱えないところで暗号化され,復号化される仕組みが組込まれないと,放送業界はウンと言わないだろう。しかも,暗号化されたコンテンツはそのHDDのみに固定されるといった要件が満たされなければ認知されるのは難しい。放送業界がウンと言わなければスクランブル解除の鍵データが供給されない。

 しかし,デジタル・コンテンツはユーザーが加工できてこそメディア・リッチと言える存在となる。加工した後,個人利用にとどめるか,ビジネスに持っていくかは著作権を順守しながらきちんと判断していけばよい。さもなければ新しい映像世界,メディア・リッチな新しいビジネス・モデルは生まれてこない。目前に迫ったデジタル放送時代を実り豊かなものにしていく動きが必要だ。供給者側だけのエゴで固められたくないものだ。

(林 伸夫=日経BP社編集委員室 主席編集委員)

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