日本のITサービス企業の過半を占める受託開発企業が,路線変更を迫られている。中国をはじめとする海外企業を活用したオフショア開発は急速に浸透し,ユーザー企業のコスト意識も強まっている。顧客の言うなりに一品作りのプログラムを作って提供するという労働集約型のビジネスは,ますます難しくなってきた。受託開発企業に対するユーザー企業の声も厳しくなる一方だ。「言われた通りやるだけで,新しい提案が全くない」「すぐに工数を稼ごうとする」「高い」・・・

 先細りの受託型ビジネスから脱却したいITサービス企業は,受託開発に代わる収益源として,サービスやソフトのパッケージ・ビジネスにシフトすることを考える。過去に開発した虎の子案件の成果物やノウハウを多くの企業に横展開しようというのだ。「業界の有力企業のノウハウが詰まったソフトだから,きっと同業他社の興味を引くはず」と期待する。

 こうした横展開型のパッケージ・ビジネスの成功者と言えば,まず名前が挙がるのがERPソフト最大手の独SAPだ。大手製薬企業のビジネスプロセスを反映した業務ソフトを武器に,全世界で数多くの企業に採用されてきた。しかも成功すれば受託開発よりはるかに高い収益が見込めるビジネス・モデルだ。

 しかし,待ってほしい。受託開発企業が今,SAPのような成功を夢見てパッケージ・ビジネスで顧客数拡大を急げば必ず失敗する。

ニーズ無視した横展開が不信感生む

 ユーザー企業は顧客数拡大を最優先する既存のパッケージ・ビジネスに対し,大きな不信感を抱き始めている。ユーザー企業はビジネス上の目標を持っており,その達成まで視野に入れて継続的に支援するパートナーを求めているのに,横展開を急ぐパッケージ・ビジネスでは,システムを無事導入することしか考えていないからだ。

 その結果は「当社で開発した成果物やノウハウを,ライバル会社などへ売り込みに行っている。たたき台にされているようで不愉快」「ユーザーにとってシステムは使って何ぼのものなのに,ソリューション・プロバイダの多くはシステムを売ったら後はほとんど来なくなる」といった大手企業のCIOたちの持つ不信感となって現れている。

 読者はこう感じるだろう。「受託も駄目。パッケージの横展開も駄目。では何をすればいいのか」

 その答えはちゃんとある。受託開発企業のノウハウや組織,企業文化を生かせる新しい(=ネオ)パッケージ・ビジネスだ。日経ソリューションビジネス最新号(9月15日号)の特集では,ネオパッケージを完成させたITサービス企業や,今まさにネオパッケージを開発中のITサービス企業の取り組みをレポートしている。以下にその一部を紹介しよう。

顧客が成果出すまで付き合う

 ネオパッケージで目指すのは,顧客企業の「ビジネスを変えたい,改善したい」というニーズに真正面からこたえ,長期的な関係を築くことだ。そのために,以下の三つのものを一つのパッケージ商品として提供する。

 まずシステム導入前に「何ができるようになるのか」を示す。そしてシステムそのものを提供する。そしてシステム導入後には,この目標を達成するまで支援するサービスを提供する。

 当たり前だと思われるだろうか。確かにそうだが,これらを実際に一つのパッケージとして提供できている企業はわずかだ。

 これまでのパッケージ・ビジネスはシステム導入という一時的なノウハウ提供に留まり,目標地点まで顧客企業と一緒に進むという“時間軸”に沿った視点がかけていた。しかしこうした時間軸に沿った視点を加えることで,顧客企業の満足度を高めることができる。さらに,顧客企業1社1社に密着して長期間サービスを提供してきた受託型企業の組織構造や企業文化も最大限生かせるはずだ。

 もちろん,最終的な目標として横展開,つまり顧客数拡大を目指すことは否定しない。「あの会社と付き合えば,こんな成果が得られる」という様に,ネオパッケージの価値が認められれば,顧客数は必ず増えるはずだからだ。

現場が使いこなせるまで支援する

 ネオパッケージをほぼ完成させているのがビジネスアプリケーション(東京都文京区,浅野悦男社長)だ。同社の人材派遣会社向け基幹業務ソフトThe Staff2000は,「カスタマイズなしでも必要な事務処理をカバーしている」「システム担当者不在のユーザー企業でも使いこなせるまで支援する」といった点が受け入れられて,人材派遣会社向けで7~8割と圧倒的なシェアを誇る。そうした評価を人材派遣業界に定着させる鍵になったのが,同社がシステム導入後に提供する二つのサービスだ。

 一つはオンサイトの導入指導サービスで,ビジネスアプリケーションの指導員が利用現場を6回訪問し,顧客企業の業務プロセスや利用者のITリテラシーに合わせた利用方法を指導する。二つ目が保守サービス。法改正などに対応するアップグレード・サービスのほか,ヘルプデスクなどの利用現場向け支援を含む。

 このヘルプデスクは,システムの操作指導だけにとどまらない。「すぐに請求書を出さなければならないのに,経理担当者が病欠」といった問い合わせに対して,業務が滞らないよう対処方法を教える。二つのサービスの担当者は同じ。システム面だけでなく人材派遣会社の業務を熟知した社員が,利用現場の面倒を一貫してみる。

 The Staff2000は300万円(LAN版)で,オンサイト導入指導サービスが60万円,保守サービスが24万円。オンサイト導入指導サービスや保守サービスは購入しなくてもよいが,顧客企業のほぼ100%がオンサイト導入指導サービスを購入し,9割以上が保守契約を結んでいる。

導入効果を保証するSFAベンダー

 システムだけでなく目標達成の支援までも提供するネオパッケージを追求して行けば,成果保証に行き着く。「SFA(セールス・フォース・オートメーション)を導入して売り上げが減少したら返金します」というプログラムを展開しているエヌ・アイ・コンサルティング(NIコンサルティング,東京都港区,長尾一洋社長)のケースがそれだ。

 同社は自社開発のSFAソフト「顧客創造日報」とともに営業部門改革のノウハウを提供する。長尾社長は「SFAソフトを入れたはいいが,うまく使えないという企業は実に多い。営業組織による理想的なシステム活用のイメージに顧客を近づけることで,確実に効果を出せるようにする」と説明する。キャッシュバック・プログラムはその自信の表れだ。

 研修サービスは2種類ある。一つは利用前研修サービス。文字通り利用前に提供する営業部門向けのセミナーだ。「操作方法ももちろん教えるが,主目的は営業部員の意識改革を促すこと」(長尾社長)だ。もう一つはフォローアップ研修サービス。3カ月~半年運用した後に,営業部門でうまく活用できているかをチェックした上で,さらに効果を上げるための方法を伝授する。

 キャッシュバック・プログラムはこの2種類の研修サービスを利用する顧客企業に適用する。同社のSFAソフト「顧客創造日報」は30万円(10クライアント版)で,研修の料金はいずれも1日50万円。顧客が運用を開始した次の年度の売り上げが30%以上減少した場合,ソフト・ライセンスおよび研修サービスの料金の50%を,同じく10%以上減少した場合は30%を返金する。しかし,2002年7月の開始以来,キャッシュバックを受けた企業は1社もない。

「こうあるべき」というイメージが不可欠

 ネオパッケージの前提になる条件がある。システム化はこうあるべき,という理想イメージを持ち,それを自社のソフト製品に組み込んでいることだ。いくら先進的な顧客企業向けに開発したプログラムでも,そのままパッケージ化すれば,カスタマイズが大量に発生する。それでは受託開発と本質的に変わらない。

 ビジネスアプリケーションがThe Staff2000の原型となったソフトを開発した際には,浅野社長が100社を優に超える人材派遣会社を訪問し,試作品のデモを見せて意見や要望を求めたという。ただし浅野社長は聞き取った要件をそのままソフトに反映したわけではない。「訪問先からは相反する要件が山ほど出てきた」からだ。これらを両立する方法を毎晩考える中で,浅野社長は「人材派遣業における理想的なシステム活用のイメージが持てるようになった」という。

 各社がソフトと組み合わせて提供するサービスは,各社が持つ理想イメージに顧客を近づける役割を果たしている。

(佐竹 三江=日経ソリューションビジネス)