Linuxを手持ちのパソコンで試してみたいと考える読者は少なからずいるだろう。今ではデスクトップPCではなく,ノートPCを常に持ち歩いて,オフィスや家の中だけでなく,モバイル利用している人も増えてきた。するとノートPCにLinuxをインストールするということになる。

 ところが,LinuxをノートPCで使おうとすると,大きな壁があった。それはLinuxの電力制御機能が貧弱で,細かな節電ができず,Windowsを入れているときほど,長時間使えないのだ。しかし,この課題は,2003年中に登場するLinuxカーネルの新版「カーネル2.6」によって大幅に改善されそうだ。

サーバー向けに性能は大幅に向上

 Linuxカーネルとは,OSとして不可欠な基本機能(メモリー管理やプロセス管理,ファイル・システムや各種デバイスの制御など)を提供するものであり,“Linuxカーネル=Linux OS”と言って良い。それが2年ぶりにメジャー・バージョン・アップする。

 その新カーネル2.6というと,大規模システム向けの大幅な機能拡張が注目を集めている。企業のシステム部に取材すると,Linuxを企業の基幹システムに導入しようとすると,商用UNIXに比べて制限事項が多いため,商用UNIXを用いなければならない場合もあるという。確かにLinuxには,扱えるファイル・サイズやファイル・システムの大きさの制限などの,UNIXにはない制限が存在する。

 これらの制限のいくつかは,次期カーネル2.6で解消される見込みだ。それだけではなく,カーネル2.6ではマルチプロセッサ環境での性能も向上する。実際,2003年10月号の日経Linuxでは,テスト用にリリースされたカーネル2.6開発版を用いてカーネル2.6の新機能を検証したのだが,開発段階のカーネルであったにもかかわらず,実際に多くのテストでカーネル2.4よりも高い性能を示した。

 このように,大規模システムのサーバーとして使うべく性能が大幅に向上しているカーネル2.6なのだが,その強化点はサーバー向けだけに限らない。冒頭で述べたように,ノートPCで使うにあたっても機能強化が図られている。

電源管理機能の改善でノートPCでも

 ノートPCに関する新機能とは,ACPI(Advanced Configuration and Power Interface)の電源管理機能対応である。最近のノートPCには,消費電力を抑えるための機構が多数備わっている。この消費電力にかかわる機能を利用するためには,ACPIと呼ばれる電力制御用のインタフェースが用いられる。

 ACPI以前の電源管理では,APM(Advanced Power Management)で規定されたインタフェースが用いられていた。APMは,パソコンのBIOSに電力制御の大部分を任せるという仕様だった。

 一方,ACPIではOS側が主導して電力の制御を行う。これにより,必要なデバイスにだけ電力を供給するなど,より細かい電力制御が可能になる。米Microsoft社(ACPIの規格策定の中心メンバー)のWindows系OSは,当然ながら,ACPIを標準採用する。そのため,最近のノートPCのほとんどはACPIを備える。従来のAPMに対応するノートPCはごく一部となってきた。

 現在のカーネル2.4では,APMには対応しているが,ACPIには一部の機能しか対応していない。つまり,電力消費を抑えるようなことは難しい。

 カーネル2.6ではACPIのほぼ完全な機能を利用できるようになった。それにより,ソフトウエアによるサスペンド/レジュームが使えたり,CPUの動作周波数を動的に変更するSpeedStepを利用する,といった制御が可能になる。

ディストリビューションでの対応が待たれる

 ただし,カーネル2.6では電力制御用のインタフェースが備わるだけだ。実際に電力制御をしようとすると,ソフトウエア・サスペンドやCPUの動作周波数を制御するようなデーモン(プログラム)や設定用のユーザー・インタフェースも必要である。つまりカーネルだけでは,省電力パソコンは実現できない。

 現在,これらを実現するソフトウエアはいくつかのコミュニティが開発を進めている。完成すれば,Red Hat LinuxやTurbolinuxなどのLinuxディスビューションに採用されてくることだろう。

 Red Hat Linuxはまだカーネル2.6の採用を明らかにしていない。現在公開されている次期Red Hat Linux 10のベータ版では,今のところカーネル2.4のままだ。もし,Red Hat Linux 10の正式版でカーネル2.6を採用するなら,ぜひともこれらソフトウエアを取り込んで,ノート・パソコンの電力制御ができるようにしていただきたい。

 一方,Turbolinuxの次期版(開発コード:Suzuka)のベータでは,既にカーネル2.6のテスト版を採用している。ただし,ACPIを使用して,ソフトウエア・サスペンドや低消費電力を実現するソフトウエアが実装されているかは確認できていない。現在発売中の日経Linux2003年10月号にTurbolinuxの次期版のベータを収録したので,実際に使って確かめてみていただきたい。

Linuxプレインストール・ノートPCが登場する可能も

 ディストリビューションだけでなく,Linuxを予めインストールしたパソコンでも動きが出てくる可能性がある。

 以前,米Hewlett-Packard(HP)社のLinuxマーケティング・ディレクタ(当時)のJudy Chavis氏(注1)にインタビュした際,「ノート・パソコンに関しては,Linuxのパワー・マネージメントの改善が必要」と述べていた。同社は,既にデスクトップPCではLinuxを導入しているモデルを出荷していたが,ノートPCにLinuxを導入したモデルを出荷していない。その理由もLinuxの電力制御の部分にある。

注1:現在はOSアライアンス部門ディレクタ兼ソフトウエア部門CTO

 だが,これまで述べたようにカーネル2.6により,電力制御問題が解消される。大手メーカーから,LinuxをインストールしたノートPCが登場してくることも,今後,十分あり得そうだ。

 そうした製品が登場してくれば,いち早くテストし,Windowsと同様の電力制御がLinuxノートPCで実現しているのか,検証してみたい。

(麻生 二郎=日経Linux)