「スチュワーデス」から「フライトアテンダント」へ,「保母」から「保育士」へ。ワーキング・ウーマンの呼称は,変化してきた。弊社で発行するビジネス誌でも,「ビジネスマン」と書かずに「ビジネスパーソン」で統一している――。呼び方は変わったが,働く人々の意識は果たして変わってきているのだろうか。

 コンピュータとネットワークの登場が,ワーキング・スタイルに変化をもたらしたのは間違いない。個人の発言の機会が増え,組織が「縦型」から「横型」に移行した。時間と場所の制約を受けずに仕事ができるようになった――。女性の社会進出も,ITの普及に負うところが大きい。

 SOHOという形で,小さな会社を経営する女性が多いのはIT業界の特徴だ。また日本IBMの「e-ワーク」のように,ITを利用した在宅勤務制度を導入している大企業もある。業界そのものが新しいため,他業種に比べて女性が力を発揮しやすい面もあるだろう。

 弊社の雑誌「日経ITプロフェッショナル」は,SEとして生き生きと仕事をする女性のエッセイをWebで公開している「女性SE IT業界“さばいばる”日記」のバックナンバー一覧。彼女はIT業界は女性が働きやすいとコメントしているが,筆者もそう感じることは多々ある。

ロール・モデルがいないのがワーキング・ウーマンの悩み

 ところで,仕事上で男女の違いはあるのだろうか。最近,イー・ウーマンというサイトで,仕事の適正での男女差について意見交換を行っていた。書き込みをしているユーザーの多くは女性だが,ほとんどが「男女差はなく,あるとしたら個人差」という意見。実際に「職務の内容,勤務時間ともに男性と同様に働いている」と回答している人が多数を占める。

 そうは言っても,ワーキング・ウーマンにはいろいろな悩みがある。彼女たちが口を揃えて指摘するのは,ロール・モデル(将来像を描く際のお手本)が少ないということ。小さな会社を切り盛りする敏腕な女性社長は多い。経営者になってしまえばリスクも負うが,ある意味では自由なワーキング・スタイルを獲得できる。しかし企業で働き続け,リーダーシップを取っていく人は,この業界でもなかなかいない。先のエッセイを執筆する女性SEも「お手本にできるような女性上司がほしい」という。

 一方で男性の目には,女性管理職はどう映るのだろう。ある男性社員は「俺は,女性上司に仕えることはできない」と語っていた。経験がないので,想像外なのだという。男性にとっては,女性に管理されることは脅威なのかもしれない。

男女の役割分担がシフトしてもいい

 職場での日々の何気ないシーンの中に,「子どもを持っている年代で働いているのは男性」という一般的な見方を感じてしまうこともある。

 弊社はここ数年8月に,社員が家族を招いてもいい日を設けている。夏休みの間に,親の働く様子を子どもに見せようという趣旨だ。これ自体は有益なイベントだが,ある年,社内に張り出したこのイベントのポスターには「パパの会社を見に行こう」というキャッチ・コピーが書かれていた。社内には親でない男性社員もいれば,女性社員もいる。「パパの会社」とはいかがなものか。こう意見したところ,翌年このキャッチ・コピーは外された。

 結婚はもはや女性から仕事を奪うことはなくなりつつあるが,仕事上のネックとして女性を待ち受けるのは,妊娠と出産。こればかりは,男性には代わりができない。リーダーとなるべき年齢のころに,子育てというタスクが入ってくることが女性管理職の増加に歯止めをかけているのなら,やはり組織として在宅勤務制度を整備していくしかないだろう。

 もっとも,妊娠・出産を理由に「いつかは仕事を辞める」と見なされているのが女性の不幸なら,逆に「いつまでも仕事を辞めない」と周囲から期待されている男性も不幸かもしれない。家族を養うことを男性だけに押し付けるのは酷というものだ。

 サイトのプロデューサをしている友人の一人が,「男性にも一般職を作ればいいのでは」と指摘していた。ある商社の顧問を務める男性も「男がコピーをとったりお茶をくんだりしてもいいのではないか」と発言している。役割分担も,そろそろシフトしてきていいのかもしれない。

ITリテラシを高めることが豊かな働き方に通じる

 男性も女性も心豊かに働き続けるには,どうしたらいいのか。そのためにITをどのように利用できるのか。ネットを活用した在宅勤務制度を取り入れるなど,組織による制度充実も望まれるが,ITにかかわる個人のリテラシを高めることも重要だ。と言っても,肩ひじ張って構える必要はない。できることから少しずつ進んでいければ,と思う。IT業界で働く方は既に実践されているかもしれないが,そうではない“ITビギナーズ”の方に向けたヒントを二つほど挙げてみよう。

 一つ目は,ネットワークを上手に利用して「他者の知恵」を得ることである。昨今,仕事上の支援者としてメンター(仕事上の理解者,指導者などの意味)の必要性が指摘されている。ITの普及により,社内や社外のネットワーキングが以前より容易になったことを考えれば,こういったメンターを社内だけでなく社外に求めていくことも可能になるだろう。

 二つ目は,メールの送り方。筆者が担当する日経PCビギナーズというパソコン入門誌の編集部には,アカウントの表示名は男性名だが,女性が書いたと思われるメールが送られてくることがある。署名は女性名で,名字だけが表示名と同じ。意図的にそのようなメール・アカウントにしている人もいるかもしれないが,男性が持っているアカウントを使って妻がメールしている場合も多いだろう。

 このように一つのメール・アドレスを夫婦や恋人同士で共有している人もいるようだが,できれば各自のアカウントを取得したほうがいいと考える。それが,IT時代の「個の確立」になると思うからだ。

ワーキング・ウーマンたちの情報交換の場を広げたい

 筆者は,インターネットが盛り上がった1996年ごろに,SOHOの女性社長などに数多く出会ったのがきっかけで,「ITと女性」というキーワードに注目し始めた。IT業界で働く元気な女性たちと合い,マネジメント・スキルを高める方法,プレゼンテーションや自己アピール法,上司や部下との付き合い方などについて情報交換をすることは,ワーキング・ウーマンの一人でもある筆者にとって非常によい刺激となっている。

 こうしたWebでの記事執筆やセミナー/フォーラムの企画,雑誌のための取材などを通じて,ワーキング・ウーマンたちの情報交換の場を広げていきたい。それがワーキング・ウーマンたちの“ロール・モデル”が生まれる一つのきっかけになれれば,こんなにうれしいことはないと思っている。

(大塚 葉=日経PCビギナーズ編集長)