昨日(8月25日)公開した「担当者が“本音”で語る企業ネットワークの実情(上)」に続き,日経コミュニケーションが主催した座談会に出席いただいたユーザー企業のネットワーク担当者が,日ごろお持ちの問題意識を紹介していこう。

コメント5
「ローカル企業には全国一律料金はかえってマイナス」
 大阪地区だけでビジネスを進めているE社は,IP-VPNや広域イーサネットなどのように,距離に依存しない料金体系をうたう通信サービスにあまり魅力を感じないと言う。距離に依存しないことがメリットとなるのは,全国に拠点がある企業というわけだ。E社にとって使いたいのは,距離に依存してもよいから,距離あたりの単価が安いサービス。筆者は,IP-VPNなどが拡大したのは専用線などとは異なる距離に依存しない料金体系にあったと考えていたが,立場が違うとメリットがデメリットにもなることを再認識させられた。

 しかもE社は,東京のユーザーであれば意識しない不満も指摘した。いくつかのサービスは東京に比べて大阪で提供されるまでに時間がかかるというのだ。例えば光ファイバを使った専用線サービスやダーク・ファイバ貸し出しサービスなどは,発表と同時にすぐにも使いたいのに,大阪地区での開始までに時間差があると嘆く。これは大阪に限らず,首都圏以外の企業には当てはまる不満と言えるだろう。
コメント6
「“東ガス・ショック”は確かにあった」
 “東ガス・ショック”とは,東京ガスが社内電話網をIP電話に全面的に切り替えるというニュースが引き起こしたIP電話導入をめぐる議論のこと。2002年12月に報道されて以来,IP電話の導入を企業が検討するきっかけになった(関連記事)。実際,F社のシステム部門は東京ガスの事例を聞き及んだ役員から「うちはどうなんだ」という質問を受け,具体的な検討に着手した。

 ただ,検討はしてみたものの必ずしもすべての会社が導入に踏み切るとは限らない。F社はどの拠点までを対象にするかや,他の電話サービスと比較してどちらにコスト・メリットがあるか――などをみながら効果を検証している。

 一方,G社は電話機に個々にIPアドレスを割り当てて,ファクシミリも含めてIP化するなどの条件を基に試算すると,電話機1台当たりのコストが2万円になった。これではIP電話に切り替えてもコストダウンにならないと判断した。これ以外にもG社は,IP電話は現在の電話番号をそのまま使えるか分からない,音質にも不安があるなどの問題を抱えていると指摘。今では値引きを持ちかけてくる電話サービスに魅力を感じている。
コメント7
「総務担当が内線電話を手放してくれない」
 実はIP電話の導入に関して,大きな障害となっているのがこの問題ではないかと筆者は見ている。一般に企業の内線電話は総務部,LANはシステム部が担当する場合が多い。しかしIP電話を導入する際はLANに電話の音声データを乗せることになる。組織間の縄張り争いが残っていると,IP電話への切り替えの取り組みが遅々として進まなくなる(関連記事)。

 H社では,本社と支社を結んでいるATM専用線も総務部が管理し,データ部分をシステム部が借りている状態にある。総務部が内線電話を放したがらないため,IP電話の導入を具体的に検討するどころではないと漏らす。

 一方,I社では,社長命令で総務部を廃止し,情報システム部が電話を含む通信システムを担当している。同社では,構内PHS網を構築しデータと音声,ファクシミリまでを統合した。
コメント8
「スピードに追随するには,資産を持たないほうがよい」
 ここ数年,企業が利用する通信サービスの変化は激しい。東京での座談会で話題になったのは,数年前に導入したATM(非同期転送モード)交換機の扱いだ。ある会社は購入してしまった以上仕方ないと判断して,交換機を残したネットワーク構成で運用している。一方,コメント8を寄せたJ社は償却期間が残っているのにもかかわらずATM交換機を廃棄。ネットワークをIP-VPNに切り替えた。「数年間で投資を回収できると思い資産にしたが,通信サービス変化のスピードのほうが速かった」とJ社の担当者は漏らした。

 さらに,社内組織が変わったときにすばやく対応できるように,資産を持たないほうがよいという意見も飛び出した。例えば,支店を本社に集約するなどの組織改正があると,ネットワークも対応を迫られる。こうした変更に柔軟に対応するには,ネットワーク機器を資産化しないことがポイントと見ているわけだ。

 とはいえ,すべての会社にこの論理が当てはまるわけでもない。K社は,1年間で投資コストを回収できる通信機器なら,2年間使うことを前提に少々高くても購入するという。初期コストを抑えることよりも,ランニング・コストの削減を重視しているK社ならではの判断だ。
コメント9
「万が一何かあった場合,ネットワーク担当の責任になる」
 今回の調査では,多くの企業が社内ネットワークにインターネットVPNを導入していることも明らかになった。特に小規模拠点を結ぶ支線系ネットワークでは,主力サービスとして利用する企業がIP-VPNに迫る2位。今後導入するサービスでは1位となった。

 インターネットVPNはIP-VPNなどに比べて安価に構築できるが,セキュリティの確保という課題を抱えているのも事実である。コメント9を述べた担当者のL社ではインターネットVPNを構築するためにVPN専用装置を250台導入した。コスト削減を第一に考えながらも,セキュリティを最低限確保できる仕組みは導入したい――。ネットワーク担当者の本音が見事に表れていると思う。
◇     ◇     ◇

 いかがだっただろうか。(上)の繰り返しになるが,読者の方それぞれの立場で,共感できるコメント,あるいは賛同できかねるコメントがあったと思う。そうした感想,意見については,下のFeed Back!コーナーから書き込んでいただきたい。その際には,元となるコメントの番号も書いていただけるとありがたい。もちろん,各コメント対するレスポンス以外にも,ネットワーク担当者として日ごろ感じている“本音”も大歓迎である。

(松本 敏明=日経コミュニケーション副編集長兼編集委員)

■文中に出てくるA社などの略称は便宜上つけたものである。同一の会社に別の略称がついている場合もある。どこの会社の担当者がこのような発言をしているのか興味を持たれた方は,,日経コミュニケーションの特集をお読みいただきたい。各社が構築したネットワークの概要を含めて,コメントの意味をより深く理解していただけるだろう。