日経コミュニケーションでは例年6月ころ,上場企業などを対象に企業ネットワークの実態調査を実施している。今年も約3000社にアンケート票を送付し,800社弱の企業から回答を得た。

 今回の調査結果では,企業が使う通信サービスに大きな変化があったことが明らかになった。中でもIP-VPN[用語解説] が通信サービスの利用率で,初めてトップに立ったことは特筆すべきことだろう。

 調査では大規模拠点やセンター拠点を結ぶ「幹線系」と小規模拠点を結ぶ「支線系」について主力として利用している通信サービス一つを選択式で聞いた。結果は幹線系も支線系も,IP-VPNを利用する企業が最も多かった。幹線系では,前年までの調査で首位だったフレーム・リレー[用語解説] を追い抜いた。

 調査の内容については,8月25日発行の日経コミュニケーションの特集『「旧型サービス」を抜き去ったIP-VPN~780社に見る企業ネットワークの大変革』をお読みいただくとして,今回の記者の眼では,この特集で行った座談会の内容を紹介したいと思う。

 座談会という場で気分が高揚したのか,出席者したユーザー企業のネットワーク担当者からは大胆な意見が飛び交った。普段の取材では聞けないユーザーならではの問題意識や企業ネットワークの実情を鋭く突いた一言には,大いに驚かされたところもある。ただ,これだけの有益な情報を,限りがある雑誌のスペースの中にすべて書き尽くすことは不可能。この場を借りて,せっかくの意見をIT Proの読者各位にも共有していただき,同時に皆さんの反応も知りたいと考えた。

 座談会には東京で3社,大阪で4社のネットワーク担当者にお集まりいただいた。いずれも通信事業者などではなく,ユーザー企業の担当者である。あえて東京と大阪の2カ所で実施したのは,東京を本社とする企業だけでは,ユーザー企業の抱える悩みを網羅できないのではないかという懸念があったからだ。当日は,現行の社内ネットワークの構成を決めた経緯から通信事業者に対する不満まで,ユーザー企業のシステム部門などでネットワークにかかわる担当者の生の声を忌憚(きたん)なく発言していただいた。

 以下,太字部分が各企業の担当者からのコメントである。その下に筆者が各社のネットワーク環境や発言の経緯,さらに調査結果に基づく企業ネットワークの現状を補足した。

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「途切れるよりも,通信速度が遅くて生産性が上がらない方が問題」
 調査結果からは多くの企業が,社内ネットワークのアクセス回線としてADSL(asymmetric digital subscriber line)を利用しているという実態が明らかになった。A社も720拠点にNTT東西地域会社のフレッツ・ADSLをつなぎ込み,インターネットVPN[用語解説] による社内網を構築している。

 実際A社はフレッツ・ADSLを使ってみて,通信がよく途切れるという現象に何度か直面している。それでも通信が止まったことによる被害額よりも,通信速度が遅いことによる生産性低下のほうが企業にとっては問題になると評価。通信が途切れてもルーターをリセットするなどでたいていのトラブルには対処できると考え,ADSLを使い続けている。

 以前は64kビット/秒のISDNで結んでいたが,現場から「品質が落ちてもよいから速度を上げてくれ」という強い要望を受けた。ADSLを採用してこれに応えた格好である。ADSLが家庭に普及した現在,現場からこうした要求を突き上げられる機会が増えたとみる企業もあった。
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「トラブルは事業者のつなぎ目で起こるもの」
 B社は複数の通信事業者が提供する通信サービスを使うが,対応窓口はそのうちの1社に一本化している。トラブルなどがあった際は,その事業者に対応を依頼する形態だ。調査からも,複数の通信サービスを適材適所で使い分けている企業が増えてきたことが明らかになった。例えば基幹系はIP-VPNで,支線系はインターネットVPNを使う場合などである。

 B社によると,個々の通信事業者の回線が断線するという問題はあまりない。それよりもトラブルが発生するのは,異なる通信事業者のサービスのつなぎ目の部分だ。例えば,足回りの回線を切り替えた際に,運用の引継ぎができていなかったり,ルーターの設定が以前とは違うものに変わっているというトラブルに直面した。

 ほかの座談会出席者からも,「通信事業者は自社の設備まではちゃんと見ても,他社との接続までは知らない,という対応をすることがよくある」という厳しい指摘が飛んだ。
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「会社ではなく人間を選ぶことが大事」
 C社もNTTグループ3社の通信サービスを使いながら,窓口をそのうちの1社に任せている。運用管理や障害管理などは本来3社が別々に手がけるが,C社は強く主張して窓口の会社に一本化させた。こうなると企業にとっては,最適な通信サービスを選ぶだけではなく,窓口となる事業者の選び方も重要になってくる。

 ところがC社の担当者は,事業者を選ぶだけでは不十分と言う。ネットワークを構想する時期には,各事業者とも優秀な人間にプレゼンテーションをさせる。重要なのはその優秀な人間を,構築・運用フェーズまで引き込むことだと言い切る。重きを置くのは冠となる企業の名前ではなく,実際に業務にかかわる人間ということだ。

 他社からも「担当者の力量の差が大きいことを実感している。事業者間の調整などをするために,我々のネットワーク構成を知った上で依頼内容を理解してもらいたい」という声が上がった。
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「NTTには何度かハシゴを外された」
 D社はNTT(当時)のATMメガリンク・サービス[ATMの用語解説] が登場したてのころ,社内ネットワークに同サービスを採用しようと,NTTと打ち合わせを進めていた。ところが開通の3カ月前になって,NTTから「本社のある地区にサービスを提供できなくなった」と言われた経験を持つ。新ネットワーク開通が直前に迫っていたD社は,急遽,電力系地域通信事業者に無理を言って,同様のサービスを提供してもらった。D社の担当者は「電力系地域通信事業者に借りがある」との思いを持っており,現在はパワードコムのサービスを利用している。

 その後,D社はNTT東西地域会社のFTTH(fiber to the home)サービス「Bフレッツ」の開通をめぐっても苦い思いを味わった。Bフレッツのホームページでは提供エリアになっている地域の拠点でBフレッツの利用を申し込んだところ,「需要が一定以上にならないと開通できない」として,提供してもらえなかったのだ。この中にはD社の本社がある地域も含まれていた。D社はNTT地域会社に猛烈にアピール。開通作業の優先順位を上げてもらい,Bフレッツを使うことができた。

 「ハシゴを外された」といういささか厳しい表現には,通信サービスを使いたいのに使えなかったユーザー企業のつらい思いが垣間見える。
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 いかがだっただろうか。読者の方それぞれの立場で,共感できるコメント,あるいは賛同できかねるコメントがあったと思う。そうした感想,意見については,下のFeed Back!コーナーから書き込んでいただきたい。その際には,元となるコメントの番号も書いていただけるとありがたい。もちろん,各コメント対するレスポンス以外にも,ネットワーク担当者として日ごろ感じている“本音”も大歓迎である。

 なお,明日(8月26日)は,続編として「コメント5 ローカル企業には全国一律料金はかえってマイナス」「コメント6 “東ガス・ショック”は確かにあった(IP電話関連)」「コメント7 総務担当が内線電話を手放してくれない」「コメント8 スピードに追随するには,資産を持たないほうがよい」「コメント9 万が一何かあった場合,ネットワーク担当の責任になる」をご紹介する予定である。

(松本 敏明=日経コミュニケーション副編集長兼編集委員)

■文中に出てくるA社などの略称は便宜上つけたものである。同一の会社に別の略称がついている場合もある。どこの会社の担当者がこのような発言をしているのか興味を持たれた方は,日経コミュニケーションの特集をお読みいただきたい。各社が構築したネットワークの概要を含めて,コメントの意味をより深く理解していただけるだろう。