この6月,筆者は光ファイバの開放問題(関連記事)に関する取材の過程で,総務省から1枚の資料を入手した。そこには都道府県ごとに見た,2002年3月時点の東西NTTの光ファイバのシェアが記されていた。
筆者は資料を見るまでは,「どうせ東西NTTのシェアは光ファイバでも9割以上あるだろう」と高をくくっていた。FTTH(fiber to the home)やダーク・ファイバの取材を通し,東西NTTの圧倒的な営業力,管路や電柱など配線設備の充実ぶりを実感していたからだ。
ところが,「東西NTTが圧勝」という筆者の想定は違っていた。資料を見てみると,広島県59.3%,北海道65.7%,富山県67.5%といった数字が目に飛び込んできた。広島県ではNTT以外の事業者が光ファイバで4割以上のシェアを獲得しているというのだ。東西NTTの最大のライバルは電力会社もしくは,電力会社系の通信事業者。し烈な競争を繰り広げているこれらの通信事業者には失礼だが,直感的に「これは何かの間違いではないか」と思った。ちなみに,全国平均は80.4%だという。
そこで筆者はこの7月に徹底的な取材を実施し,日経コミュニケーションの8月11日号で記事にした。日経コミュニケーションの読者の方には,内容が本誌記事と重なる点があることをあらかじめお断りしておく。
シェア5割以上の事業者に課せられた開放義務
光ファイバのシェアでなぜそこまで大騒ぎするのか――。そう思う読者もいるだろう。筆者は当初軽い気持ちで光ファイバのシェアについて調べ始めた。ところが調べるうちに,今伝えるべきだとの思いが強くなった。そのシェアが「NTTの光ファイバ開放議論」と直結する可能性があるからだ。
光ファイバ開放議論とは,東西NTTは光ファイバの開放(注1)を義務づけられているが,両社はそれに反対して義務撤廃を求めている。これに対して,他の通信事業者は現在の開放政策を支持している――というものである(関連記事)。NTTの開放義務がなくなると,NTTから光ファイバを借りている通信事業者は,仕入れ値が上がってサービス料金を値上げせざるを得ない事業者も出てくる可能性があるのだ(注2)。
注1)東西NTTの光ファイバの開放:これには3つの意味がある。1つ目は東西NTTのサービスをサービス部分と回線部分に切り離し,回線(光ファイバの心線)だけを貸し出すこと。このように使われる光ファイバをダーク・ファイバと呼ぶ。そして2つ目が光ファイバを使ったサービスやダーク・ファイバの料金をメニュー化し,公開すること。3つ目がダーク・ファイバの料金を,自社の光ファイバ・サービスと“矛盾しない”水準で提供しなくてはならないこと。例えば,東西NTTは電話局からユーザー宅の間の加入者系ダーク・ファイバを1本当たり月額およそ5000円という安価での貸し出しを余儀なくされている。
注2)値上げの可能性:東西NTTは加入者系ダーク・ファイバを,有線ブロードネットワークスやアイ・ピー・レボルーション,NTTコミュニケーションズやケーブル・アンド・ワイヤレスIDC,長野県協同電算など幅広い事業者に貸し出している。NTT東日本の幹部は「光ファイバは敷設コストから計算すると,1本当たり月額2万円」と言う。仮に光ファイバの開放義務がなくなると,これらの事業者への貸し出し料金は月額5000円から2万円の水準まで値上げされることもあり得る。
では,光ファイバの開放議論とそのシェアはどのように関係しているのだろうか? それはずばりユーザーにサービスするためのアクセス回線のシェアが「5割を超えるかどうか」で決まる。敷設されている回線ではなく,実際にユーザーが契約してサービスに使っている回線数でカウントする。
シェアは全国一括ではなく,都道府県ごとにみる。NTTだからというわけではなく,シェアが5割を超えている通信事業者が開放の義務を負うのである。この義務を課せられた通信事業者を「指定電気通信設備事業者」,その設備を「指定電気通信設備」と呼ぶ。これが今回のキーワードとなる。
もっとも指定電気通信設備事業者は,1997年の制度発足からすべての都道府県で東西NTTだけが指定され続けてきた。事実上,東西NTTを規制するためにつくった制度といえる。
ただし筆者は光ファイバに関して指定電気通信設備制度が揺らぎ始めていると感じている。
“シェア”の解釈次第
その最たる例が「“シェア”の定義は今のままでよいのか?」という点である。
冒頭に挙げた数字を覚えている方は,広島県でNTT西日本のシェアが9.4ポイント以上,下がりシェア5割を切ると,広島県だけNTTの光ファイバが開放されるのではないか,と考えるかもしれない。ところが,これは現時点では起こり得ない。
というのも,総務省はシェアを光ファイバ単体で見ていないからである。シェアを決めるアクセス回線を「メタル回線+光ファイバの総和」としているのだ。
「メタル回線はいずれ光ファイバに置き換わるもの。アクセス回線として一体と考える。光ファイバの開放政策は変わらない」(総務省幹部)と言う。「メタル回線+光ファイバの総和」でカウントすると,広島県95.9%,北海道95.4%,富山県97.4%となる。どの都道府県をとってみても,東西NTTが指定電気通信設備事業者から逃れることはあり得ない。
だが,それが絶対かというとそうとも言い切れない。筆者は世の中には絶対ということはあり得ないと思う。指定電気通信設備事業者を定める電気通信事業法では,アクセス回線を「利用者の電気通信設備と接続される伝送路設備」と定義している。メタル回線とか光ファイバと明確に書いてはいないのである。
筆者はこう考えることができると思った。
総務省が事業法の解釈を変えて「やっぱりアクセス回線のシェアは光ファイバとメタル回線別々に見ることにします」とすれば,東西NTTの光ファイバ開放が終わる――。
もうすでにシェア5割の地域も出現?
筆者は光ファイバを取り巻くこうした状況に警鐘を鳴らしたい。
警鐘を鳴らしたいことの1つ目が,直近のデータで計算すると5割に達している県もあるということである。
冒頭に示した総務省によるシェア一覧は2002年3月末によるもの。今となっては1年以上前の数字で,最新のシェアを知りたい。だが,2003年3月末のデータに基づいたシェアは総務省からはこの秋以降にならないと公開されないという。
そこで,筆者は2003年3月末のデータを使って,総務省のシェア計算方法に則り,都道府県別の光ファイバ・シェアをはじき出してみた。その結果,広島県が約55%,北海道が61.5%,そして富山県にいたっては50%ちょうどまで下落している。仮にではあるが光ファイバ単体でシェアを見ると,富山県ではNTT西日本に対する指定電気通信設備事業者の指定を外さなくてはならない状況になっているのだ。
これらのシェアは,NTT以外の通信事業者については筆者が聞き取りするなどで独自に集計したものだ。総務省が今後公表するシェアとは多少異なる可能性がある。
ともあれ,50%を割る“危険水域”に入った,もしくは突入しそうな都道府県が出てきている。このことが警鐘を鳴らしたい1つ目である。詳しくは日経コミュニケーション8月11日号に譲るが,2004年3月にはさらに低下する見込みだ。
NTT以外の事業者もきちんと公開すべき
警鐘を鳴らしたい2つ目が,シェアや回線数データの公開に関してである。筆者はこの記事で「東西NTTの光ファイバが開放されなくなる」ことを問題視しているわけではない。通信サービスの開放議論を左右するこんなに大事なデータが,事実上公開されてこなかった。このことが問題だと思う。
今回取材した電力系を中心とする通信事業者の経営企画担当者のほとんどがデータの存在を知らなかった。その数は10社以上に上る。“当事者”であるNTT東日本の経営企画担当の幹部でさえ,本誌の取材後に総務省からデータを取り寄せたという。
一方の通信事業者もデータを公開すべきだ。集計作業は2つの意味で大変だった。1つは東西NTTのデータの入力である。東西NTTは通信サービスごとに回線数のデータをWebページなどですべて公開している(NTT東日本,NTT西日本)。このデータの入力や計算に丸三日ぐらいかかった。もう1つが集計作業の最大のネックとなった。東西NTTの最大のライバルである電力系事業者の回線数データの入手に困難を極めたのである。全国11社のうちデータを公開している事業者は1社もない。そこでデータの提供をお願いして回った。
最終的には,交渉の結果,注目地域である広島県,北海道,富山県の事業者からは回線数のデータを入手できた。総務省に提出しているデータと同じものである。ただし,東京や名古屋,大阪,福岡といった大都市を管轄する電力系事業者には断られてしまった。特に光サービスの激戦区である大阪の2事業者には再三依頼したが,だめだった。
「シェア議論の当事者になってしまった」「社内調整がつかない」「都道府県別のデータを持ち合わせていない」「シェア議論には乗りたくない」「この件に関してはお話できない」「データはいままで公開していない」「公開するものだと思っていない」「数字が独り歩きするのは困る」「大事な営業情報だ」――さまざまな声が電力系の通信事業者から寄せられた。
これでは総務省が集計したシェア・データを第三者が検証しようにも,その道は閉ざされる。電力系の通信事業者が普段から展開している,「東西NTTの光ファイバは独占状態にある」「東西NTTはビルへの入線で有利」という主張を自らの手で弱めていることになる。
現場の感覚とかい離
そもそも東西NTTの光ファイバ・シェアは広島県や北海道で見られるように本当に低いのか。当事者である広島県と北海道それぞれの電力系通信事業者,エネルギア・コミュニケーションズと北海道総合通信網の営業企画担当者は「当社のエリアでも,東西NTTのシェアは8割か9割というのが率直な現場の感覚」と口をそろえる。
「東西NTTのシェアがはるかに高い」と主張したい競争事業者の言葉ということを差し引いても,やはりこの点は検証しておくべきだと思った。そこで回線数のデータを今一度眺めてみたところ,“主犯”が分かった。ISDNと専用線である。その理由については,日経コミュニケーションの8月11日号で納得していただきたい。
(市嶋 洋平=日経コミュニケーション)