米Microsoftが相変わらず好調である。米国時間で7月17日に発表した2003年4~6月期の決算は,米AOL Time Warnerとの和解費用などが発生したため営業利益こそ減少したものの,売上高が前年同期比11%増の80億7000万ドル,純利益が25%増の19億2000万ドルと,増収増益の結果となっている(関連記事)。

 2003年会計年度(2002年7月~2003年6月)通期で見た業績にしても,売上高が321億9000万ドルで前年比13%増,純利益が99億9000万ドルで28%増,営業利益が132億2000万ドルで11%増,と聞いているだけでうらやましくなるような数字が並ぶ。世間では,Linuxの追い上げなど不安材料がよく取りざたされるが,これらの数字を見る限りMicrosoftにとって杞憂という気がしてくる。

 しかし,本当にMicrosoftは盤石なのだろうか。

新製品,新機能に対するユーザーの期待が低下

 記事を書いている立場から気になっている点がある。筆者の所属する日経Windowsプロでは,Microsoft関連の記事を取り上げることが多い。4~5年前ならばMicrosoftに関連する話ならば,どのようなものでも読者の興味をそれなりに惹いていた。しかし最近は,セキュリティ・ホールやService Packのような既存製品の問題を取り上げる記事にはそれなりの反応があるが,新製品や将来提供予定の製品を取り上げた記事に対しては,読者からの反応がめっきり減ってきていると感じる。

 その1つの原因としては,どうやって問題を解決するかといった具体的なソリューションに読者の望む視点が変わってきている点が挙げられるだろう。このため,個々の製品単独の話題や,その製品をどのように活用するのかという話だけではなかなか読者は興味を感じなくなってきている。

 しかし,最近になってそれ以上に感じるのは,ユーザーが新しい機能の登場にあまり期待していないという点だ。

 取材などで回る典型的なWindowsユーザーは,ビジネス上で必須と思われる機能に関しては既に一通り整備されており,とりあえず業務上は十分なレベルに達していると考えている方が多い。寿命の面から製品を入れ替えることは考えても,ぜひともすぐに構築したいと考えている新しいシステムはそれほど多くはない。そのため,Microsoftが提供する新製品や新機能にも必要性を見いだせていないのだろう。

 Microsoftとしても「企業ポータル」「アプリケーション統合」「ビジネス・インテリジェンス」など,様々なキーワードを使ってユーザーの新たな関心をかきたてようとしているが,残念ながらこれらのキーワードは,以前のインターネット/イントラネットやダウンサイジングのようなレベルでユーザーに訴求できるまでには至っていない。むしろ,次々と登場する新製品,新機能に「もういい加減にしてくれ」と感じているユーザーさえ出てきているほどだ。

 特に,クライアント製品については,この傾向が強い。IT ProでOfficeやクライアント向けWindowsなどのMicrosoft製品を取り上げた記事に対する最近の読者のコメントを見ても,「不必要な機能を追加するな」「既に使わない機能がいっぱいある」「もっと軽い製品にしてほしい」といった意見が数多く書き込まれるようになっている(例えば,「MS Officeはどこへ行く」など)。

Microsoft最大の脅威はクライアント・ソフトの伸び悩み

 実はこれはMicrosoftにとって,非常に危険な傾向である。昨年に初めて発表した部門別利益率で明らかになったように,Microsoftは利益のほとんどをOfficeとWindowsで稼いでいる(関連記事)。サーバー製品も少しずつ利益を上げるようになっているが,まだまだ額としては小さい。

 例えば,Windowsを含むクライアント製品が28億9200万ドルの売り上げに対して24億8200万ドル,Officeを含むInformation Worker製品が23億8500万ドルの売り上げに対して18億7900万ドルという莫大な利益を生み出しているのに対し,サーバー製品は15億2300万ドルの売り上げで5億1900万ドルの利益しか出ていない。このため,こうしたクライアント向けソフトの売り上げが減少すると,Microsoftの経営そのものに影響を与える可能性がある。

 もちろん,売り上げがいつまでも青天井で伸びることはありえない。実際に,さすがのMicrosoftも売り上げの伸び率が鈍り始めている。2002年7~9月期は前年同期比で26%も伸びていたのに対し,2002年10~12月期は10%,2003年1~3月期は8%と徐々に伸び率が少なくなってきている。この2003年4~6月期は最初に書いたように13%増と,やや盛り返したが,2003年7~9月期はMicrosoftの予想範囲の上限だとしても4.5%の伸びにとどまる。

 利益が出ていればいいという見方もある。しかし,それまで売り上げを伸ばしていた会社が,売り上げよりも利益重視に変わる際に様々な軋轢が生じるのは,この10年間で同じ経験をした日本のユーザーなら容易に想像できるだろう。実は,Microsoftにも近い将来に,そういう状況に陥る可能性があるということだ。万が一クライアント向けソフトの売り上げに陰りが出ると,予想以上に早くそういう事態になることも考えられる。

 気になるのが,今後のWindowsおよびOfficeの導入動向だ。特に,今年後半に登場する新しいOfficeは,従来のような単独のクライアント向けオフィス製品としての強化はほとんどない。従来通りのスイート製品を示すブランドであるOffice 2003に加え,製品全体を示すブランドとしてOffice Systemという名称を付けているように,むしろ企業システム全体のクライアントとして組み込む使われ方を想定している。このようなMicrosoftの戦略がユーザーに受け入れられるのかが非常に興味深い。

 そこで,日経WindowsプロではクライアントのWindowsとOfficeに関して,現状と今後の予定を調査するアンケートを実施している(該当サイト)。結果は,日経Windowsプロの誌面上に掲載するほか,このIT Proのサイト上でも紹介したいと思うので,ぜひご協力をお願いします。日本のユーザーの動向だけでMicrosoft全体を占えるかどうかは微妙だが,少なくとも1つの確実な傾向はつかめると期待している。

(根本 浩之=日経Windowsプロ副編集長)