MicrosoftがOfficeをおよそ2年ぶりにメジャー・バージョンアップする。次期Officeファミリの名前は「Office System」。今秋の製品リリースを目指して,目下開発中である。現在,国内ではWebサイトで公募したユーザー7000人にプレリリース・キットを配布,公開ベータ・テストが行われているので,既に試用を始めている読者もいるだろう。7月2日にはプレスリリース・キットのコードを更新する「テクニカルリフレッシュ」と呼ぶアップデート・プログラムをWebサイトに公開している。

 既に報じられているように,Office Systemは機能強化の軸足を完全に企業ユーザーへと移している。Microsoftが目指しているのは,Officeを業務システムのクライアント・プラットフォームにすることだ。現在いろいろな場面で使われるWebブラウザは,決して万能ではないことがはっきりしている。特にデータ入力機能の貧弱さは多くのユーザーが実感するところだろう。対するOfficeアプリケーションは,ユーザーが既に使い慣れ,文書を作成/編集するツールとして過剰なほどの親切機能が作り込まれている。素材としての魅力は十分だ。

 Officeを汎用のクライアント構築プラットフォームに仕立て上げるため,Office Systemでは様々な機能が盛り込まれる。代表的なのが,新アプリケーション「InfoPath」(関連記事1)をはじめとする各種のXML[用語解説] 対応機能だ。ここでは細かく取り上げないが,Office Systemの新機能の多くはクライアント・プラットフォームとして足りない部分を補うものだ(関連記事2)。

業務クライアント機能はまだ顔見せレベル

 しかし,これらの機能強化によってOffice Systemが実際にクライアント・プラットフォームとして受け入れられるかどうかはまた別の問題だ。

 まず上の関連記事2に寄せられた読者の意見にあるように,WordやExcelのように自由度の高いユーザー・インターフェースが基幹システムなどのクライアント環境として本当に適しているかどうかという問題がある。InfoPathを使えば完全にカスタマイズされたユーザー・インターフェースを作れるが,InfoPath用のアプリケーションは,ボリューム・ライセンスでしか購入できない最上位版のスイート・パッケージか,割高な単体パッケージでInfoPath本体を購入しなければ使えない。巨大なOfficeアプリケーションを基盤にすればメンテナンスの手間もそれだけ大きくなる心配がある。

 有力な対抗馬も複数存在している。中でもWebアプリケーションの欠点を補うクライアント・サイドのWebアプリケーション実行環境が実績を上げ始めている(関連記事3)。業務クライアントの実行に適したプラグインをブラウザ中で動作させ,HTMLを使わずにユーザー・インターフェースを描画する。米Macromediaの「Flash MX」が有名だが,アクシスソフトの「Biz/Browser for Internet Explorer」や米Curlの「Curl」などいくつも登場し,国内でも実際に数万クライアント規模の業務システムで稼働する事例がある。この形態のシステムは,Webのナビゲーション機能や,ブラウザの認証コンテキストをそのまま利用できるなど,Webアプリケーションのメリットをそのまま活かせる点が大きい。

 Microsoft自身の.NET Frameworkも「ブラウザの次」の有力な候補だ。モジュールのバージョン管理機能や,コード・レベルでのきめ細かなアクセス制御機能など,ネイティブのWindowsアプリケーションの欠点を補う機能が組み込まれている。開発ツールはこれまでにもWindows環境で定評のある製品群だ。Officeの使い勝手を組み込みたければ,Office Systemの開発者向けパッケージ「Visual Studio Tools for Office」も用意される。

 もちろんOfficeにも向上の余地はある。Microsoft自身が認めているように,紙の文書を作成するツールとしては強化の余地がほとんどないので,稼ぎ頭であるOfficeの進化を止めないために,Microsoftが業務クライアントの分野に一層力を注いでくる可能性は高い。例えばInfoPathのランタイム環境がブラウザに統合されれば,FlashやBiz/Browserにとっては大きな脅威になり得る。時間的なビハインドの問題があるが,Officeが進む方向を見せたという点では,今回のバージョンアップは非常に大きな転機になっている。

SharePoint技術が三度目の正直に

 では今回のOffice Systemの価値はどこにあるだろうか。筆者は「Windows SharePoint Services(以下,WSS)」が軸になると考えている(関連記事4)。WSSは,企業内ポータル構築ソフト「SharePoint Portal Server 2003(以下,SPS)」のサブセットである。Windows Server 2003のアドオン・パッケージとして無償配布される予定で,Office System製品ではない(SPSはサーバー製品ファミリから外れてOffice System製品ファミリに加わる)。

 WSSの狙いは,Windowsサーバーの基本的なサービスであるファイル・サーバー機能を従来型の共有フォルダより高度な形で提供することにある。平たく言えば,「共有フォルダの中に好き勝手に作ったサブフォルダに共有文書を置くのはやめましょう」ということだ。

 WSSのユーザー・インターフェースはWebブラウザなので,共有フォルダにはない様々な付加情報を載せられる。例えば文書ライブラリにアップロードした文書からデータを拾い出して,WSSのトップページにグラフ化して表示するなどといったこともできる。WordやExcel,InfoPathなどのXML生成機能がここで生きてくる。Outlookを使ってアップロードすれば,以後,ローカル・ファイルとライブラリ上のファイルを同期してくれる機能もある。

 このようなグループワーク向けWebサイト構築機能は,Office 2000ファミリの「Office Server Extensions」,Office XPファミリの「SharePoint Team Services」に続きWSSで3つめのバージョンになる。これまでのOfficeのバージョンアップと比べてしまうとかなり地味だが,オマケのような存在で見向きもされなかったOffice Server Extensionsを思えば,地道にバージョンアップを繰り返して遂にサーバー製品とアーキテクチャ統一を果たしたWSSはもっと注目されていい機能だ。

 WSSはポータル構築ソフトとは位置付けられていないが,全文検索機能やページのパーソナライズ,他のシステムへのシングル・サインオンなどの高度な機能がないだけで,アーキテクチャはSPSと同じだ。トップ・ページにWebパーツを配置して,グループ内の掲示板機能を持たせたり,ユーザーの在席状況を表示したりすることもできる。Office 2000のころからこの機能に注目してきた筆者としてはWSSが三度目の正直になることを期待したい。

(斉藤 国博=日経Windowsプロ)