050などで始まる電話番号を割り当ててもらって,同じプロバイダに加入しているユーザー同士なら通話料は無料。ADSLなどのブロードバンド回線ユーザーなら,月額数百円程度の追加料金を支払うだけで使える。最近ではプロバイダ同士の相互接続条件などを決めて,異なるプロバイダ間の通話もできるようにしようという動きも活発化している。こうしたIP電話サービスの話を聞いて,魅力を感じている人もたくさんいるだろう。

 でも,本当に通話品質は大丈夫なのか。ということで,日経NETWORK編集部にあるADSL回線を使って実際にIP電話サービスに申し込み,いろいろと試してみた。テストに使ったのは,NTT東日本のフレッツ・ADSL回線と,@nifty,So-net,BB.exciteの3社のIP電話サービス。

 厳密に通話音質を測定したわけではないが,IP電話ユーザー同士,IP電話と固定電話間の通話は問題ないレベルだった。むしろ,携帯電話なんかよりもいいくらいだ。チケット予約など,電話が集中するケースでどうなるかは未検証だが,普通に使う分には音質が問題になることはないと思えた。

プロバイダのSIPサーバーが極めて重要

 音質よりも気になったのは信頼性だ。

 IP電話サービスでは,これまで使っていた電話機をIP電話アダプタに接続する。このIP電話アダプタはADSLなどのインターネット接続回線につなぐ。IP電話アダプタが,プロバイダのSIP(session initiation protocol)サーバーにアクセスする。SIPは接続を管理するための通信手順(プロトコル)だ。

 ユーザーが電話機でダイヤルすると,その音声信号がIP電話アダプタに伝わり,IP電話アダプタがSIPのメッセージを作ってSIPサーバーへ送る。そして,SIPサーバーが受信メッセージの中から電話番号を読み出して,その番号に対応するユーザーのIPアドレスを調べて相手につなぐ。実際の音声データは相手と直接やりとりするものの,通話相手を呼び出したり,電話を切る制御(呼制御)は,SIPサーバーを経由するのである。

 ここまで読めば,勘のいいみなさんは想像がつくかもしれない。要はSIPサーバーがダウンしたりすると,まったく電話が使えなくなる可能性があるのだ(いくつかの対策が施されているが・・・)。

 しかも,それは相手がIP電話ユーザーのときだけではない。3社のIP電話サービスでは,固定電話の相手と通話するときもIP電話網を経由するし,固定電話網だけを使って電話をかけるときもSIPサーバーにいったん問い合わせメッセージを送って,SIPサーバーから固定電話経由で直接電話をかける必要があるというメッセージを受け取ってから,相手を呼び出す。

 110番やフリーダイヤルなどは,3社のIP電話アダプタでは最初から登録されていて,SIPサーバーに問い合わせることなく,固定電話網を使って直接電話をかけるが,そのほかはすべてSIPサーバーを経由するのである。実際,編集部で試した結果,IP電話アダプタにつながった電話機で携帯電話の番号をダイヤルすると,SIPサーバーにアクセスしてから,固定電話網へ電話をかけるようになっていた。

 そして,編集部で複数のプロバイダを切り替えたり,IP電話アダプタを認定製品以外のものに置き換えたりしていたら,それまで問題なくつながっていたIP電話アダプタに戻しても,話中になってしまったりした。

 このとき,SIPサーバーとのやりとりをパケット・キャプチャ・ソフトで調べてみたら,話中を意味する「486 Busy Here」というメッセージがSIPサーバーからIP電話アダプタに返されていた。こうなるとIP電話ユーザー同士はおろか,固定電話や携帯電話にもつながらない。

 相手先電話番号の前に「0000」などを付けると,SIPサーバーに問い合わせずに,固定電話回線を使って直接電話をかけることはできる。しかし,一般ユーザーも使う電話機で,こうした使い方を熟知しているユーザーはほんの一部に過ぎない。

 今回のケースは特殊で,SIPサーバーが不正なアクセスを遮断するために,常に「486 Busy Here」を返すようになったのかもしれない。つまり,プロバイダのSIPサーバーが悪いとは言い切れない。

 しかし,ほとんどの通話を司るSIPサーバーが機能しなくなると,様々な通話ができなくなるというのは困りものだ。音質の良さは確認できたので,これからはSIPサーバーの信頼性確保が非常に重要だろう。

(三輪 芳久=日経NETWORK副編集長)

日経NETWORKの最新号(2003年7月号,6月22日発行)の特集2では,実際にサービスに契約して検証したIP電話のしくみを詳しく解説しています。合わせて,そちらもご覧下さい。