ITサービス市場の伸びが鈍化してきた。ユーザー企業のIT投資抑制や案件の先送りに加えて,開発コストの値下げ要求の高まり,失敗案件の続発などが大きな要因だ。それに追い討ちをかけたのが,インドや中国のITサービス会社の日本進出,コンピュータ・メーカーのSI(システム・インテグレーション)事業強化,ユーザー系ITサービス会社の台頭である。

 これらが重なって売り込み合戦が激化するなど,ITサービス会社を取り巻く経営環境は厳しさを増している。業績面でも,好調な企業と苦戦する企業の差が鮮明になってきた。勝ち組に入る条件は,IT導入による投資効果をユーザー企業にきちんと説明できるかどうかだ。2003年3月期の決算や各社の戦略を基に,市場で勝ち抜く条件を考えてみたい。

ITサービス産業の2002年度業績は,前年と比べてほぼ横ばいに

 「ITサービス産業が大きな変革期を迎えている」。これまで2ケタ成長を続けてきたITサービス会社の2002年度(2003年3月期)の業績は売上高,経常利益ともほぼ横ばいに終わった。経済産業省の特定サービス産業動態統計をみても,2002年夏ごろからソフト開発の売り上げが前年同月を下回るようになってきる。

 特にメーカーや大手ITサービス会社の下請け的な存在の企業は苦しい(ただし開発プロセスを抜本的に見直した企業は強くなる)。開発力はもちろんだが,従来から指摘されている営業力,提案力のない企業もますます厳しい状況に追い込まれそうだ。開発プロセスなどを含めた構造改革を実施できない企業は淘汰される可能性すら出てきた。
 
 別ページの表に示したように,売上高1000億円以上である有力ITサービス会社の2002年度業績(連結決算)は売上高が横ばい,経常利益は微増だった。中間期の見通しは,期初より下がり売上高で2.1%増,経常利益で12.3%増を見込んでいたが,それすらも大きく下回る結果になってしまった。市場環境の変化を読みきれず下方修正する企業が相次いたからだ。

 中には2回も下方修正したITサービス会社もあり,上場会社でも減収減益の企業が増えている。SI事業に注力している企業の中には,売り上げの2%前後の大型赤字プロジェクトが発生し,赤字に転落したところもある。2次請け企業(サブコン)でも業績不振に陥ったケースも目立つ。案件の減少,小粒化,値下げ要求などによる。

 ハードウエア販売に力を入れているITサービス会社の苦戦も表面化している。特に,特定メーカーに依存するメーカー系ITサービス会社の業績不振が際立っている。たとえば富士通ビジネスシステム(FJB)は約10%,日本ビジネスコンピューター(JBCC)は約6%,それぞれ売り上げを減らした。非上場だが売り上げを減らした企業はNEC系にもある。

 業態は少し異なるが,富士通サポート&サービスも「設立15年で初めて売上高が減った」(大瀧達彦社長)。メインに扱っているメーカーのハードが競争力を失えば,他社製品を引き下げたITサービス会社にユーザーを奪われてしまう可能性が高くなることだってある。理由は異なるが,伊藤忠テクノサイエンス(CTC)も前年同期より売り上げが下がっている。

慎重さが目立つ今期の業績見通し,利益重視にシフト

 こうした中で,ITサービス会社は慎重な業績見通しを立て始めている。各社とも市場環境が大きく好転するという見方はしていないし,今期以降は大きく体質改善を図る狙いもあるからだろう。

 開発面では,あいまいなままでシステム設計・開発の工程に入らない仕組み作り。開発プロセスの見直しも図る。提案面では高度成長時代の名残であった見積書を提案書と勘違いしている考えの是正。投資効果の説明方法も練る。SIを展開するITサービス会社の弱点である営業の強化も重要なテーマだ。自社の強みとは「何か」を問い直す,最後の機会かもしれない。

 その結果からか,今期は売り上げよりも利益を伸ばそうとする企業が目立つ(別掲の表を参照)。「2003年度の見込みは固めの数字にした」(TISの船木隆夫社長),「修正しないよう必達をベースにした保守的に見ている」(CTCの藁科至徳執行役員)と発言するITサービス会社の経営者は多い。ちなみに2003年度の見込みは,売り上げが2%強,経常利益が約10%の増である。ただ,2002年度の中間期における通期見通しが売上高で2%強増,経常利益で約12%増だったことから推測すると,今期も予断を許さない状況であるのは間違いない。

業績面での二極化がより鮮明に――その差はどこにあるのか?

 この数字はあくまでも業界平均値に過ぎない。伸びる企業があれば,衰退する企業もあるわけだ。業績面での二極化はより鮮明になりつつあるのも確かだ。

 TISの岡本晋専務は,「顧客基盤をきちんと持っているところと,ソリューションを持っているところ」が成長している企業だと言う。つまり,直接取引する優良顧客を抱え,かつそのターゲットに適した業種・業務パッケージなどのソリューションを自社開発しているITサービス会社ということだ。

 住商情報システムなどがその典型である。同社の2003年度売上高は前年度比で6.9%増,経常利益は同19.4%増と好調な推移を見せている。なんといっても経常利益率がいい。約13%である。業界平均は5~7%なので,それを大幅に上回る数字だ。

 この点では,野村総合研究所(NRI)も11.9%と高い。だが,その2社を大きく引き離すのがオービック(28.4%)だ。相浦明社長は「利益率向上の秘策は何もないが,自社開発した(ERP=統合基幹業務システム)パッケージOBIC7が大きな源になっている」と明かす。競合他社のように外資系製品を扱っているわけでないので,保守事業などが収益に結びついた結果だという。

 一方,伸びなかったITサービス会社はどこか。「サブコン系は全くだめ」(TISの岡本専務)。外注費削減の波をもろに被った格好だ。大手ITサービス会社やコンピュータ・メーカーに依存した形で事業を展開している企業も厳しいようだ。年商で200億円以下の企業で前年度を割れこんだところは,そんな企業が多いだろう。

 もう一つの理由がある。前に書いた不採算プロジェクトの発生である。例えば電通国際情報サービス(ISID)は約16億円,アルゴ21は約4億円あった。両社ともプロジェクト管理などに問題があったとするが,このほかにも「アサインがうまくいかなかった」(ISIDの瀧浪寿太郎社長),「ユーザーとの間にグレーな部分があって,仕様変更があっても仕様変更という認識がユーザーになく,金額面での追加要求ができなく,受注側が泣いていることもある」(アルゴ21の大岡正明社長)といった要因もある。

ユーザー企業に投資対効果を明確に示すことが重要に

 こうしたプロジェクト管理,ユーザーとの要件仕様の詰め方,金額面を含めた契約問題などは古くて新しい問題である。ISIDでは不採算案件の再防止策のために,組織面での対応を図るほか,管理プロセスの強化,プロジェクト管理などの社員教育などを図っていくとしている。また,アルゴ21はソフトウエア・エンジニアリングの強化,プロジェクト管理の強化などを推し進めるとする。

 こうした不採算案件をなくす手段を築くことは重要性であるが,ユーザー企業の経営者が求めているのは投資対効果である。「どうもITにコストばかりかかり,その割には効果が見えない」。そんな経営者の疑問に答えられるサービスを提供することだ。多くのITサービス会社は明確な回答をまだ持っていないが,IT基盤の再構築の方法やITガバナンスの提案など,それに少しでも近づく回答を用意しつつある。

 そのためにも早急に人月商売から脱却することだ。これは,情報サービス産業協会の会長でもあるアルゴ21の佐藤雄二朗会長が常々指摘している。そして,ソフト・エンジリングを含めた開発力,営業力,提案力を増していかないと,台頭する中国やインドのITサービス会社に打ち勝てないし,低コスト化の波に飲み込まれてしまう。

(田中 克己=コンピュータ局コンテンツ開発)