HTMLメールは,メールの本文を,Webページの作成に使うHTMLで記述したものである。このため,画像の埋め込みや文字の色付け,さまざまな種類のフォントの利用などが可能になり,表現力の高いレイアウトが可能。テキスト・メールを上回る訴求効果が期待できる。

 だが,テキスト・メール以上の利点を見込めるにもかかわらず,1~2年前は,HTMLメールは「重い」「目障り」と,ユーザーから“やっかいもの”と嫌われる傾向にあった。このため,HTMLメールを敬遠する企業は今でも少なくないはずである。

 カジュアル衣料ショップ「ユニクロ」を全国展開するファーストリテイリングもそうだった。同社のカスタマーダイレクト事業部 竹上 創氏は「1年前はユーザーに嫌われると思い,採用する気は全くなかった」と話す。

 だが,今では竹上氏はその考えを一転している。ファーストリテイリングでは,昨年の11月から12月にかけて,試験的に15万人にHTMLメールを配信した。メール内に,配信を希望しない人のために,配信停止の案内を載せたのだが,拒否したユーザーはわずか0.2%だけだった。「配信停止の案内を見逃すユーザーもいただろうが,少なくともこの10倍は(HTMLメールを)希望しないと思っていた。予想以上にHTMLメールがユーザーの間で嫌われていないことに,正直驚いた」(竹上氏)。この結果を受け,同社では今年の4月からHTMLメールを本格的に開始している。

HTMLメールを拒否する人は少数に

 今年の4月からHTMLメールの配信を開始したファミリーマートの子会社ファミマ・ドット・コムも,ファーストリテイリング同様に,HTMLメールを拒否するユーザーがごくわずかという結果を得た。毎週定期的に配信しているメールとは別に,号外メール(月間)をHTMLで配信。配信停止に関する案内を掲載したが,会員20万人中,配信停止を希望したユーザーは100人(0.05%)にも満たなかった。

 IT・チャネル企画部の佐藤 玲氏は「HTML反対派は今やごく少数。それどころか,HTMLメールを好むユーザーの方が増えているのではないか」と話す。同社では,毎週配信しているメールをHTMLにすることを検討している。

 このほか,定期配信のメールをHTMLに切り替える企業も登場しており,その場合でもHTMLメール賛成派が多数を占めるケースが出ている。

 例えば,チケット販売のエンタテインメントプラス。昨年9月に,それまでのテキスト・メールからHTMLメールに切り替えた。HTMLメールを希望しない人には,テキスト・メールを配信し続ける手続きをしてもらうように依頼をしたが,現在メール会員150万人のうち,HTMLメールを選択している会員が97%に及ぶ。

 昨年4月にHTMLメールに切り替えたリクルートの旅行情報サイト「イサイズ じゃらん」では,「切り替えた当時の配信数は26万だったが,2人から苦情がきただけ。その後は全くクレームはない」(イサイズじゃらん編集長 塩出 慎吾氏)という。

 こうした変化に大きく関係しているのが,ブロードバンドの普及である。平均的なHTMLメールのデータ容量は,100K~150Kバイトと言われているが,ブロードバンドならば問題ない。また,HTMLメールでは画像をWebサーバーに置き,開封時にダウンロードするのが普通。オフラインでは画像が表示できないが,常時接続を実現するブロードバンドでは問題にならない。こうした回線環境の変化が,HTMLメールに対するユーザーの意識を変えたのである。

事業者から見ると効果はテキスト・メール以上

 事業者から見たHTMLメールの効果に話を移そう。

 「特にEC(電子商取引)には有効。表現力の向上が,売り上げアップに直結する」とメール・マーケティングを手掛けるルート・コミュニケーションズ 社長 塚田 耕司氏は話す。

 実際,テキスト・メールを上回る効果を挙げている企業が既に登場している。

 例えば,無農薬野菜などをネットで販売するオイシックス。ルート・コミュニケーションと共同でHTMLメールの販促効果に関する調査を実施したところ,HTMLメール経由の購買率がテキスト・メールを大きく上回るという成果を得た。

 調査は,2002年6月から2003年4月にかけて6回実施。同じ内容のHTMLメールとテキスト・メールをオイシックスの会員(20万人)に配信した。その結果,HTMLメールが2倍以上の購買率となる回が多く,全体の平均をとると,テキスト・メールの3.2倍にもなった。

 ファーストリテイリングとファミマ・ドット・コムも,HTMLメールの効果がテキスト・メールを上回った。ファーストリテイリングはECサイトおよびリアルの店舗で扱う商品の情報を,ファミマ・ドット・コムではECサイトの情報をメールで知らせている。両社とも,同じ内容のテキスト・メールを配信した場合に比べて,HTMLメールの方が購買率が30ポイント高いという結果を得たのである。

 また,リクルートのイサイズ じゃらんでは,クリック率の平均がテキスト・メールの4倍になった。化粧品のECサイト「iBeautystore.com」を運営するオズ・インターナショナルでは,「1万5000通配信すると,数分で20件近くの注文が入るようになった。テキスト・メールでは数件あるかどうかだった」(取締役 青池 佳子氏)という成果を得た。

HTMLメールの勢いはさらに加速

 もちろん,HTMLメールの効果はEC(電子商取引)以外にも期待できる。その代表例はブランディングである。HTMLメールではビジュアルな表現が可能なため,ユーザーの目に留まりやすく,かつ印象に残りやすい。例えばナイキジャパンでは,新商品の紹介だけでなく,スポーツ選手を採用したテレビCMのイメージをメールで表現。ブランディングを目的としたメールを配信している。

 「新製品のリリースや会員募集のメールなど,現在配信されているテキスト・メールのほとんどが,HTMLメールの恩恵を受けることが十分期待できる。HTMLメールに変えることにより,従来以上の成果を得られるだろう」と富士通総研のシニアコンサルタント 田中 秀樹氏は話す。

 その勢いは,ますます加速していきそうだ。実際,採用企業は昨年から急速に増え始めている。たとえば,7月にはチケット販売最大手のぴあが,11月には通販大手の千趣会がHTMLメールの配信を開始した。今年には,上述したファーストリテイリングやファミマ・ドット・コムのほかに,2月には日産自動車が,5月にはBIGLOBE(NEC)が始めるなど,名の知れた企業が相次いで開始している。

 今や,多くのユーザーが1日に10通以上のメールを受け取っている。そうした中,“埋もれずに”読まれるためには,現在のメール・マーケティングの主役であるテキスト・メールだけでは難しくなりつつある。この壁を打破する手段として,HTMLメールに期待をかける事業者が急増している。

(小川 弘晃=日経インターネットソリューション)

【IT Proより】
HTMLメールについては,来週,「セキュリティ」の観点からも再度取り上げる予定です。