最近公開した記事のなかで非常に多くの読者に読まれ,たくさんのご意見をいただいた記事に「現代リスクの基礎知識:たばこ規制」という記事がある。いきなり宣伝モードで恐縮だが,4月末から始めた「BizTechイノベーター」という新しいサイトに掲載した記事である。

 この記事がたくさんの方々に読んでいただけたのは,まず第一にとても身近な問題であったことが挙げられるだろう。そして,これが重要なことであるが,個人によってスタンスがはっきり分かれる問題を取り上げたためだと思われる。「仕事の情報」というよりも,個人的な感情に訴えたということだろう。

 しかしそれだけに,たばこに対する自身のスタンスを背景にした感情的なコメントも多かった。これは,実はちょっと残念だった。

 もちろん,「現代リスクの基礎知識」という連載を書いている筆者の意図とは違った受け取られ方であった。たばこの規制を例にビジネス上のリスク構造を考える,という連載であり,それがどんな分野に演繹できるのかがむしろ重要な観点だった。毎回のテーマの選定にしても,そういったねらいで進めている。

 一方で,記事の構成として,誰にも分かるようにストレートに攻めなかったのではないか,というご指摘はあるだろう。本質よりも,それを説明するための事象に読者の興味が集中してしまうような構成だったという点は否定できない。筆者というより,編集者にその責はあると思っている。

時間の経過にともなって読者コメントの質が変化する

 ところが,特にフィルタするでもなく集まってくるコメントを見ていると,最初は感情先行型のコメントが目立っていたが,徐々に論理的なコメントが目立つようになってきたのである。そして最後には,著者の意図を汲み取れば本質はこうではないか,というような内容のものが見られるようになった。

 この時間の経過によるコメントの質的な変化は,以前にも経験したものであった。それは,本欄「記者の眼」でもお馴染みの弊社編集委員・谷島宣之が,NHKの人気番組「プロジェクトX」について書いたときである(記事へ)。

 このときも,身近でしかも好き嫌いがはっきりしたテーマであったことが,多数のコメントにつながったと考えられる。そのコメントの内容も,感情先行のものから,何がこの問題の本質なのかを汲み取ろうというものに変化していった。

 この「記者の眼」というコーナーはIT Proの人気コーナーである。最近の読者の皆さんからのコメントを読んでいると,感情的なコメントは少なく非常に有意義だ。これは,仕事の情報に近いために冷静に書けるからだろうか,あるいは,他のコメントを見て,ご自身が投稿するコメントの内容をいっそう吟味しているのだろうか。

 テーマにもよるだろうし,記事の質にもよるだろう。しかし,本質が何であるかを共有するのに,メディアの記事をトリガーにした読者の皆さんからのコメントや議論が非常に有意義であることは間違いがないと思う。

記事+専門家の指摘=>物事を判断するに足る価値ある情報に

 もっとも,考えてみればこれは当たり前の話だ。メディアの役割は,専門家の所に取材に行って,聞いてきた話を噛み砕いて,分かり易く(そうでもないこともあるが・・・)パッケージして,より広範囲の読者にお伝えすることだ。メディアは専門家ではなく,「専門家の話の価値を判断できる,あるいは判断できそう」「専門家とのパイプがある,あるいはありそう」というようにブランディングされているだけに過ぎないという側面もある。

 プロフェッショナルとしてビジネスにかかわっている読者の皆さんに対して,インターネットで情報をお伝えするということは,専門家や取材先の皆さんにお伝えしている,ということとほぼ同義でもある。

 私は,世の中の状況を委細漏らさずすべてに公平に書いたものは「記事」ではない,と思っている。言ってみればそれは「データ」であろう。そこに事実はあっても,本質がどこにあるかは別の問題である。記事には,本質を示す何らかの切り口や(声高ではない)主張があるべきだろう。

 そういった「記事」に対して,専門家であり取材先でもある皆さんから,思いもよらない観点からのモノの見方,本質を見誤っている時には鋭い指摘,といったものがたくさん集まってくる。そうなって初めて,記事が物事を判断するに足る情報になる。私はこんなふうに考えている。

 そして,これがほぼリアルタイムにできるのはWebのメディアしかないと思う。Webでなければできないこと,それは,メディアが提供する記事をコメントを通じて読者の皆さんにブラッシュ・アップしていただくことなのである。

 今はまだ,記事の末尾などにコメント記入欄を設けて,いただいたコメントを公開することしかできていないが,近い将来には,そういった読者の皆さんのリアクションを前提にした,機能的にもコンテンツの面でも面白いWebサイトを実現させたいと考えている。

 「BizTechイノベーター」は,その第一歩という意味もある。まずは,「IT」と「環境」を柱に,「技術を武器にビジネスを変える」という観点で始めてみた。ぜひ読んでいただければと思う。そして,忌憚のないご意見をよろしくお願いします。

(田邊 俊雅=BizTech編集長)