54Mビット/秒の無線LAN規格にはIEEE802.11aとIEEE802.11gがある。規格の完成は11aの方が早かった。しかし,11gが登場すると,米Apple Computerが11g搭載製品を発表したり(掲載記事),米Microsoftが今年後半の11g対応を表明したり(掲載記事)と11gばかりが目立つ。国内でもKDDIが個人向け無線LAN機器のレンタル・サービスに11gのものを採用した(掲載記事)。

 先行していたはずの11aはすっかり影が薄くなってしまった感がある。一部には高速無線LANは11gで決まりという声もある(関連記事)。しかし,筆者は11gよりも11aの方が気に入っている。理由は単純。安定していて速いからだ。

 最高速度が同じ両者の違いは,利用する周波数帯域。11gが2.4GHz帯を使うのに対して,11aは5GHz帯を使う。このため,一般には11gの方が遠くまで飛ぶと言われている。これは周波数が高いほど減衰しやすいからだ。

 ところが実際に製品を用いて実験をしてみると,11aの方が長距離でも通信ができる。例えば,見通しのいいホールでの実験で,11gが100m程度離れるとリンク切れを頻発したのに対して,11aは12Mビット/秒程度を安定して維持した。また,屋内で行った実験でも,木造建築であればどの部屋でも11aで通信することが可能だった。すべてのポイントで11aは11gを上回った。

 この実験は3月ごろのものなので現在は,11gのドライバ・ソフトが洗練されて,もう少しよくなっているかもしれない。しかし,少なくとも11aは世間一般で思われているほど,長距離に弱いとは言えないと思っている。

11bと同じ帯域ゆえの限界を感じる11g

 もちろん,世の中が11gを歓迎するのも良く分かる。現在主流の無線LAN規格802.11bと相互接続性があるからだ。すでに802.11bを導入しているユーザーなら,わざわざ11bとつながらない11a製品は買わないだろう。11gであれば,既存の11bのネットワークを使いつつ,11gのアクセス・ポイントまたはカードを購入して,徐々に11gに切り替えていける。

 ただ,個人的には,11gのこの下位接続性が好きではない。11bが11gのネットワークに1台でも入ると全体のスループットが落ちるからだ。

 このことは簡単な計算から分かる。11bは最大11Mビット/秒で通信している。一方,11gは54Mビット/秒である。これら2つが同時に同じアクセス・ポイントに接続し,同じデータ量をダウンロードしているなら,11bの通信の方が11gの通信より約5倍の時間がかかる。11bが5分の1の速度でゆっくりパケットを送っている間,11gは通信待ちになるので,結果として11gの通信速度は大幅に下がる。フレームの送信タイミングも11bと同じになるため,これによっても速度が低下する。

チャンネルの選択も悩みの種

 また,同じアクセス・ポイントで11bと11gを混在させて使わなくても,近くに同じチャンネルで通信している11bのネットワークがあれば,それだけで遅くなる。11gは11bのフレームを感知するからである。他のアクセス・ポイントあてであっても,11bのフレームが流れたことを感知すれば,その時間フレームを流さない。11gで高速に通信するためには,11bとは異なるチャンネルを探す必要がある。

 ところが近くに無線LANユーザーが密集した地域ではこれが難しい。というのも,11gは総務省の割り当てで1,6,11チャネルの3つしか使えないからだ(11bのアクセス・ポイントが使えるチャネルは干渉が起きないように選ぶと1,6,11,14の4チャネルになる)。筆者が実験した周辺では11bのアクセス・ポイントが多数あるようで,空いているチャンネルを見つけ出すことはできなかった。

 11aであれば,5GHz帯で事実上11a以外の方式で通信しているデバイスはいないので,干渉を心配をする必要はない。また,チャンネルも4チャンネル分利用できる。

意外と普及しそうな11a

 もちろん,11aには価格という最大の欠点がある。11bと遜色のない値段で買えるまでに値下がりしてきた11g製品と比べて,11a製品は5割程度高いのだ。しかし,最近は11gへの価格競争上,安くなる兆しを見せている。

 例えば,アイ・オー・データ機器が最近発売した11a/gのコンボ・カードは11gカードの1000円増しぐらいで購入できる(関連記事)。また,米Intelも夏ごろには,Centrinoブランド製品に11aを取り込むとしている。これらを考え合わせると,意外と11aが広く使われるのではないか,と筆者は感じている。

(中道 理=日経バイト)

【おわびと訂正】
第4段落で「11gが100m程度離れるとリンク切れを頻発したのに対して,11gは12Mビット/秒程度を安定して維持した」としましたが,後半部は正しくは「11aは12Mビット/秒程度を安定して維持した」でした。おわびして訂正します。