法務省が2003年3月に公開した「ハイテク犯罪に対処するための刑事法の整備に関する諮問」と題した法案によれば,通称“ウイルス作成罪”と呼ばれる罪でウイルスの作者や所持者が逮捕される可能性がある。早ければ2003年秋の国会に提出され,2003年末にも施行される。

 ウイルスを作るだけではなく,持っているだけでも犯罪になるというのだ。私たち一般ユーザーも関係するのだろうか。

感染させる意図があると罪になる

 今でもウイルス作者を罰する法律として,「電子計算機損壊等業務妨害罪」がある。しかし,この法律では,業務で使っているパソコンに被害が出ないかぎり,作者などを罰することができない。単に増殖するだけで被害を与えないウイルス(ワーム)の作者には適用できないケースが多かったのである。また,業務以外で使っている家庭のパソコンは対象外だった。

 一方,この新法が施行されると,企業や家庭といった違いや,被害の有無にかかわらず,ウイルスを作っただけで罪を問われる可能性がある。さらに,ウイルスを所持しているだけでも罪になるかも知れない。

 では,ユーザーが気づかないうちにウイルスに感染してしまい,ほかのユーザーに被害を加えてしまったら,どうなるのか。逮捕されてしまうのだろうか。

 それについては,心配はいらない。ウイルス作成者や所持者に,感染させる意図があるかどうかで罪になるか決まるからだ。法案には,「人の電子計算機における実行の用に供する目的で~」とある。これを“日本語”に翻訳すると,「他人のパソコンにウイルスを感染させる目的でウイルスを作ったり,所持したりすると罪になる」ということである。

 例えば,ウイルスに感染したパソコンを1カ月間使い続けても,ユーザーがその間ずっと気づいていなかったのなら,罪に問われることはない。しかし,ウイルスに感染していることを知っていながら,そのパソコンを社内LANやインターネットにつなぐと,ウイルスを他人に感染させる意図があるとみなされて逮捕される可能性がある。

 ウイルス作者を突き止め,他人に感染させる意図があったかを証拠を集めて証明するのは,簡単ではないだろう。しかし,この法律ができれば,ウイルスを作ったり,広めたりするだけでも犯罪だと認められる。この意味は大きい。

(三輪 芳久=日経NETWORK副編集長)

日経NETWORKの最新号(2003年5月号,4月22日発行)のできごとズームインでも,ウイルス作成罪について,より詳しく解説しています。合わせて,そちらもご覧下さい。