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FTTHの割引キャンペーンで思うこと

2003/04/11

【第1幕】
 最近,ぼくの姉さん変なんだ。これまで何だかお高くとまってたんだけど,急に周りのやつらに愛想を振りまくようになってさ。きっかけは,妹のクラスに転向してきたあの子の影響に違いない・・・

 まあ聞いてよ。その転校生って駆け足が速くってさ。ウチの学校,小高い丘の上にあるだろ。その子,学校までの「上り」坂はゆっくりなんだけど,「下り」の速いこと速いこと。それを見た体育会系クラブや愛好会の男子が騒いじゃって,「ぜひうちにこないか」なんて誘いがひっきりなし。しかも気やすい子でね,毎月かかるデート代だって,「ほかの子の半額くらいのでいいのよ」なんて言うんだ。これには相当数の男子がまいったね。その子,矢のように風を切って走るから「矢風(やふう)」って呼ばれてるんだ。

 しかも矢風ったら,クラスの中でだれかれ構わず,みんなにプレゼントを渡し始めたんだよ。「モデム」なんていうよく分からないキカイをタダで配ってさ。何に使うか知らない子も何だか得した気になるんだろうね。だからその子の周りは,いつも人だかりができてるんだ。

 同じクラスの妹は,初めその子をバカにしてたんだよ。「無料でキカイを配るなんて下品」とか,「実際に付き合った子に聞いたら,結構評判悪いわよ」なんて悪口ばかり。ほら,姉さんも妹も,みんなから「弁天様,いや“でんでん様”」なんて祭り上げられてただろ。でもあまりのもて振りを見ていられなくなったらしくって,2月から「2カ月間,私がデート費用全部もってあげる」なんて“無料キャンペーン”始めちゃってさ。プライド高いあの妹が・・・って,本当にびっくりしたんだから。あ,ちなみに矢風と妹のクラスは,なぜだか“河童”て言うんだ。

 でね,姉さんはそのクラスの様子をじいいっと見てたんだよ。弟のぼくが言うのもなんだけど,姉さんは駆け足だったら誰よりも速いしさ。しかも学校までの「上り」も「下り」も関係なし。超高速なんだ。だから姉さん強気になってて,「いずれみんな妹たちに飽きて,私のところにやってくるわ」と平静だったわけ。何しろ一部の人たちは姉さんのこと「究極の・・・」なんて形容詞をつけて呼んでたくらいだから。

 でも,何しろ妹以上にプライドが高いからさ,付き合うために毎月,結構なオカネがかかるらしいんだ。しかも付き合い始める時に,3万円近いプレゼントを要求するらしい。悪友どもはこれを「初期工事費用」って呼ぶんだけど,妹たちの河童クラスの女の子だったら10分の1程度。姉さんと付き合うのがいかに大変か,分かるだろ?

 その姉さんが最近,本当に変わっちゃってさ。何でも「ぷろばいだ」って呼んでる親友たちと協力して,自分からプレゼント費用を引き下げたりしてんだよ。これって,妹たちのまねだよね。1年前には妹たちと比較しようものなら「一緒にするんじゃない!」って怒ってたあの姉さんがだよ。どうも,放っておくと,妹たちに学校中の男の子を全部とられちゃうんじゃないかって思い始めたらしいんだ。「このままでは,私の時代は来ないかも」なんてブツブツ言う時もあるし。

 え,教えてなかったっけ,姉さんの名前。“ひかり”って言うんだよ。HI・KA・RI。さて,ぼくも家に帰るとするか。今日は隣り町の熊さんが遊びに来るっていうし・・・

【第2幕】
:・・・坊主遅いなあ。聞きてえことがあったんだがなあ・・・。あ,これはご隠居,いいところへ。実は私,この間から気になってることがあるんですよ。例のFTTH(fiber to the home)ってやつ。家にビラが入ってたり駅前でキャンペーンやってたり,結構目につくじゃないすか。あれってお得なんですかねえ。

ご隠居:・・・

:いやね,月額料金の割引だけだったら,ほとんど気にもとめなかったんすよ。でもほら,今なら3万円近くする初期費用が無料ってキャンペーンが出てきたでしょ。私が加入に踏み切れなかったのはまさにこいつですからね。3万円もありゃあ,大はやりの3丁目の居酒屋「銅線」で10回は楽しめますから。

ご隠居:・・・

:でも結局,キャンペーン期間過ぎたら,また5000円から8000円ものお足を毎月払わにゃならんでしょ,使っても使わなくても。私なんかほら,何でもすぐに飽きちゃうから。なんでキャンペーンなんかじゃなく,もともとの料金を下げてくんないんすか。ねえ,何か言ってくださいよ,ご隠居。

ご隠居:・・・1心4527円,宅内工事費8割。

:へ?

ご隠居:ま,お前さんのような素人には分からんわな。(息を大きく吸い込んで一気に)あのな,1心というのは,光ファイバを数える単位。1心4527円ちゅう値段は,2008年3月には全国で660万心が使われていると期待して付けた,出血覚悟の破格値だわな。実際は今でも1心当たり1万円以上かかっておる。

:でもチラシに入ってきたFTTHの料金は月6000円すよ。ということは,このうち4527円が光ファイバのコストということっすか?

ご隠居:あ〜だから素人は困るってんだ。違うよ全然。実際には通信事業者様は,お客様のところに1心のファイバから信号を分岐して届けたりするから,1回線当たりのコストとは別物だわさ。
 ま,せっかくだから教えてやるが,お客様1回線当たりのコストっちゅうのは,1心当たりのコストを共有するお客様の数で割ったり,様々な機械のコストを足し込んだりして計算するんじゃ。ま。結論から言えば,お客様が払っている月額料金の4割,約2000円がFTTHの回線コストとなる。で,いざ値下げとなると,光ファイバの需要がもっと前倒しで高まるとか,共有するお客様の数を増やすとか,そりゃあもう複雑な計算が必要なんだ。けっして「えいや」で下げられるものではない。常に「正確な理屈」が付いておる。すごいもんじゃろ。

:ひええ。さすが××会社(お好きな通信事業者の名を入れて下さい)。でもね,よく分からんのですけど,それは逆に言えば,“つじつま”さえ合わせれば,料金はいくらでも下げられるということになりゃしませんか? だって8分岐だの32分岐だのって言っても,実際にお客様がいるかどうか分からんじゃないすか。え,どうなんすか。

ご隠居:(耳が遠くなった振り)・・・で,初期費用の話じゃったな。お前ら何にも知らんやつは3万円が高いのなんのとほざいておるが,あきれ果てた話だ。実際には5万円もらったって赤字なんじゃ。何しろ専門技術を持った工事担当者が,1軒1軒ファイバを引いて回るんだから。これはな,プロが2〜3人組みになっても,1日3〜4軒の工事が限界じゃ。実のところ,初期費用の8割がこの人件費。削れるわけがなかろう。

:いやいやご隠居。初期費用を無料にしろってわけじゃありません。月額費用に上乗せして実質的にゼロ円にするって手もあるでしょう。例えば3万円の初期費用を12年で回収するってえと,そろばん,そろばん・・・ほら,月額料金に200円上乗せするだけでできる。

ご隠居:さっきお前は月額料金の値下げを「つじつま合わせ」だの失礼な言い方をしておったが,それこそ机上の空論! できる訳がなかろう。

:ご隠居,「加入電話・ライトプラン」や「INSネット64・ライト」ってサービスをご存知で?

ご隠居:ドキン!

:例えばINSネット64・ライトなら,月額基本料が640円高くなる代わりに,7万2000円もする初期費用を無料にしてるじゃないすか。加入電話・ライトプランだって,全く同じっすよ!

ご隠居:ドキンちゃんはしょくぱんまんが好き〜

:歌ってごまかすな! でもFTTHの初期費用が無料になったら,他社への「乗り替え」も気軽にできるってことすね。う〜ん。FTTH事業者にしてみたら,無料化してまで獲得したお客様が,簡単にライバルのサービスに移りかねないことになるわけか。典型的なダブルバインド(二重拘束)すね。

ご隠居:(何だか立場が逆転してきたような・・・)ま,なんだな,そういうことがあるから,少額の初期費用をお客様に負担していただく通信事業者もあるってこと。「せっかくオカネ払ったんだから,乗り替えるのはもったいない」と思わせる訳じゃ。ま,ここまでくると,お客様との心理戦じゃな。
 ・・・オオッ,ちょうどいいところに『日経コミュニケーション』の4月14日号が届きおったぞ。今号の特集はと,・・・なに!「FTTH料金はまだ下がる」じゃとお!!

:ええと,「月額料金は1000円は下がる」って中川ヒロミ記者は書いてますね。本当っすかね。愛猫の「桃ちゃん」にだまされているのでは。

ご隠居:バカモノッ!なんでお主がそんなことを知っておる。しかも「桃ちゃん」ではなく「鈴ちゃん」だ! もうお前,帰れ。ワシは家に帰ってじっくり読むから。

(宮嵜 清志=日経コミュニケーション副編集長)

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