3月4日のこのコーナーに「なかなか快適,802.11gの使い心地」と題した記事を掲載した。その中で,メーカーの異なる製品間での互換性も検証してみたい,通信状態がたまに不安定になってしまうのが不可解,と書いた。その後,これらの課題を検証するチャンスがあったので,今回も高速タイプの無線LAN,IEEE 802.11g(以下11g)についての体験談を書かせていただき,情報のアップデートをしておきたい。

不調機器交換したら快調に

 前回,アクセス・ポイント(AirMac Extreme)を11gのみサポートするモードで通信していると,至近距離(約1メートル)でも10Mbpsプラス・マイナス3Mbpsくらいになってしまうと書いた。しかし,その後,アクセス・ポイントを別の新しいものに交換してみたら問題なく20~22Mbps程度で安定して通信できることが分かった(計測は約28MBのファイルを5回ftp転送した平均値)。

 また,機器交換後はアクセス・ポイント側を11bと11gの互換モード(以下11b/gと表記する)にし,11gのクライアントのみで接続した場合,スピードの低下は見られなかった。

 そこに11bのクライアントを追加した場合は,スピードは約14Mbpsに低下した。11bのクライアントはインターネット・ラジオを受信し,常にアクセスが発生するような状態で,11gのクライアントのスピードを計測した。「11bと11gの端末が混在している場合は11bのスピードになる」という通説があるが,このような利用形態の場合はそれほどのスピード・ダウンは起きないことが体験できた。

 しかし,喜んだのもつかの間,11bのクライアントで大容量のファイル転送を継続させながら,同時に11gクライアントのパフォーマンスを測ると,3.3Mbpsに落ちてしまった。混在させた11bクライアントでWebページの閲覧,メールの送受信,音楽ストリーミングの聴取をやっている程度では影響は比較的小さいが,転送チャネルを占有してしまう程のトラフィックがある場合は,深刻なスピード・ダウンが発生することが判明した。

 まさに,一喜一憂。11gはとても新しい仕組みで,ハードウエア,ソフトウエアともにまだまだ満足すべきレベルにないことを実感する結果となった。11gの仕様そのものが最終的な承認を得るところまで来ていない上に(関連記事),その実装も十分な最適化がされていない状態だから,これからのブラッシュ・アップを待つべきなのかもしれない。

異メーカー間の相互接続性は?

 さらに,今回,メルコの11gアクセス・ポイント「AirStation WLA-G54」を試してみた。こちらでは,クライアントを11gと11bを混在させた状態で11gのクライアント上で計測すると約17Mbpsのスピードが出た(11bクライアントは音楽ストリーミングを聴取)。

 アップルのAirMac Extremeを搭載した12インチ PowerBook G4をクライアントに計測したが,接続性には問題がなかった。メルコの11g製品にはAirMac Extremeとの接続性を保証するシールが貼られているので,つながるのは当然ではあるのだが。

 実はこの貸出機には当初,バージョン1.0のファームウエアが乗っており,この状態で計測したら約14Mbps程度だった。その後,メルコのホームページに掲載されているバージョン1.02をダウンロードし,アップデートをかけた後計測すると,11g,b混在環境下での11gのスピードが17Mbpsに上がった。

 メルコによるとファームウエアV.1.02では802.11gの仕様ドラフト6.1に対応させたため,従来のドラフト5.0に対応させたファームウエアv1.0の時よりも11gとの混在環境での性能向上が図れたとしているが,これも実証できたことになる。

 しかし,こちらも,11bクライアントで大きなファイル転送をさせながら11gのパフォーマンスを測ると,スピードは3.8Mbps程度に激減した。AirMac Extremeよりも若干数値は良いものの,ここでも同様の問題を抱えていることが判明した。

「ホットスポット」でも不具合解消中

 前回,3月4日の段階でアップル社製のAirMac Extreme(11g対応製品)を組込んだPowerBook G4で,NTTコミュニケーションズが提供する無線LANアクセス・サービスの「ホットスポット(11b対応)」につながらないと書いたが,これも3月18日ごろから徐々に不具合が解消しつつある。

 通信開始時点で端末のスピードを検出する手順に解釈の違いがあったというが,NTTコミュニケーションズはこの問題に即座に対応し,現在新しいファームウエアを各アクセス・ポイントにインストールしている最中だ。アクセス・ポイント数が多いため,日本全国で対応が終わるのはしばらく時間がかかるというが,都心では3月20日現在22カ所の対応が終わったという。

 ただし,一般向け無線LANアクセス・サービスで11gをサポートしているところはまだなく,宝の持ち腐れとなってしまうのが残念なところだ。しかし,私の場合,モバイル環境で必要なのはメールのチェックかWebでの情報収集だ。こうした目的のためには5Mbpsくらいのパフォーマンスがあれば十分。11gの高速性は自宅で堪能するだけで我慢することにしよう。

混在する11bが抜けたときはどうなる?

 11b/gのアクセス・ポイントに11gのクライアントのみがつながっているときは20Mbps程度でつながるが,11b端末が混在してくるとスピードが17Mbps程度に落ちてくる。では,混在している11b端末を使用停止した場合にはどのような振る舞いになるのだろうか?

 実験の結果,11bのクライアントが抜けたあと,数分のうちにパフォーマンスが回復し,20Mbps程度に戻って来ることが確認できた。

 アクセス・ポイントのモードが「11gのみ」でも「11b/g」でも最高スループットには大差はなかったから,一般には「11b/g」互換モードにセットしておけば運用上問題ないだろう。

 前回にも書いた通り,20Mbps程度の接続ができれば,何かと快適だ。普通のプロダクティビティ・アプリケーションで,サーバーに保管しておきたいデータはネットワーク越しに集中保存できるし,取りためたテレビ録画もデスクトップ・マシンに保存しておけば,いつでも手元のノート・パソコンで楽しめる。

 もうこのスピードに慣れてしまった私がコワイといったところだ。

Centrinoの11g対応が待たれるが

 インテルが無線LAN機能も包含するモバイルPC向けの統合プラットフォーム「Centrino」を3月12日に発表してから,802.11bを内蔵するノート・パソコンがどっと市場に溢れるようになった(関連記事)。こうした統合的なプラットフォームが提供されるようになれば,これまでなかなか普及してこなかった無線LANも大きく流れを変えてくるだろう。町の主だったところで高速のネットワークに簡単につなげられることを夢見てきた私にとっては,こうした動きは大いに力づけられる。

 1999年7月,米Apple Computerが11bの無線LANをパソコンに内蔵させるようになってからはや3年が経っている今,標準サポートされるのはそろそろ54Mbpsの高速バージョンかと期待していた。しかし,残念ながら当面は11bのみになる。

 インテルは11gへの対応は,11gの仕様が完全に固まった段階で行うとしており,製品投入時期を明確にはしていない。高速無線LANへの対応はまず11bと5GHz帯を使う11aのデュアル・モードで開始(2003年6月ごろ),11gの正式規格が決まったあと,11b,11a,11gのトリプルモードの製品を投入していくことになるという(インテル プロダクトマーケティング マネージャー Wireless LAN製品&システムズの梅野光氏)。

 インテルでは現在,無線LANのインフラを普及促進するため「ホットスポット」(NTT コミュニケーションズ),「Yahoo! BB モバイル」(ソフトバンク BB ),「BizPortal」(理経)と協力し,Centrino無線LAN機能が確実に動作するかどうかの検証を進めている。こうした作業を通じて,まず11bが広く普及し,それを受けて,更なる高速化への要求が高まってくる。

 私はこれまで,なかなか無線LANスポットが広がっていかなかったことにいら立ちを感じていた。さまざまなメーリング・リストに入って情報収集に励んでいると,一日300通くらいのメールが飛び込んでくる。取材で外出中にこうしたメールをさっと取り込むには5Mbpsくらいのスピードが最低限必要だと,経験上強く感じている。しかも記者としてばかりではなく最終の誌面レイアウトまで責任を負う仕事を抱えるようになると,誌面の細部まで確認できる高解像度のデータもやり取りせざるを得ない場面にも遭遇する。表紙の校正確認など,願い下げたいようなデータも飛んでくる。

 出張の帰りに新大阪駅で,ちょっとメールをチェックしようと携帯を使ってインターネットに接続したら,20分経っても作業が終わらず,途中で作業を中止し,列車に飛び乗ったことがある(cdmaOneの高速パケットサービスを使い64kbpsで接続,機種を替えれば144kbpsもできるが,そこまで踏み切っていない)。

 先日,日経NETWORKの藤川副編集長がこのコーナーに「無線LANアクセス・サービスはもうおしまい? 定額メニューで攻勢に出るPHS」という記事を書いていた。利用形態によってはこうしたアプローチも正解たりうるだろう。だが,私のようにつね日ごろからネットに依存して仕事をしているものにとっては,どうしても街中でも高速なインターネット接続環境が欲しい。無線LANアクセス・サービスが終わってしまっては,本当に困る。

 やはり,無線LANアクセス・サービスがさらに広がり,もっと高速化することに期待している。高速なネットが広くどこででも使えるようになれば,利用シーンは今のステージからまた一段高見に昇る。そうすれば,また新たな生活とビジネスが生まれ出る。

 日米で無線LANに割り当てられる帯域が広がる方向に電波行政が動き始めているし,UWB(Ultra Wideband,関連記事)という100Mbps超の無線通信を近距離ながら実現する新方式も,着々と実用化への歩を進めている。少しづつだが私の望む方向に進んでいるのは喜ばしいことだ。まだまだ時間はかかりそうだが,インフラの成長とはそんなものだと,一喜一憂を楽しみながら,ゆったりと構えることにしたい。

(林 伸夫=編集委員室 主席編集委員)

注:使用環境はアクセス・ポイントにアップルコンピュータのAirMac Extremeベースステーションまたはメルコの「AirStation WLA-G54」。無線LANクライアントには802.11g準拠の無線LANカードを内蔵した12インチ PowerBook G4(867MHz PowerPC G4プロセッサ)。サーバー・マシンはデュアル 500MHz PowerMac G4 を100BASE-TXで接続。