情報システムというものは,開発が終わり,稼働し始めた瞬間から陳腐化・劣化が始まる。苦労して開発したにもかかわらず,利用者はあれこれと修整依頼を出してくる。情報システム担当者が修整依頼に基づいてシステムを少しずつ保守していくが,なかなか利用者の満足度は高まらない。

 なんとか4~5年間は動かしたものの,保守のしすぎで,だんだんとシステムを構成するアプリケーション・プログラムが“よれてくる”。こうなると保守コストが馬鹿にならない。やむをえず全面再構築を決意し,経営陣に提案する。

 一つの情報システムの誕生から廃棄までの流れを大ざっぱに追うと,以上のようになるのではなかろうか。しかし,この流れは企業の経営陣にとって納得しがたいものである。「あれだけ大金を支払ったのに,また作り直すのか」「もうちょっと長く使えないのか」「そもそもこれまでの投資に対して,適切なリターンを得たといえるのか」。こうした質問が矢継ぎ早にシステム担当者へ向けられることになる。

 本来の理想は,いったん動かした情報システムが成長し続けることである。企業が成長するにつれ,情報システムも成長していく。企業が変化した場合,情報システムも変化する。こうしたことが実現できれば,情報システムは劣化せず,常に価値を生み出せる。情報システムの投資対効果は高まる。

成長するシステムへのアプローチ

 果たして“成長するシステム”は実現できるのか。そのために,どのようなアプローチが必要なのだろうか。

 まず,変化に強い,柔軟性があるシステムとして開発することが大前提である。つまり保守性の高いシステムの実現である。これは相当に難しい。開発段階から,稼働後の運用や保守作業をにらんで,さまざまな手をうっておかなければならないからだ。

 例えば,企業全体で利用するデータ項目を整理し,データ・ディクショナリを用意する。自動化を含む統合運用基盤も整備しておく。アプリケーション・パッケージを利用するなら,パッケージの修整を極力避ける,といった具合である。

 ただし,これらは成長するシステムの必要条件ではあるが,十分条件とは言えない。成長するためには,日々の成長を測る仕組みが欠かせない。すなわちシステムの利用実態をモニタリングする仕組みである。

 そもそも今どのくらいのシステム資産があるのか。各アプリケーションごとに開発費や保守費,運用費はいくらくらいかかっているのか。各アプリケーションは利用者からどの程度使われているのか。こうしたことを把握する必要がある。そのためのモニタリング・ツールがソフト製品として登場している。あるいはアプリケーションの中に作り込んでおく方法もある。いずれにせよ,システムを開発する段階で,モニタリングの仕組みを考慮することが肝要だ。

 あまり使われていないアプリケーションが見つかれば,次は使われない理由を調べる。アプリケーションの使い勝手が悪いこともあろうが,案外多いのは,そのアプリケーションの機能が利用者によく理解されておらず,せっかく用意した機能を十分使いこなせていない場合である。それならば利用者教育を充実させるといった手が打てる。逆に本来は必要ないアプリケーションを作ってしまったと分かることもある。その場合は,そのアプリケーションを廃棄するしかない。

情報システムのマネジメントを実施する

 モニタリングするには,もともとの目標値がなければならない。アプリケーションごとに,どのくらい利用されるものなのか,どんな効果を期待しているか,を明確に定める。評価指標もあらかじめ作っておく。評価指標は,システムのサービスレベルのように定量化できるものと,目標達成度合いのような定性的なものと両方を組み合わせる。

 システムの目標を作り,システムを動かし,モニタリングし,改善する。これはすなわち,マネジメント・サイクルを情報システムに対してまわすことにほかならない。情報システムを成長させるには,こうしたマネジメントの仕組みが不可欠である。本来,情報システムは,企業のマネジメントに役立つ情報を作り出すものである。ところが,情報システム自体のマネジメントはまだまだなされていなかった。

 こうした仕組みは,「情報システムのライフサイクル・マネジメント」と呼ばれている。企画・構築フェーズから,運用,利用促進,効果測定,機能拡張,廃棄に至るまで,情報システムをその生涯にわたってとらえるものだ。ライフサイクル・マネジメントは,製造業の製品や各種産業の顧客に対して適用されつつある考え方である。これを情報システムへ適用しようというわけだ。

(横田 英史=日経コンピュータ編集長)