Linuxのインストールには落とし穴があるといったら,皆さんはどう思われるだろうか。「Red Hat Linux 8.0やTurbolinux 8 Workstationなどのデスクトップ向けのディストリビューションは,GUIを使った分かりやすいインストーラがついており,引っかかるところはない」「自作パソコンならLinuxで使えないボードははじめから除外しておくから大丈夫」「Windows XPが動作するようなスペックのマシンであれば失敗するはずがない」,このような意見が現状では多いはずだ。

 実際,筆者もLinuxのインストールは簡単になり,問題も起こりにくくなっていると感じている。より多くの方にLinuxを試していただきたいものだ。筆者も手元のノート・パソコンを,起動時にWindowsとLinuxを切り替えて使う「デュアル・ブート環境」で利用している。たた,このようなデュアル・ブート環境を作る場合には,ちょっと注意が必要だ。

 私の場合はノート・パソコンにLinuxをインストールするつもりだった。Widnows XPがプリインストールされていたため,消してしまうのももったいないと考え,当然のようにデュアル・ブート環境にするつもりだった。Linuxインストール後に問題が起きるとすれば,Linux上でレジュームや電源管理の不具合が起きるか,ノート・パソコン固有の特殊キーの機能が使えない程度だろう,インストール自体にはほとんど問題は起きないだろうと考えていた。

 ところが,日経Linux2003年4月号の特集記事を準備するためにいろいろ調べてみると,ノート・パソコンではLinuxのインストールが完了して,しばらく使った後に初めて問題に気付く場合があることが分かった。

Windowsの再インストールをしようとすると・・・

 問題点は単純だ。Linux専用にせず,Windowsとのデュアル・ブート環境を作ったとしよう。さらに,Windowsに不具合が起こった場合など,Windowsの再インストールを試みた場合にどうなるか。

 最近ノート・パソコンを購入された方には常識かもしれないが,多くのノート・パソコンには,Windowsを再インストールするための専用CD-ROMが付属していない。それではどうやって再インストールするかというと,内蔵ハード・ディスクから再インストールする。

 日本IBMのThinkPadを例に取ってみよう。ThinkPad R30には,Windows XPがインストールされているパーティションのほかに,Windowsからは見えない隠しパーティションがあり,そこに工場出荷時のディスク・イメージが格納されている。再インストールにはこのディスク・イメージを使う。

 これだけでは再インストール時にまっさらの状態に戻ってしまうため,アプリケーションをインストールした後など,数回分のスナップ・ショットを隠しパーティションに記録できるようになっている。なかなか便利な仕組みだ。似たような仕組みは東芝のLibrettoや松下電器産業のLet'snoteなど多くのノート・パソコンが採用している。

 Windowsを再インストールする場合は,電源投入直後に特定のキーを押し続けて専用メニューを呼び出し,再インストール・モードに入る。

LinuxがMBRを書き換えてWindowsが再インストールできなくなることもある

 このような仕組みを取っているため,Linuxを不用意にインストールすると,ハード・ディスクの先頭領域に確保されているMBR(Master Boot Record)を書き換えてしまい,再インストール用のプログラムが隠しパーティションにアクセスできなくなる。落ち着いて考えれば理解はできるが,Linuxのインストール前にこんな落とし穴にはなかなか気付かないだろう。

 ThinkPadの場合は,2003年1月29日に発表されたR40以降はこの問題が解決されている。しかし,それ以前の機種,例えばR30では,あらかじめ隠しパーティションにアクセスするためにMBRをフロッピ・ディスクに保存しておく必要がある。MBRを保存するのは,Linuxのインストール前で,インストール後ではもう遅い。

 残念ながら,LinuxとWindowsのデュアル・ブート環境を作る場合の注意点について,パソコン・メーカー側からはまだ十分に情報が提供されていない。Linuxディストリビュータ側の対応も工夫の余地がある。例えばレッドハット,ターボリナックスのような大手のディストリビュータであっても,インストール・マニュアルなどで,「Linuxのインストール後,隠しパーティションからWindowsを再インストールできなくなる」という問題について触れていない。

 Linuxをインストールするのは,Linux専用機を構築する,WindowsのCD-ROMを別に購入するというユーザーばかりではない。パソコン・メーカー,ディストリビュータの対応を望む。

(畑 陽一郎=日経Linux)