はやりのハード・ディスク内蔵DVDレコーダーを,そろそろ買おうかと考えている。特に昨年12月に発売された東芝の「RD-XS40」や,今年2月に発表された松下電器産業の「DIGA」シリーズは,どちらもブロードバンド対応機能を備えている。常時接続環境を生かして何ができるのか,実際の生活の中でどのくらい便利なのか,自分の手元で試してみたいという職業的興味もある。

 記者という仕事のおかげで,新製品には発表直後に触われるし,開発担当者に直接コンセプトを聞く機会もある。一般ユーザーの方々よりも,購入のための情報を豊富に手に入れられる恵まれた環境だ。それにもかかわらず,まだ購入機器の選定に迷っている。確かに機能は高度だが,“家電”というイメージでリラックスして使えるかという点で,今一つしっくり来る機種がないからだ。

 「パソコンは30cmの文化,テレビは3mの文化」という言葉がある。画面までの距離のことだ。私は仕事柄,平日は日中の多くをパソコンの前で過ごしている。この原稿を書いている最中もそうなのだが,キーボードをたたきながら呻吟(しんぎん)したり,何か関連情報はないかとブラウザで検索したりという作業がほとんどだ。

 そして仕事を終えて自宅に帰るとテレビの電源を入れて,ビデオに録ったニュース番組を飛ばし飛ばし見るのが日課だ。もちろん家庭でもパソコンを使うが,リラックスしてテレビに向かっている時間のほうが圧倒的に長い。そんな私にとって,ビデオやテレビなどのAV家電は,ビール片手にリモコンで気楽に操作できるものが望ましい。じゃあ,何がしっくり来ないのかという点を,メーカーへの要望を込めて書かせてもらう。

携帯,パソコンがないと番組一覧からの予約ができない

 まず,松下のDIGAシリーズは,ブロードバンド対応機能を使うためにオプションの「ブロードバンドレシーバー」を別途購入する必要がある。ブロードバンドレシーバーは,LANケーブルで家庭内のブロードバンド・ルーターと接続し,専用通信ケーブルでDVDレコーダーとつなぐ。外出先からは,携帯電話やブラウザ画面でEPG(Electric Program Guide:電子番組表)を表示して,見たい番組を録画予約できる。画面に仮想リモコンを表示させ,リアルタイムでリモート操作も可能だ。

 リモート予約機能をオプションで提供した理由として,松下の企画担当者は「すべてのユーザーが必要とするわけではないから」と言う。ブロードバンドレシーバーは実売価格1万5000円前後(4月10日発売)だ。ブロードバンドレシーバーをDVDレコーダー本体に内蔵したとしても,電源などは共用できるので,1万5000円がまるまる“ブロードバンドレシーバー内蔵DVDレコーダー”の価格に反映されるわけではないだろう。しかし,リモート予約機能が不要なユーザーにはコストを上乗せせず,できるだけ低価格で提供するという手法は納得できる。

 しっくり来ないのは,ブロードバンドレシーバーが提供するもう1つの機能「勝手にタイトル@ネット」についてだ。これは録画予約した番組のタイトルを,EPGサイトから自動的にダウンロードして,録画済み番組一覧に表示してくれるというものだ。

 ブロードバンドレシーバーを使わないとタイトルは表示されない。その場合,録画済み番組一覧から,見たい番組を探すのはチャンネルと録画日時が頼りになる。連続ドラマなら何曜日何時からと決まっていて,チャンネルと録画日時から内容を思い出せるが,単発の番組だとそうもいかない。録ったその日ならともかく,1週間も経てばそれがどんな番組かなんて忘れてしまう。

 結局はテレビ番組情報誌と首っ引きで,何を録ったのかを探すハメになるだろう。自分の日常に照らし合わせるなら,ビール片手のリラックスタイムにそんなことはやりたくない。

 では,ブロードバンドレシーバーを買えば良いかというと,それでも不満は残る。DVDレコーダー本体にEPG機能を内蔵していないため,テレビ画面で電子番組表を見ながら録画予約できないからだ。せっかくEPG機能があるのに,予約は従来通りタイマー指定かGコードで行うか,DVDレコーダーとテレビを目の前にしながら,携帯電話かパソコンでEPGを使わざるを得ないのだ。

 一方,東芝のハード・ディスク内蔵DVDレコーダー「RD」シリーズも,手法は違うが似たような状況だ。中上位機種の「RD-XS40」「RD-X3」はLAN端子を装備し,ブロードバンド・ルーターを介してパソコンから情報を転送できる。こちらの場合は,番組リストにタイトルを保存したければ,まずパソコンでiEPG対応のテレビ番組表サイトにアクセスする必要がある。

 本体にLAN端子があるのだから,DVDレコーダー単体でテレビ番組表サイトにアクセスして,テレビ画面を見ながら録画予約ができればいいのにと思う。テレビの録画予約のために,LANで接続したパソコンをいちいち立ち上げるなんてことは,やっぱり“ビール片手”ではしたくない。

100本も貯められるのならタイトル一覧は必須

 なぜ,こんなに番組タイトルに私がこだわるのか,疑問に思われる方もいるかもしれない。ビデオ・テープだと3倍速で,たいてい6時間録画できる。1時間番組なら6本入るわけだ。テープごとに何が入っているのか,把握しておけば,6時間分から番組を検索するのはまだなんとかなる。しかし,これらのDVDレコーダーはハード・ディスク内蔵のものだと膨大な数の番組を撮り貯めできるのだ。

 松下のハード・ディスク内蔵DVDレコーダー「DMR-E80H」は,80GBの内蔵HDDに最長約106時間まで録画できる。東芝の「RD-XS40」はHDDが120GBで,LPモードで約103時間録画可能だ。どちらも1時間番組で100本以上録り貯めておける。これだけの本数を管理するのなら,番組タイトルを記録して一覧するためのEPGは,必須機能だろう。

 “パソコン”は機能は多いが習熟に努力が必要なもの,“家電”は電源を入れただけで直感的に使いこなせるもの,というイメージがある。でも最近の家電は,高機能化・低価格化とのトレードオフもあるだろうが,使い勝手で首をかしげる点が多い。テレビ録画機能付きパソコンでは,EPG機能内蔵が当たり前だ。本来なら,パソコンよりユーザーへの敷居が低い製品であるべきAV家電が,そこをなおざりにしているのはどうかと思う。

(柳 竹彦=日経ネットナビ編集)