ここ2週間,新たに購入した無線LANの高速バージョン,IEEE 802.11g準拠のアクセスポイントとクラインアントを使って日常的な仕事をこなしている()。

注:使用環境はアクセス・ポイントにアップルコンピュータのAirMac Extremeベースステーション。無線LANクライアントには802.11g準拠の無線LANカードを内蔵した12インチ PowerBook G4(867MHz PowerPC G4プロセッサ)。サーバー・マシンはデュアル 500MHz PowerMac G4 を100BASE-TXで接続。

 仕様上は54Mbpsとうたっているが,距離1メートルほどの環境で実測してみたところ速度は20Mbps前後。クライアント1台ごとに54Mbpsのスピードが出るわけではないので過大な期待を持つと裏切られるが,これまで愛用してきた802.11bの無線LANでは4~5Mbps程度だったから,4~5倍のスピード・アップはできた計算だ。率直に言ってかなり快適になった。

 高速版の無線LANを「新たに導入」したわけだが,802.11g(以下11g)仕様のクライアントの場合,設定変更なしに従来の802.11b(以下11b)仕様のアクセス・ポイントにそのまま接続できるのが何よりもらくちんでいい。

 筆者の場合,有料、無料含めていくつかの無線LANサービスを契約しているが、取材で立ち寄ることの多いアクセス・ポイントで快適に使えて重宝している。今まで確認できたところでは、カフェ・ルノアール秋葉原昭和通り口店のYahoo! BBモバイルや同じく秋葉原の「Linux Cafe de PRONT」など。これらのサービス・エリアでは11gのカードを使ってそのまま問題なくアクセスできる。スピードは4~5Mbpsになってしまうが,何しろ急場のしのぎになるのが良い。

 ただし、もう一つ加入しているNTTコミュニケーションズの「ホットスポット」にはつながらないことが判明した。無線LANに接続するためのWEPキーを入れても、パスワード・エラーとなって接続できない。NTTコミュニケーションズではこの件に関しては認識しており、ファームウエアに手を入れて、近く接続できるようにするという。

 逆に11gのアクセス・ポイントに11bの機器もつなぎ込めるという下位互換性も重要だ。我が家には既に11bを組み込んだパソコンが2台,11bのカードを挿したLinux版のZaurusが1台あるが,これも仲良く使えるのがうれしかったのだ。

 現在,無線LANのサービス・エリアでは5.2GHz帯を使う高速無線LAN,802.11a(以下11a)仕様のアクセス・ポイントを併設しているところが多くなってきた。従って,高速接続が必要な人は11a仕様のクライアントをここに持ち込めばいいのだが,11bしか設営されていないスポットもまだ多く,11bと11aの2枚のカードか,両対応のコンボ・カードを携行しなければならない。コスト的にも物理的にもこのアプローチには二の足を踏んでしまう。

 今回,PowerBook G4の「小さい方」には11gのカードが内蔵できるようになったから,早速飛びついてしまったと言うわけだ。一般の無線LANサービスエリアではまだ11gで使えるところはないようだが,製品が市場に出てきたこのタイミングをとらえて,各無線LANエリアで早く11g対応を進めてほしいものだ。

約20Mbpsでつながれば用途がグンと広がる

 無線LANのスピードが4Mbps程度から20Mbps程度に向上すると,インターネットのブラウジングやメールの送受信がより快適になるのはもちろんだが,それ以外に用途がグンと広がって面白い。

 今回実験したアップルのAirMac ExtremeベースステーションにはUSBポートがあり,ここにUSBプリンタをつなぐとプリンタ・サーバーになる。実に簡単にUSBプリンタの共有ができるのは家庭内のリソース節約に大いに役立つ。

 これまではインターネット経由で受け取ったファックス(「j2」というサービスを使っている)などは手元のノート・パソコンに保存していたが,これなどサーバー(というか,デスクトップ・マシン)に置ける。これでノート・パソコンのディスク容量を節約できる。

 データベース・ソフトのデータ・ファイルもネットワーク越しに置ける。私の場合,上記のようなファックス・データやデジカメで撮った写真,あるいは資料用の図版をコメントとともにデータベース・ソフトで管理しているのだが,こんなアプリケーションとデータもディスク容量に余裕のあるデスクトップ・マシンに置けるようになった。

 ただし,実はこのデータ,頻繁にアクセスすることが多いため,結局のところノート・パソコンに入れたまま持ち歩くという従来のパターンから,今のところは抜け出すとことまでは行けていない。あちこちの無線LANサービス・エリアで11g対応が進んでいけば,この道も開けるだろう。

 DVで撮影したビデオ。編集は手もとのノート・パソコンでできるが,ディスク・スペースを大量に消費するビデオ・クリップのデータは直接デスクトップ・マシンに置いておける。

 DVやDVDの映像を無線LANでやり取りするには11gでなければ,実用的には動いてくれない。実際に自分で作ったDVDをデスクトップ・マシンにマウントし,11gでつないだパソコンから視聴してみたが,全く問題なく再生された。これを11bで試したら,数秒動いてすぐ止まるといった動作を繰り返すだけだった。

 ただし,DVのオーサリング途中のデータを11gのリンクで向うのパソコンにおいて編集加工作業するのはまだ無理がある。MPEG-2などで圧縮する前のDVデータは3.6MB/秒(28.8Mbps)以上のファイル転送速度が確保されていなくてはならないからだ。

せっかくだからパフォーマンス・チェックを

 せっかく日常的に使える環境を手に入れたので,あれこれパフォーマンス・チェックをしてみた。

(1)まずマシンの性能そのものの目安とするため,100BASE-TXでネットワークに接続し,PowerBook G4とPowerMac G4間でファイル転送速度を測った。約75Mbps。十分なパフォーマンスが出ている。

(2)続いて距離1メートルで無線LANを使っての計測。ステーションは11b/11gの互換モード。クライアントを11bでアクセスすると約5Mbps,11gでは約20Mbps。いずれも計測するごとに上下1Mbps程度のぶれが出る。やはり,電子レンジなど周辺のノイズ源の影響か? 

(3)同一ネットワーク内に11bで動作している機器があるとパフォーマンスが落ちるかどうかも確認してみた。アクセス・ポイントは11g/11b互換モードに設定。そのアクセス・ポイントに,11b無線LANを積んだマシンをつなぎ,インターネット・ラジオ局を連続聴取。同時に接続した11g端末のパフォーマンスを計った。

 結果は11~14Mbpsとなり,スピードはかなり落ちてしまった。しかし,それでも11bのアクセス・ポイントを使うよりもパフォーマンスは高かった。

4)直視できる距離10メータほど離れたところ,11gはスピードが落ちた。11gで約10Mbps,11bで約4.8Mbps。それでもまだ11gに軍配が上がる。

 直視できない壁越しに計測するとさらに減速した。計測環境は一般的な集合住宅で,部屋と部屋の間仕切りには石膏ボードが張られ,その中にはグリッド状に簡易鉄骨が入っている。さまざまなメーカーでの実測値は11gは長い通信距離や遮へい物にも強いと言われているが,私が実測した環境では11gに厳しい測定結果となった。

 クラインアントとして使った12インチ PowerBook G4はアルミのきょう体に包まれている。アンテナの装着部分はアルミが切り欠かれ,プラスチックになっているが,こうした装着方法に問題があるのかもしれない。

 従って,この計測結果は私の環境に大きく左右されたものと考えていただきたい。

11g見切り発車の恐怖も

 11gの仕様は現在,標準化作業の間っ最中だ。つい先ごろ(米国時間2003年2月14日),米国電気電子学会(IEEE)の「IEEE 802.11 Working Group」が標準化案ドラフト「バージョン6.1」を承認したことを発表した(関連記事)。このまま順調に審議/投票の作業が進んでいけば,7月には最終規格として決定する予定だ。

 今回話題にしているアップルのAirMac Extremeは,従って標準化前の仕様にそって動作している製品だ。「将来,仕様が変更されたとしてもファームウエアでアップデートできる」(アップルコンピュータ)と明言しているから,他社製品とつながらなくなるという心配は少なそうだが,ふたを開けてみなければ分からない恐さも完全には拭えない。

 11gより早く仕様策定が進んでいた11aに対応した製品は,日本ではまだ屋外では使えないという規制が残っている。商店街やオープン・テラス,あるいは学校のキャンパスなどの環境では使えない。また,11bとの互換性はそれ自体にはないという点も悩ましいところだ。日本ではソニーやNECが11aを積極的に推進し,無線LANスポットでの対応が各所で始まっており,勢力地図がどのように塗り固まっていくかはまだ予断を許さない。

 しかし,11gにはアクセス・ポイントとクライアント・カードを合計したときの価格が安い,11bからスムーズに移行できる,などのメリットがあり,米国を中心に急速に普及していきそうだ。現在の価格設定は多分に戦略的意味合いが強いというが,アクセス・ポイント運用事業者にもアグレッシブなアプローチがされれば弾みが付くはずだ。

 今回は機器の手配ができなかったので,アップルコンピュータ社製のアクセス・ポイント,クライアントのみで測定しているが,やはりここは他社製品も用意し,相互接続性,パフォーマンスを調べてみたいと思っている。

 さらに測定中に不安が高まる現象にも遭遇した。

 アクセス・ポイント,クライアントとも,起動直後は至近距離(約1メートル)で11gモード,約20Mbps程度のパフォーマンスを示していたが,3回目ぐらいから10Mbps程度にスピード・ダウン,その後は上下3Mbps程度変動するようになってしまった。

 さらに不可思議なことに,集中的に大容量のファイル転送を繰り返し実験した翌日辺りから,最もパフォーマンスが良い場合でも8Mbps程度しか出なくなってしまった。これがどこに原因があるのか,現在のところ全く分からないが,熱による影響などが考えられるのではないだろうか。この辺りの不安定さについては,チップの供給メーカー,製品化したアップルコンピュータなどにさらに取材してみなくては,と考えているところだ。

(林 伸夫=編集委員室 主席編集委員)