「本当に仕事ができるエンジニアなら,資格なんて取らないだろ」「資格が役に立たないなんて,改めて言うまでもないんじゃない?」――。記者は何年か前,当時所属していた媒体の特集企画会議で,IT資格に関する企画を提案したことがある。上のコメントは,それを見た他の編集部員からの感想である。

 企画のタイトルは「できるSEは資格で武装する」。我ながら,びっくりするほど陳腐なタイトルである。当然,こんなタイトルを冠した企画が通るはずもなく,そのままお蔵入りとなった。

 さて,冒頭のコメントをもう一度思い出していただきたい。できるITエンジニアは,本当にIT資格を取らない(あるいは,いらない)のだろうか。本当にIT資格は役に立たないのだろうか。

 記者は「否」であると答えたい。正確に言えば,できるITエンジニアは資格を活用してスキルアップしているのであり,活用のしかたによって資格は大いに役立つと思っている。

 資格を取得すれば,ある技術や製品に関する体系的な知識を身につけることができるし,自分の知識やスキルを客観的にアピールする「物差し」にもなる。IT資格はプロフェッショナルを目指すITエンジニアにとってのスタートラインであり,日々の業務をこなす上でITエンジニアが身につけるべき,最低限の“マナー”だと思っている。

 一方で,知識だけを身につければいいというものでもない。経験が重要であることは当然である。しかし,確かな知識に裏打ちされてこそ,実務経験も生きてくるのではないか。

 現在,日経ITプロフェッショナルでは,IT資格に関する意識調査を実施している(調査の概要閲覧および回答はこちらのページから)。寄せられた回答の中には,非常に考えさせられるものも多かった。以下では,現時点までにお寄せいただいた回答の中から,掲載可能なものをいくつか紹介する。

■IT資格に対する肯定的な意見

 まずは肯定的な意見を紹介しよう。内容は概ね「体系的な知識習得に役立つ」,「自身の知識を客観的にアピールできる」,「取得者同士で交流することで見地を広められる」といったものだ。


意見1:IT関連資格を取得しようと勉強することで,体系的に知識を習得することができ,それが日々の業務に生きてくるように思う。また,取得した後でも資格取得者として周りに見られるためスキルを維持しようとすることで,結局はさらなるスキルアップにつながるのでは。
(35歳,SE)

意見2:資格や試験は役に立たないという人もいるが,むしろ自分から積極的に利用し,役に立てればいいと私は考える。例えば,体系的に知識をつけるために利用したり,知識やスキルをアピールするのに使ったりといったことだ。それと,目標に向かって努力してそれを達成する(合格という形で報われる)というのは楽しいことでもある。資格や試験に問題があるのではなく,高度な資格を取るような人を使いこなせず評価できない会社や組織のほうに問題があるのでは。
(31歳,マーケティング/営業)

意見3:難関資格ほど,試験勉強自体がスキルアップに役立つ。また有資格者団体に所属し,交流を広げていくと,自分の予想をはるかに超えた発展がある。
。(39歳,SE)

意見4:企業に所属していても,個々のITエンジニアは個人事業主のように自分を高め競争力を持たなくてはならないと感じている。自分が目指している道や関心を深めているものが何であるか,社内外にアピールするうえでも資格取得は重要になる。試験を避けて「業務に直結しないから」と無資格の人がいるが,ただ逃げているようにしか見えない。
(37歳,プロジェクト・マネジャー)

意見5:IT技術者の能力はバラつきが大きく,ユーザーの立場からは客観的な物差しがぜひとも欲しいところ。また,ベンダーの側も,人月単価の値引き合戦を回避して,相応の対価を請求するために資格を活用していきたい。このように,資格はIT業界の健全な発展のためにぜひとも必要である。
(41歳,コンサルタント)


■IT資格に対する否定的な意見

 一方,問題点を指摘する意見としては「取得者の自己満足」,「結局は実績が物を言う」といった内容が目立った。


意見6:IT関連資格は,所持者にとっては所持していないと特定職務に就けないわけでもなく,会社側にとっても,一定割合以上取得者がいないと,特定の業務ができないわけでもないので,単に自己満足で終わってしまいがちである。これは,試験主催者や制度自体に問題があると思う。TOEIC(TOEFL)のように,試験結果が第三者から信頼が持てるような試験をしてもらいたい。現実は技術力の判定ではなく,暗記力の判定になっているため,資格保持者=なんらかの業務が出来る人,になっていない。このため,なにを判定しているのか,不明瞭である。だから極論かもしれないが,現場ではほとんど意味がなくなっている。あるとすれば,「彼は向上心がある」というイメージが付加されるだけである。だから,実力があり,自信のあるエンジニアは受験しない。受験者数が多いから,その資格が信頼されるのではない。試験結果に信頼がもたれるよう,試験を実施する側の努力に期待する。
(33歳,技術職)

意見7:資格取得者を積極的に利用したいのはむしろ会社であり,数の原理で組織としての優劣を示そうとしているにすぎない。結局は“スキル”や“実績”であり"資格"ではない。資格がなくとも,できる人はできる。
(29歳,システム運用・管理)

意見8:業務で必要になってから勉強を始めることが多いため,即戦力として使えない。あらかじめ計画を立てて,取得することが重要だと思う。基本的な資格は早いうちに取得しておくべきだ(OS,ネットワークやデータベースに関する資格など)。
(35歳,SE)


■IT資格の改善をうながす意見

 また,スキルアップする上で現状のIT資格に足りない点を指摘したり,活用の方向性を提案する意見もあった。


意見9:ITスキルの活用の実践やマネジメントに関する,コンサルタントやマネジャー対象のスタンダードな認定資格があればよい。
(42歳,マーケティング/営業)

意見10:現在,営業職に就いているため,IT営業(セールス・マーケティング)の資格があるとスキル育成目標が立てやすい。また,営業スキルとすべきかセキュリティ管理者の範疇か判断が必要だが,ITにまつわる法的な管理能力を問う資格が必要なのではと感じる。
(34歳,マーケティング/営業)

意見11:先に策定されたITスキル・スタンダード(注:経済産業省が策定した,職種や分野,必要なスキルなどを定義したもの。関連記事)などをうまく活用して,IT技術者のキャリアパス,スキル・レベルの客観的な評価,資格との対応など,標準化された指標を社会的に確立・認知していくことが,真の技術レベルの向上,海外との技術交流のために重要と思います。今のままでは,資格は単なる自己満足にとどまり,技術の実力はいつの間にか海外(特にアジア)から追い越される,といった事態を招くと思います。
(49歳,プロジェクト・マネジャー)

意見12:弁護士や建築士のように,資格がないとその仕事そのものが出来ないような資格もあって良いと思います(例えばファイアウオール構築など)。ただし,すべてをそうしてしまうとIT業界が人手不足におちいる可能性もあります。
(39歳,システム運用・管理)


 さて,皆さんはどのようにお考えだろうか。記者の個人的な意見を付け加えておくと,最後の意見にある「弁護士や建築士のような排他的な資格」(資格がないと業務ができない)に対しては,疑問を持っている。資格にあぐらをかいて,スキル向上を怠る傾向が生じる可能性があるからだ。

 また現状のIT資格のあり方には,さらなる改善の余地があるとも思っている。この点に関しては本調査や取材を通じて,いずれ記事の中で明らかにしたいと思う。調査は2月21日(金)まで実施しているので,本記事を読んだ方も,ご回答いただければ幸いである(ご回答はこちらから)。詳細な結果は,日経ITプロフェッショナル4月号に掲載するほか,本サイトIT Proでも概要をご報告する予定である。

 最後に,調査にご協力くださった皆さんに改めてお礼を申し上げます。

(玉置 亮太=日経ITプロフェッショナル)