米国土安全保障省(DHS)の正式発足に伴い,メインフレーム中心のレガシーな22省庁の情報システムがLinuxで統合される見込みだ。初年度17億ドル(約2000億円)のIT予算がついたという。海を隔てた隣の芝生はチャレンジャブルな小気味よい決断をするものである。

 一方,日本。メインフレームがサーバー中で出荷金額第1位と世界でもまれな「メインフレーム大国」と見られながらも,2002年を境にオープンシステム環境へ切り替える動きが速まってきたようだ()。このガートナー予測に呼応したように,最近3週間の間に,エンタープライズ企業のデータ・センターから富士通や日立製作所,そして日本IBM製メインフレームの追い落としを狙う計画発表が相次いだ。この新しい息吹の周辺を探ってみた。

その名も過激な
「メインフレーム抹殺プログラム」が登場

 まずは各社の動きを見ていこう。

 (1)1月23日。日本HP(ヒューレット・パッカード)は,その名も過激な「メインフレーム抹殺プログラム」を発表した。メインフレームを10台以上保有する顧客の「メインフレームでなければだめだとされてきたアプリケーションをUNIXサーバーへ移行させる技術に挑戦する」(HPの九嶋俊一エンタープライズ事業インフラストラチャソリューション本部長)。年内にショウケース・ユーザーを最低1社獲得する計画だ。

 (2)1月27日。システム・インテグレータのシーエーシー(CAC)が,欧米市場でメインフレームからオープンシステムへの移行で多数の実績を持つインドのNIITと独占契約。同社と協業で「LLM(レガシー・メインテナンス&モダニゼーション)」事業を開始したと発表。CACがLLMの顧客獲得と基本設計,納品・テストを受け持ち,詳細設計と移行関連のソフト作業をNIITにオフショアする。「メインフレーム10台以上を保有する大手顧客を対象に,まず基幹系のサブシステムをオープンへ誘う」(CACの廣岡三男金融システム事業本部アシスタントプロデューサー)

 (3)2月6日。サン・マイクロシステムズと伊藤忠テクノサイエンス(CTC),アクセスの3社は共同で,これまでIBMメインフレームで稼働していた消費者金融会社キャスコの勘定系システムのすべてをSolarisベースのオープンシステム環境に移行し,業務を開始したと発表。基幹業務データベースはアクセスがコンバージョンの後,サンの互換ソフトによりサンのサーバー上で実行。同様にJCL(ジョブ制御言語)や他ソフトもIBM互換ソフトを用いてサンのサーバー上で動かす。処理能力を平均2倍,運用コストを50%削減した。

 このリホストと名付けたサンのIBM互換ソフトを使うリプレース方式は,サンが2002年5月にアナウンスしたもの。キャスコが適用第1号ユーザー。サンによれば,リホスト事業のパートナは当初CTCなど4社だったが,今は10社以上に増えた。「仕掛かり中の商談が20件以上あり,うち10件近くは1年以内に稼働する」とサン関係者は成果に自信を見せる。

 (4)2月12日。システム・インテグレータのインテックが韓国LG CNSおよびイーソリューションズと共同で新会社を設立した。メインフレームで稼働してきた基幹業務システムをオープンシステムに刷新するレガシー・マイグレーション・サービスを提供する。

各社はなぜ改めてオープンへの移行をアピールするのか

 欧米ほどではないかもしれないが,日本でもこれまで,レガシーなシステムからオープンシステムへの移行は盛んに実施されてきた。メインフレームからジョブを切り出す,新規の情報系を構築する,ERP(統合業務パッケージ)を採用しBPRを取り入れて基幹系システムを一新する,というケースも製造業や流通業で多く見られた。にもかかわらず,なぜ今,各社が改めて「メインフレーム2オープン」を言い出すのか。

 理由は大きく2つ考えられる。一つはメインフレーム利用企業の「コスト削減要求」が非常に激しいこと。そして,ITサービス企業側が獲得する新規システム・インテグレーション(SI)案件が激減し,システム技術者をメインフレーム2オープンという力仕事に回せるようになったこと。そこで売り上げを稼ぐ狙いも見える。どちらも経済不況に起因する。

 新規SIの減少は,日本IBMやNTTデータ,富士通などの大手がアウトソーシングで獲得を目指す「AMO(アプリケーション・マネジメント・アウトソーシング)」と呼ぶ新形態のアウトソーシングを開始させた。AMOとは,SIが完了して顧客に引き渡したアプリケーションの維持・保守・拡張作業である。これまでITサービス会社が価格のうま味が少ないので避けていたものだ。メインフレーム2オープンもAMOと同じような事情で火がついたのだ。

 昨年11月に米国市場を視察した「IT費用のコストダウンで成果をあげている企業調査団」を引率したITコンサルタントは,「参加企業の話を総合すると2003年の日本企業のIT投資は半減する感触。平均30%以上絞るのは確実」と見ている。特に親会社が,これまでぬるま湯的な関係できた情報システム子会社に対するIT投資大幅削減を決め込んだという。

 苦境に陥った情報システム子会社は,10%減程度の削減なら調達先をたたけばなんとかなるが,30~50%減となると抜本的なコスト削減が必要になる。それがメインフレーム利用を見直す動きに拍車をかける。メインフレーム・ユーザーは性能単位で1000MIPS(MIPSは毎秒100万回の命令実行性能)あたり,OSやミドルウエアの使用・保守で年7~10億円支払うという,高いソフト価格体系の囚われ人だ。

 これがUNIXサーバーだとメインフレームの3~4分の1,Windowsで5~6分の1,LinuxはWindows以下というのが相場。例えば年間100億円のIT予算で20億円がメインフレーム利用関連ソフト費とした場合,予算が50~70億円に削られたら20億円の重みは断然違うことになる。「ソフト・ベンダーによる束縛からの解放」がメインフレーム2オープンのうたい文句でもある。

COBOL要員の高齢化対策やメーカー囲い込みからの脱却というニーズも

 その他,メインフレームCOBOL要員の高年齢化がオープンシステムに行かざるを得ない理由だとして移行を期待するベンダーもある。メインフレームCOBOL資産の量は凄まじい。米IBMの推測では,98年末時点で世界に1500億行,投下された資金が5兆ドル(600兆円)ある。その後,リプレースで多少減少しただろうが,米コンサルティング会社の見方では,それ以降も毎年50億行ずつコードが増えているという。

 この大学でも教えないCOBOLのプログラム資産を今後どうメンテしていくか。企業は頭の痛い問題を抱えている。米METAグループによれば,米国のメインフレーム・ユーザーが保有するデータ・センターの年齢構成は50歳以上が60%,UNIXやWindows,Linuxのデータ・センターは35歳未満が60%だ。日本のデータはないが大きな違いはないだろう。

 さらにオープンシステムはメインフレームに比べはるかにメーカーの囲い込み度合いが少なく,選択やコストの公正さを保ちやすい特質がある。最近,都銀の勘定系にも匹敵する「しんきん情報システムセンター」と「クレジット情報センター(CIC)」のメインフレーム2オープンが話題となった。2件とも長年付き合ってきた大手ベンダーに実質的な応札をさせずに,新規のベンダーとの間で大幅なコスト削減効果を狙いオープンシステムに踏み切った事例だ。

 こういったことで,メインフレーム2オープンに参入した各社は,いずれもニーズは高いと顧客の手応えを強く感じている。HPは今後3年間でメインフレーム設置ベースの3000億円がオープン・ベースに移行すると予測する。その30%獲得が目標だという。

メインフレーム2オープンに警鐘を鳴らす向きも

 しかし,急に騒がしくなった「メインフレーム2オープン」需要に対し,警鐘を鳴らす向きもある。ITコンサルタントの東山尚氏は「ITコストダウンは必須だ。だが,AIXやSolaris,HP-UXなど,Linuxが台頭してきた現在,それらに急いで変更したら二度手間になるおそれがある。加えて,UNIXはビジネス継承性やシステム管理で不安が拭えない。2~3年は様子を様子を見るべき」と指摘する。

 同コンサルタントは「まずメインフレーム・ソフト資産の棚卸しをやりスリム化を目指す。それでアプリケーション保守コストを大幅に引き下げる。次に,価格が高いメインフレーム用ソフト・ベンダーをたたけるだけたたく。彼らはもともと暴利をむさぼっているのだから。そしてIT要員のコスト・ダウンを図る。これはメーカーやソフト開発会社の疑似自社要員のコストを大幅に引き下げさせることだ」と続けた。

 いずれにせよ,情報システム管理者の要諦はITインフラの調達能力にかかっているわけだ。 

(北川 賢一=日経システムプロバイダ主席編集委員)