「残業しても,休日出勤しても,睡眠時間を削っても時間が足りない」,「いつも仕事に追われている」──。そんな状況が常態化していないだろうか。いわば「時間欠乏症」である。

 時間欠乏症は,ITエンジニアにとっての“持病”と言える。なぜならプロジェクトの採算は厳しく,編成されるメンバーの人数は不足しがち。それでも仕事の質を落とさないように努力するから,残業や休日出勤が当たり前になる。しかも残ったわずかなプライベートな時間さえ,新しい技術や製品の勉強に追われて自由にならない。そんなギリギリの毎日を過ごしているITエンジニアは,決して少なくない。

違いは時間の使い方

 なにやら「残酷物語」のようだが,すべてのITエンジニアがつらい思いをしているわけではない。あなたの周りに,こんな人はいないだろうか。

 ほかの人より多いと思われる仕事量をこなしているのに,ほとんど期限に遅れず手抜きがない。しかも不思議なことに,徹夜したり休日出勤するといった無理もしていない様子。「時間欠乏症」とは無縁に見える。だからといって,天才肌かというとそうでもないような──。

 そういうITエンジニアを見つけたら,仕事ぶりを観察してみることをお勧めする。きっと,単にやる気があって一生懸命なだけではないはずだ。時間の使い方が,ほかの人とは違わないだろうか。

 例えば,こんな具合だ。その日にやるべき仕事(タスク)を,前日にリストアップしている。こうすることで毎朝,「すべて終えて早く帰ろう」という気持ちで出勤してくる。「仕事がたまっているから今日も残業しないとダメだな」と諦め顔で出勤してくるのとは大違いである。気持ちが前を向いているから,休憩時間以外は寸分惜しんで仕事をこなしていく。明確な目的を持たずにネット・サーフィンするような時間の浪費はしない。

忙しい人ほどテクニックを磨いている

 このように,主体性を持って時間の使い方をコントロールし,計画的に密度の濃い仕事をやり遂げることを「タイムマネジメント」という。直訳すれば「時間管理」だが,むしろ「仕事術」と言った方が本来の意味に近いだろう。マネジメント(管理)する対象は,「時間」ではなく「仕事(タスク)」や「時間の使い方」である。

 「タイムマネジメント」というと,自分を厳しく律する根性論のようにとらえられることがある。タイムマネジメントについて書かれた本のなかには,「己に打ち勝って毎朝5時に起きる」,「雑念を振り払って集中し2倍のスピードで生きる」といった精神訓話をまとめたものが少なくないからだ。