1月6日の午後1時から,ある会合に出席し,簡単な話をした。筆者のWebぺージ(谷島の情識)の更新は1月1日から始めていたものの,実質的な仕事始めは,この会合になった。話の内容は,企業再編と情報システムの関係である。合併・買収・分離などの企業再編にともなって,情報システムを再編する場合,どこに注意したら失敗しないかについて説明し,質問を受けた。

 説明した内容は,おおよそ次のようなことである。

●経営トップの参画とリーダーシップが重要
●できる限り早くやる
●作業を始める前の計画作りが大事

 これらは,「記者の眼」の読者にとっては,毎度おなじみのものばかりであろう。

 興味深かったのは質疑応答になってからである。「なるほど,普通のビジネスマンや経営者はこう考えるのか。自分の説明はまだまだ分かりにくいな」と改めて反省することができた。

 出席者が聞いてこられたのは次のようなことである。

 「システムの構築や改修作業の終盤になって突然,仕事量が増え,人が足りなくなるという話があった。なぜ最後にそんなことになるのか」

 「ご説明いただいた注意点のほとんどは,マネジメントにかかわるものと思えた。コンピュータならではの技術的な難しさはないのか」

 「システムの作業はとにかく大変なようだ。すべてを専門会社にアウトソーシングしてしまったら,楽になるということはないか」

 これまた,IT Proの読者であれば,回答できる質問群である。

 この会合に来られていたのは,ある資格を持つプロフェッショナルの方ばかりである。職業は明かせないが,エンジニアではなかった。ただし,企業の経営幹部と接する機会が非常に多い職業である。といってコンサルタントではない。

 言いたいのは,相当な訓練を受けたビジネス・プロフェッショナルの方であっても,システムに関する理解はそれほどあるわけではない,ということだ。ましてや一般の利用者や経営トップとなると,もっと分からないだろう。

 もっと分かりやすく,かつ簡潔に,情報システムのマネジメント話を書いたり,話したりしなければならない。これが筆者の本年の目標である。

経営者への働きかけは時間の無駄ではない

 ここからはIT Proの読者への呼びかけである。エンジニアの方々も,経営者や利用者に対し,もっといろいろと働きかけてはどうだろうか。昨年,金融機関のシステム障害について,「経営トップのリーダーシップ不足が根本原因」と書いたときに,「銀行のトップは所詮,細かいことは分からない。トップのせいにするのではなく,我々現場のプロフェッショナルが頑張って支えなければならない」といった主旨のご意見をいくつかいただいた(記事へ)。

 経営者に責任を押しつけず,エンジニアとしてできることを全うしようという姿勢は見事である。しかし,だからといって,経営者への働きかけを時間の無駄と決めつけてしまうのはいかがなものだろうか。

 ここで唐突に昨年発覚した原子力発電を巡る電力会社の「不祥事」を思い出す。筆者は原発の専門記者ではないので,軽々しいことは言えないが,あの電力会社を指弾するメディアの論調にはかなりの違和を感じた。

 そもそも「トラブル隠し」というが,電気の供給は続いていた。トラブルというのは停電のことではなかろうか。記録を書き直したりしていたのは確かにまずいが,現場のエンジニアたちがなぜああしたことをしたのか,その理由を考える必要があると思う。

 推測だが,「完成時とまったく同じ状態で原発を運行せよ」というおよそ実行不可能なルールを前に,現場のエンジニアは電力を安定供給するために,いわば確信犯でああした行動をしたと考える。ただし,経営者にその問題を強く説明しなかったのではないか。

 無論,さまざまな現場でエンジニアの方は,経営者や利用者へ働きかけや説明をしていると思う。それは,なかなかくたびれることではある。それでもとにかく言い続けろ,と書くだけでは無責任なので,経営者にどう働きかけるのがいいか考えてみたい。

非正攻法を考える

 ここまですらすらと快調に書いてきたものの,「考えてみたい」で,ぱったり筆が止まってしまった。一晩寝て再度書き始めたがどうも難しい。通常のやり方では,たいていの方々が試しておられるだろう。そこでかなり子供っぽいが,正攻法でないやり方を少し書いてみる。

 まず,有名人を使う手がある。一つはコンサルタントである。社長が時々会っている,あるいは仕事を頼んでいるコンサルタントになんとか会い,「現場のエンジニア部隊としては,こういう問題と課題を認識している。社長に分かってもらうにはどうしたらよいか」と相談するのである。コンサルタントにとっても,社長に持っていくみやげ話ができるわけで,話を聞いてくれるだろう。

 本を使って,社長すら会えない超有名人を利用することも可能だ。経営陣に言いたいメッセージを代弁している本を見つけ出し,赤線でも引いて,役員室に投げ込むのである。

 昨年末初めて読んだのであるが,ピーター・ドラッカー氏の「ネクスト・ソサエティ」(ダイヤモンド社)には,エンジニアが読んだらしびれるような,いいことがたくさん書かれている。ごくごく一部だけ紹介する。

●ほとんどのCEOが,自分が知るべき情報を明らかにするのはCIOの仕事と思っている。言うまでもなく,これは間違いである。

●これからは彼らテクノロジストが,社会の,そしておそらくは政治の中核を占めるようになる。(テクノロジストは知識を基盤にした技能技術者という意味で,コンピュータ技術者,ソフト設計者,製造技能技術者などである)。

●出現しようとしている新しい経済と技術において,リーダーシップをとり続けていくうえで鍵となるものは,知識のプロとしての知識労働者の社会的地位であり,社会的認知である。

メディアへどんどん注文されたし

 またもう一つの手は,我田引水になるが,メディアを利用することである。IT Proの読者の中には,メディアに腹を立てている方も多いと思う。怒っているだけでは精神衛生に悪い。メディアに注文を付ければよいのである。IT Proにはコメント書き込みという偉大な仕組みがあるので,どんどん利用していただきたい。

 別に内部告発をしろというわけではない。「今日こういう論調が多いが,これこれしかじかでおかしいのではないか。もっとここを調べて書け」といった,建設的批判を寄せていただければと思う。

 とりとめのない原稿になったついでに,最後はご挨拶である。筆者は今年から,「BizTech局編集委員」という意味不明の肩書きになった。個人的には非常に大きな異動であった。入社以来ずっといた,コンピュータ関係の部門からついに離れ,新しいメディアの開発を担当することになったからだ。ただし異動にはなったが,筆者は今後もこの「記者の眼」に記事を書きたいと思っている。

 BizTechとは弊社のポータル・サイトの名称である。ただし作ろうと思っているのは,紙媒体である。BizTechという言葉を筆者は次のように理解した。「Biz(社会とか経営)をTech(情報技術とか経営技術)で革新すること」。それにはBiz側の人,特に経営者にもうすこし,Techのことを理解いただく必要がある。そのための一助となる媒体をなんとか作ってみたいと思っている。
 
 それにはTechの人々,すなわちシステムズ・エンジニア,プログラマ,テクノロジストの方々の協力が不可欠である。「こういうことをBizの人に言ってほしい」という提案をどしどしお寄せいただければ,ありがたい。本年もよろしくお願いします。

(谷島 宣之=BizTech局編集委員)