2003年は「Windows NT生誕10周年」にあたる。米Microsoftの“闘うプログラマー”デビッド・カトラーが「Windows NT 3.1」を作り,リリースしたのが1993年8月のこと。かつてのニュー・テクノロジ(NTの由来)も一時代を築いてきた。そして,今年4月その嫡流である「Windows .NET Server 2003」がデビューするわけだ。まだ“新技術”の芽は伸びているのである。

 2003年は,Windows .NET Server 2003をはじめとして,満を持して発表される企業向けMicrosoft製品の発表が目白押しである。XboxやTablet PCなどでコンシューマ市場に話題が集中した2002年に比べると,対照的な年周りといえる。Windows .NET Server 2003に始まり,恐らく「Yukon」で終わる――この1年に登場すると見られるMicrosoft製品を総ざらいしてみよう。

.NET Server 2003は,既にRC2が入手可能

 Windows .NET Server 2003は現在,「製品候補版」(RC2:Release Candidate 2)と呼ばれる最終ベータ版が完成し,入手可能になっている。英語版は2002年12月3日以降にパートナ企業/ベータ・テスター/MSDN会員などに公開され,12月20日以降に順次,一般の希望者もダウンロードできるようになっている。また,同じくCD-ROMキットの実費配布も始めた。

 日本語版のRC2もやや遅れて,入手可能になっている。12月13日以降にパートナ企業/ベータ・テスター/MSDN会員などに公開し,一般の希望者にも近日中(1月上旬)に順次,ダウンロードできるようになる。1月30日以降に実費でCD-ROMキットの配布も始まる予定だ。

 ちょっと宣伝を入れさせてもらうと,日経Windowsプロ編集部では2月5日に,この新サーバーOSの技術解説をまとめたムック「Windows .NET Server 2003テクノロジ徹底解剖」を発売する予定である(該当サイト)。これには,RC2のCD-ROMも特別付録で付いている。統合開発環境の次期版「Visual Studio .NET 2003」の日本語ベータ版の無料入手ハガキも付く。購入を検討していただければ幸いである。

気の早い米PCベンダーは3月にも出荷,国内は遅くとも5月

 この後の製品リリースまでの流れを追ってみよう。第1ステップとして,コードがフィックスされ,RTM(Release To Manufacturing)と呼ばれるゴールデン・マスターが完成する。すると即,パッケージの製造に入る。同時にコンピュータ・メーカーにOEM供給される。もうこの段階でコンピュータ・メーカーはプレインストールしたサーバー・マシンをすぐ出荷できる。

 第2ステップとして,ボリューム・ライセンス向けのCD-ROMキットの供給が始まる。これはRTMが完成してから数週間後。さらに第3ステップとして,箱に入ったパッケージ販売が始まる。これは,RTMが完成してから約1カ月半後のことだ。

 さて,肝心のいつごろ製品発表があるかだが,ビル・ゲイツ会長が2002年のCOMDEX Fallで「4月」と明言しており,4月中に何らかの発表があるはずだ。「なんだ,ネタばれしてるのか」と言われるかもしてないが,それはすなわち第2~第3ステップが4月になるように,3月中に英語版のRTMが完成するということだ。

 従って,気の早いサーバー・メーカーの中には,3月中に出荷するところが出て来てもおかしくない。日本語版RTMの完成は,英語版RTMの2週間後ということになっている。ということは国内で日本語版をプレインストールしたサーバー・マシンは4月に出荷されることになる。4月に国内の正式発表もあるだろうが,ここは遅く見積もって,5月発表と予想しておこう。

 とはいえ,これは予定通り事が運んでのこと。製品の品質に問題があれば,スケジュールはズレる。製品発表の時期は,世の中の動きを見ながら決められるので,米国がイラクと戦争真っ最中ということにでもなれば,製品の出来具合とは別の要因でズレ込むこともあるだろう。

Visual Studio,Exchange,Officeなど軒並みバージョン・アップ

 他の製品は,Windows .NET Serverに合わせるように出てくる。Visual Studio .NETの後継製品で開発コード名「Everett」と呼ばれる「Visual Studio .NET 2003」は,同じく春に出荷される予定だ。プログラムの新しい実行環境「.NET Framework 1.1」を前提にした開発ツールで,開発者にとってはWindows .NET Server 2003とセットで重要になる製品である。

 もう一つ,ほぼ同時に出荷される製品として開発コード名「Liberty」と呼ばれる「SQL Server 2000 Enterprise Edition 64bit」がある。このデータベース・ソフトは,64ビット版のWindows .NET Server 2003上で動作するもので,128Gバイトという大容量メモリーをふんだんに使い,高いパフォーマンスが期待できる。

 64ビットのSQL Serverに次いで登場するのが,開発コード名で「Titanium」と呼ばれる「Exchange Server 2003」である。Windows .NET Server 2003の上で稼働し,クラスタリングなど高い拡張性を備えて,新OSの新機能であるスナップショットを利用したバックアップができる。Microsoftは出荷時期を2003年半ばといっている。Windows .NET Server 2003のリリースからそう大きくはズレないと見られているので,6月か7月の出荷だろう。

 Titaniumはクライアント・ソフトの「Outlook 11」(開発コード名)とセットで利用してこそメリットを発揮する。Office XPの次期版「Office 11」(開発コード名)も夏ごろには出荷されると見ていいだろう。Microsoft社内ではすでに,TitaniumとOffice 11は,いわゆる「ドッグフードを食べる」(ベータ製品を実際の社内業務で使う)状態にあるという。Office 11には他にも,開発コードで「XDocs」と呼ぶ新しいアプリケーション・ソフトが含まれる。XMLのフォーマットを利用してバックエンドのサーバーと連携するソフトだ。

 Office 11と同時に出るソフトに「SharePoint Team Services 2003」がある。このソフトはWindows .NET Server 2003のオプションである。グループウエア機能のエンジン部分は,サーバーOSが標準で提供することになるわけだ。既存のサーバーで運用している現行バージョンの置き換え需要を狙ったものだ。さらに,これを核としてより本格的なポータル・ソフトとして拡張・展開するための「SharePoint Portal Server v2.0」(開発コード名「Matrix」,正式な名称は未定)が出荷を控えている。

Yukonの前にGreenwichとJupiterプロジェクトによる製品が登場

 リアルタイム・コミュニケーション(RTC)用サーバーの「Greenwich(開発コード)」とそのクライアントになる企業向けインスタント・メッセンジャー「MSN Messenger Connect」も2003年前半にリリースされる製品だ。Greenwichは当初,Windows .NET Server 2003の標準機能として組み込まれる予定であったが,切り離されて別のサーバー製品になった。恐らくこれは開発スケジュールの問題で,Windows .NET Serverからやや遅れて出てくるだろう。

 2003年後半になると,Jupiterと呼ばれるプロジェクトの詳細が明らかになる。Jupiterプロジェクトの第一弾は,「Voyager」(開発コード名)と呼ばれるBizTalk Serverの後継製品が出て,2004年以降に「Discovory」(開発コード名)としてCommerce ServerとContent Management Serverが統合されていく。

 2003年の最後を飾る大物は,SQL Serverの次期版「Yukon」(開発コード名)だ。2004年にずれ込む可能性もある。Yukonになると次期版の「.NET Framework 2.0」のCLR(Common Language Runtime)が標準で組み込まれ,SQL Serverとストレージが密接な関係を取ることになる。

 他にも,たくさんの製品がリリース予定だ。本当に年末のYukonまでたどり着けるの?と思ってしまう。製品名だけでも書いておこう。

●「Windows CE for Smart Displays」(開発コード名「Mira」)を搭載したディスプレイ装置
●システム統合管理ツール「Systems Management Server 2003」(開発コード名「Topaz」)
●音声認識のプラットフォーム「Microsoft .NET Speech」の新版
●車載情報システム向けソフトウエア製品「Windows Automotive」(旧Windows CE for Automotive)の新版
●著作権管理用のDigital Rights Management(DRM)サーバー

 2003年の世の中は,国内も海外も不穏な空気が漂い,ちょっと暗いスタートを切った。しかしどうだろう。2003年のMicrosoftからはまるで嵐のように新製品が登場してくるではないか。こんなに景気のいい話はないと思う。日経Windowsプロは,これらを丹念にウオッチしていきたい。

 ちなみに表題の疑問に答えておこう。「Yukon」は,カナダの準州や,米国オクラホマ市の西にある都市などいくつかある。Microsoft本社のレッドモンドからはそれぞれ約1000マイルと1600マイル離れている。

(木下 篤芳=日経Windowsプロ)