米IBM社と米PricewaterhouseCoopers(PwC)社は10月2日,IBM社によるPwC社のコンサルティング事業部門PwC Consulting(PwCC)の買収が完了したことを発表した。買収金額は現金と株式で約35億ドルである。

 IBM社は買収したPwCCを,同社のIT(情報技術)サービス部門であるIBM Global Services(IGS)の中のコンサルティング組織,Business Innovation Services(BIS)に組み込み,新たにIBM Business Consulting Services(IBS)として再編した。IBSは3万人のIBM社のコンサルティング要員とPwCCからの3万人で構成する。

 同時に日本でもコンサルティング・サービス事業の再編が行われた。米PwC子会社のPwCCが「アイ・ビー・エム ビジネスコンサルティング サービス(IBS)」に社名変更。米IBM100%出資(4億9000万円)子会社として新たに発足したIBS日本法人は,2003年1月1日から本格的な事業を開始する。

 IBSには日本のPwCCの従業員約1600人が移籍。日本IBMのBIS(ビジネス・イノベーション・サービス)から約1000人が年末までに出向する。総従業員数約2600人となるIBSの2003年の売り上げ目標は約800億円とされている。IBS日本法人社長には日本IBMのビジネス・コンサルティング・サービス担当の木村正治常務が兼務で就任した。

日本は“二つのIBM”で展開する全方位モデル

 各国に展開していたPwCC要員は,日本を除きすべて各国IBMの中のコンサルティング部門に吸収された。日本だけが,日本IBMとは別法人(IBS)が設立され事業展開する。これは,日本のPwCCが既に会社組織であったことに加え,PwCCが日本の大手コンピュータ・メーカーと協業関係を確立していること,さらに政府が主導するe-Japan市場への食い込みを図りやすくするための配慮と観測されている。

 この日本市場独自の事業展開も,米IBM社が地域固有の事情を考慮した戦略モデルの確立と言えるだろう。つまり,コンサルティング事業を切り離した日本IBMは,アクセンチュアをはじめとしたPwCCと競合する他のコンサルティング会社との協業の道を閉ざすことなく事業展開ができ,日本市場におけるIBMグループのビジネス機会を一層拡大することになる。今回のIBS日本法人の設立は,ビジネス戦略とIT戦略の融合に目覚め始めたあらゆる日本企業との関係継続や新たな攻略を可能にする極めて戦略性に富む事業再編となった。

戦略的コンサルティングの支配を狙う

 そのほか,IBM社の“強壮剤”となるPwCCの買収はITサービスの世界に新たな二つのビジネス・モデルを創出したと言える。

 一つは圧倒的な規模と,そこから繰り出す規模の経済,規模の経験を活かせるサービス・モデルである。もう一つは,上流のビジネス・コンサルティングからITコンサルティング,システム構築・運用までのフルスコープを提供する企業が初めて誕生したことで可能になったワンストップ型のサービス・モデルである。

 IBM社のサービス事業はPwCCの買収で年間売上高が約400億ドルとなり,業界2位の米EDS社の2倍,3位富士通の2.7倍,4位新生HP社の3.1倍という圧倒的な規模を誇る。このパワーは顧客の実績,信頼を勝ち得る有形無形のベースとなる。

 一方,これまでのIT企業のコンサルティングは顧客の“IT活用指南役”の域を脱し切れず,一層上の戦略的ビジネス・コンサルティングに到達できないことがネックだった。

 ITプラットフォームが企業にとって単なるツールからビジネスそのものになった現在,戦略的コンサルティングを支配できなければ,それができるコンサルティング企業の下請けシステム構築会社としてEDS社や富士通と同列で激しい受注競争にさらされる。PwCC買収は,その地位からIBM社を一段上に引き上げ,すべてを請け負えるサービス企業にIBM社を格上げしたと言える。

(北川 賢一=日経システムプロバイダ主席編集委員)

■この記事は日経マーケット・アクセス2002年11月号のコラム「ビジネス・モデル」より転載したものです。