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「ペース・メーカーへの電磁波影響」にいただいたコメントに答える

2002/10/30

 8月末にペース・メーカーへの電磁波の影響に関する記者の眼「ペース・メーカーの利用者には事実を伝えるべきだ」を執筆した。筆者は反響の大きさに少々驚いた。IT Pro会員の方に130件ものコメントをいただいたからだ。

 8月の記事では,携帯電話やPHSが出す電波がペース・メーカーに与える影響と,関係業界や行政の対応について報告した。ただ,こちらの説明に不足な部分があったり,新たに説明すべき点もあるように感じた。そこで,いくつかのテーマについて再度報告したいと思う。紹介する内容は日経バイトの2002年9月特集で取り組んだ取材や実験をベースにしている。日経バイトの読者の方には,内容 に重なる点があることをお断りしておきたい。

 今回,報告したいことは以下の4点である。
(1)携帯電話に比べてPHSの与える影響は少ないのではないか
(2)最新のペース・メーカーは誤動作しないのではないか
(3)そもそもペース・メーカーはなぜ電波で誤動作するのか
(4)無線LANの影響はどうなのか

携帯電話に比べてPHSの影響は少ないのではないか

 この点に関しては多くの会員の方にご指摘を受けた。記事中で「ペース・メーカーに対する携帯電話,PHSの電波の影響である」といっておきながら,その後一度もPHSに関して記述がない。明らかにこちらのミスで不親切であった。

 結論からいうと,PHSの方がペース・メーカーに与える影響が少ないというデータが出ている。8月の記事でも紹介した総務省や厚生労働省,メーカー,携帯電話事業者などが2002年まで共同で取り組んだ「電波の医用機器等への影響に関する調査結果」によると,PHSが影響を与える割合は携帯電話の半分以下であった。

 実験では,800MHz帯を使うPDC携帯電話が,124機種のペース・メーカーのうち8機種に影響を与えた。これに対して,PHSが与えたのは半数以下の3機種である。ここで注目すべきは影響が出る距離である。PDC携帯電話が最大11.5cmでペース・メーカーに影響を与えるのに対して,PHSは最大3cmだったという。つまり,PHSはほぼ密着した状態でないと影響が出ないといえる。

 このように差が出るのは,電波の出力の違いと思われる。PDC携帯電話は最大の出力が800mWであるのに対して,PHSは80mWである(PDC携帯電話は電波を時分割して800mWを3ユーザで共有するので,一つの端末の出力は3分の1の約270mWと見ることもできる)。

 一つここで断っておきたいことがある。ここで紹介しているPHS実験は,実機ではなくシミュレータを用いたものであることだ。PDC携帯電話については,実機とシミュレータの両方で実験したが,PHSについてはシミュレータでのみの実験だった。シミュレータを使う理由は,もっとも強い電波を出力する状況を作るため。ちなみにPDC携帯電話の場合,シミュレータを使うと,実機の時の約3倍に当たる26機種のペース・メーカーに影響を与えた。

 そこで編集部では,専門の測定器を用いてPDC携帯電話とPHSの電波の電界強度を測定してみた(電界強度の単位はV/mで,1m当たりの電位差を表している)。測定器から10cm離した場所で着信時の値を比べたところ,PDC携帯電話が約9V/mに対して,PHSは約1.8V/mであった。値だけみればPHSが約5分の1である。

 PHSが携帯電話よりも出力が小さいことに着目し,PHSを病院内で活用しているところもある。例えば,千葉県鴨川市の亀田総合病院である。同病院では1998年の6月に500台のPHS端末を導入している。病院内で医師や看護師,職員が連絡するための内線用である。外線からも着信する。

 もっともPHSがどの病院でも手軽に使えるものと考えるのは早計だ。PHS導入に当たっては,いろいろと留意すべき点があるからだ。亀田総合病院医療技術部ME室長の高倉照彦氏によると「導入前に院内の電磁波強度を調べ,PHSの医療機器に及ぼす影響を調べた。PHSの基地局を建物内に20mおきで設置した。これにより,最大80mWの出力を最大10mWまで抑えている」という。高倉氏が責任者となり,院内の環境や機器の電磁波を管理する体制もできている。

 同病院では1999年に無線LANも導入した。病院内の廊下を無線LAN付のノート・パソコンが行き来している。さらに,電磁波の影響を受けない医療機器を使っている入院患者に限って,病室内で携帯電話のメールやWebを利用できるようにする方針だという。

最新のペース・メーカーは誤動作しないのではないか

 影響の出るペース・メーカーは一部の古い機種だけではないか。このような指摘を複数受けた。ペース・メーカーの機種名は公表されていない。詳細は分からないが,最近の機種は電磁波への対策が施されているようである。

 7年前に不要電波問題対策協議会(現・電波環境協議会)が1回目の調査を行った際には19%のペース・メーカーで影響が出たが,2002年まで取り組んだ2回目の調査では影響が出た機種は全体の6%であった。これは800MHz帯を使うPDC携帯電話の結果である。

 7年前の調査では30cm離しても影響を受けたペース・メーカーが1機種あったが,2002年では最大11.5cmであった。携帯電話の電波など電磁波への対策を施した結果だろう。実際,筆者がある大手ペース・メーカーの開発元を取材した際に,ペース・メーカーに携帯電話をぴったりとくっつけてもまったく誤動作しないというデモを見せてもらった。

 ちなみに7年前の調査において30cmで影響が出たペース・メーカーに関しては,装着している患者に対し医療機関などを通して影響が出ることを周知したという(この機種を除けば,最大で14cmであった)。

そもそもペース・メーカーはなぜ電波で誤動作するのか

 ペース・メーカーが電磁波の影響を受けて誤動作する。筆者は携帯電話の電波が直接ペース・メーカー本体に影響を与えて誤動作するものだと思っていた。ところが冒頭で触れた特集のための取材の結果,全く違うことが分かった。このことも説明しておきたい。

 そもそも筆者はペース・メーカーというものをきちんと理解していなかった。ペース・メーカー本体は大人であれば肩の辺り,子供であればおなかの辺りに埋め込むのだという。そして,リード線で心臓と接続する。ペース・メーカーは心臓に埋め込むものだと思っていたが,間違いだった。

 ペース・メーカーは心臓が脈を打っているかどうかを監視し,脈を打っていないと判断するとリードを使って心臓を電気信号で刺激する。脈を打っている場合は電気信号を出さない。患者の方の症状によって異なるが,脈を打たないというケースがたまに起こり,その状況に備えるためペース・メーカーを装着するのだという。携帯電話の電波がリード線にあたるとノイズが発生する。これが誤動作の原因となる。ノイズが大きいと,ペース・メーカーは心臓が脈を打ったという信号だと認識してしまうのである。

 このようなケースが生じているときに,心臓が脈を打っていないと問題となる。ペース・メーカーは脈を打っていると誤判断し,本来出すべき心臓を刺激する電気信号を出さない。

 つまり,(1)ペース・メーカーがノイズを脈動と誤認識する,(2)脈を打っていない,という二つの状況が重なったときに,患者の身に危険が及ぶのである。脈を打たない状態が3秒以上続くと,失神してしまう可能性があるという。

 ここで一つ付け加えたいのは,筆者がすべてのペース・メーカーの誤動作原理を把握しているわけでないことだ。大手ペース・メーカー開発元への取材をもとに記事を書いている。なかには,ペース・メーカー本体に電波が直接影響を与えるケースもあるかもしれない。

無線LANの影響はどうなのか

 無線LANも悪影響を与えるのだろうか,というコメントもいただいた。最近は無線LANを標準で搭載したノート・パソコンも増えている。電源を入れていれば無線LANも有効になっており,携帯電話と同様に常に電波を出し続けている場合もある。

 2.4GHz帯を使う無線LANの電波の出力は1MHz当たり10mW以下である。前出の総務省や厚生労働省が取り組んだ調査では連続転送時に出力が20mWとしている。PHSの4分の1ということになる。無線LANがペース・メーカーに与える影響に関する調査は実施されていないものの,病院内の医療機器への影響については細かな調査結果が公表されている。

 結果は医療機器に対してほとんど影響を及ぼしていない。これに対してPHSは,5〜25%の割合で監視機器や血液循環機器などの医療機器に影響を与えている。

携帯事業者が電磁波影響の測定値を公開

 最後に,携帯電話の人体に対する影響についても簡単に報告しておきたい。専門家によると,人体に対する電磁波影響は電磁波の強さではなく,電磁波を人体が浴びること(暴露という)によってどの程度のエネルギーを吸収しているかが問題になるという。これを示すのが「SAR」という指標である。

 SAR(Specific Absorption Rate)とは人体が電磁波を浴びた際にどの程度のエネルギーを吸収するのかを示したものだ。比吸収率ともいう。SARは2002年8月に各携帯電話の事業者が一斉に公開した(NTTドコモKDDIJ-フォン)。

 SARはW/kgという単位で示す。携帯電話の場合,頭部に対する局所的な暴露として,2W/kg以内であれば安全とされている。体の1kgの部位に2W/kgの電磁波をあてると,2Wのエネルギーを吸収する。2W/kgについては,国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)という機関がガイドラインを定めている。総務省はICNIRPなどを参考にして2W/kgの基準を設定し,2002年6月以降出荷する携帯電話に対して基準のクリアを義務付けた。PHSは電波の出力が低いので,対象外となっている。

 本誌では9月上旬に各社の公表しているSARをまとめてみた。合計50機種を調べてみたところ,0.3〜1.7W/kgの範囲でバラツキはあるものの,すべての端末が2W/kgの基準をクリアしていた。PDCやCDMAといった無線の方式,アンテナの位置による差はないようだ。

 一つだけいえるのは,新しい端末ほどSARが低い傾向にあることだ。例えば,NECがJ-フォンに供給しているNシリーズを見てみると,J-N03IIからJ-N05までそれぞれ0.97,0.87,0.8となっている。東芝がKDDI(au)に供給している端末は2001年末に出荷したC5001Tが1.62だったが,最新のA5301Tは0.482である。各メーカーともSARを考慮しながら端末を開発していることがうかがえる。

(市嶋 洋平=日経バイト)

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