通信サービスと機器の導入形態すなわち「買い方」が,大きな変化の時を迎えている。契機となったのが,二つの大きな制度改正である。うち一つは今年2月に既に実施された税制上の規定変更で,もう一つは2003年に国会に改正案が提出される予定の法律である。

 制度の話の前に,企業ネットワークを取り巻くここ数年の動きを整理しておこう。99年ころからIP-VPNや広域イーサネットといった新型の通信サービスが登場し,企業ネットワークの切り替えが相次いでいる。それまでの主流だったATM(非同期転送モード)やフレーム・リレーに比べて,低コストで広帯域なネットワークを作りやすくなったからだ。

 中には,当初の予定を途中で打ち切り,通信サービスを切り替えた企業もある。それでもコスト削減や帯域増強というメリットを得られるからだ。結果として,企業ネットワークの更新サイクルが短くなった。ユーザー企業やシステム・インテグレータの声を聞くと,社内ネットワークの見直しのスパンは「3年程度」という意見が増えている。

ルーターやスイッチの法的寿命は10年に

 通信サービスの切り替えサイクルが変わると,通信サービスにつながる通信機器の利用期間,いわゆる“寿命”もそれに合わせて変わってくる。通信サービスを見直すタイミングで,そのサービスにつながる通信機器も取り替えるのが一般的だからだ。

 ところが今年の2月に国税庁が出した通達では,ルーターやスイッチなどのネットワーク機器の「法定耐用年数」が10年に延びた。これが一つ目の制度改正だ。これまではLAN設備を構成する機器は,同時に一括して取得及び更新が行われるものとして、まとめて耐用年数を6年にできていた。

 法定耐用年数とは,企業が所有する固定資産の税法上の寿命。固定資産は取得価額の9割までを,耐用年数に達するまで毎年の費用に計上できる。耐用年数が延びると,1年ごとに費用として計上できる金額が減ることになる。耐用年数に達する前に固定資産を廃棄する場合,一般には残存簿価を特別損失として計上しなくてはならない。

 法定耐用年数に合わせて,機器のリース期間も4年から6年に延びた。税制上の適正リース期間は,法定耐用年数の6~12割という制約があるからだ。

 この10年という耐用年数は,他のLAN機器に比べて非常に長い。サーバーは6年で,サーバー以外のパソコンが4年である。ルーターなどの通信機器の更新サイクルが短くなる一方で,税制上の利用期間が延びたということは,機器の買い取りやリースが難しくなったという意味を持つ。

 3年程度の利用なら,買い取りやリースよりも短期間での利用が可能なレンタルが有利になる。買い取りやリースでは,中途で廃棄/解約をした場合,残存簿価を処理したり,リース残金をまとめて支払わなくてはならないからだ。実際,買い取った機器を10年で償却する場合と,6年リース,3年のレンタルを,3年後に利用をやめるという条件の下で試算したところ,レンタルが最も割安という結果が出た。

 さらに通信事業者が通信サービスとセットでルーターなどをレンタルする「ルーター・パック」という形態も増えている。ある通信事業者では通信サービスとセットで,ルーター・パックを利用している企業が約1割にのぼったという。その分機器を買い取りやリースで調達する企業が減っている勘定だ。

事業法改正で単年契約が常識に

 さらに通信事業者を管轄する総務省が,2003年の6月ころに「改正電気通信事業法」を国会に提出を予定する。これが二つ目の制度改正だ。同法を所管する総合通信基盤局電気通信部によると実際の施行は,準備期間を経た2004年前半ころになる。

 同法が成立すると,第一種通信事業者を規定していた「料金表」と「契約約款」がなくなる。やさしく言い換えれば,企業が必要とする通信サービスの料金や機能を,通信事業者との交渉で自由に決められるようになる。これまでは通信事業者が事前に総務省に届け出た料金表と契約約款にならって,各ユーザー企業にサービスを提供するという形態だった。

 ユーザー企業は,自分にとって最も有利な通信サービスを,数ある中から選択できるわけだ。自分から条件を提示して,よりよい条件を提示する事業者に切り替えることも容易になる。

 ネットワークに詳しいコンサルタントは「企業は通信サービスを単年契約にして,1年ごとに見直す形態が一般化するだろう」と見る。毎年切り替えなくても,他のサービスへの切り替えをほのめかすことで,同じサービスのままでも有利な料金を通信事業者から引き出すことも可能になる。

二種事業者へのう回分が安くなる

 通信設備を所有する第一種通信事業者は,電気通信事業法に縛られている。あらかじめ総務省に認可を受けた料金表通りに通信サービスを提供しないと,事業法違反になってしまう。

 「いや,うちは料金表に書いてある通りの料金で通信サービスを利用していない」という企業も多いだろう。日経コミュニケーションが6~7月に実施したユーザー企業へのアンケートでも6割以上の企業が,料金表よりも安くサービスを導入していた。逆に料金表通りにサービスを導入している企業は5.5%程度だった。

 料金表通りでなくても企業や通信事業者が取り締まられないのは,第二種電気通信事業者をう回するなど手法を使っているから。一種事業者と二種事業者の契約は料金表と通信約款で取り決められているが,一種から二種に販売手数料などのペイバックをすることで現実的には安く通信サービスを卸している。この手数料を原資に二種事業者は企業に,サービスを値引きして再販している。

 電気通信事業法が改正されると,一種事業者と二種事業者の垣根がなくなる。これは単なる実態を事業法が追認しただけではない。実際に通信設備を持つ一種事業者が,これまでの販売手数料に当たるペイバック分をユーザー企業に振り向けられるようになる。

 事業法改正の狙いには一種事業者と二種事業者の競争を加速するという狙いがあるが,ユーザー企業にとっても,通信サービスが割安になるというメリットを期待できそうだ。

 ここでは,なぜ通信サービス・機器の“買い方”が変わるのか,という背景を述べ,買い方を工夫することにより,従来よりも安く条件の良い通信サービスを選べるようになる可能性があることを指摘させていただいた。通信機器の導入形態を含め,1年半後の事業法改正に備えてどういう準備をしておくべきか,という具体的な方策に興味がある方は,日経コミュニケーションの10月21日号に掲載する特集記事『「ネットワーク単年更改」に備えよ』をご一読いただければ幸いである。

(松本 敏明=日経コミュニケーション 副編集長兼編集委員)